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[寄稿]「交差性」分析を拒否するユダヤ人指導者たち

登録:2023-06-21 05:34 修正:2023-06-22 10:29
[世界の窓]スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授

 先月14日、ポルトガルのポルトで欧州ユダヤ人会議の年次総会が開かれた。その場で欧州のユダヤ人指導者たちは、反ユダヤ主義を他のヘイト(憎悪)および差別とは別に扱うよう求める決議案を採択する一方、ユダヤ人共同体に対し「交差性」(インターセクショナリティ)の概念を拒否するよう要求した。これらの人々は、多くの国家が反ユダヤ主義を容認し、国連は反ユダヤ主義を保護しており、ヘイトの対象となっている他のグループでさえ反ユダヤ主義を人種主義の一つの形態と認定していない場合が多いと主張し、反ユダヤ主義を他の差別とは別にして固有に扱うよう要求した。

 彼らが交差性を問題にする理由は何か。交差性とは、社会の理論と現実の分析に用いられる概念だ。交差性の概念を通じて個人を分析すると、私たちは人々が経験する抑圧や特権が、多重的かつ交差的な次元で発生することがわかる。ウィキペディア英語版に記載されている交差性の定義は次のとおりだ。

 「交差性は、ある個人の多様な社会的・政治的アイデンティティが結合した場合、どのようにして多様な差別と特権の様相が作られるのかを理解するための分析の枠組みだ。交差性は特典と不平等の多重的な要素を識別するが、そうした要素として、ジェンダー、階層、性、人種、民族、階級、宗教、教育水準、財産、障害、体重、年齢、容貌などがある。これらの社会的アイデンティティは、互いに交差し重複しており、個人に特権を付与することもあり、抑圧を付与することも起こりうる」

 交差性分析は、これらの不平等の要素を機械的に加えはしない。「ユダヤ人」に対する反ユダヤ主義的な観念には、宗教、民族、性、教育水準、財産、容貌の特徴が結合している。すなわち、ユダヤ人というレッテルを張られるということは、「体を洗わない」「宗教的な規則に独断的にこだわる」「投機にたけている」といったような、一連の観念に帰属することを意味する。

 ここで、反ユダヤ主義の固有性を主張する人々にとっては、問題が発生する。低所得層の黒人女性で同性愛者の人が四重の抑圧を受けているという事実が明白であることとは異なり、現代の裕福な西欧諸国のユダヤ人が受ける抑圧は、それほど明白ではない。これらの人々は、経済的にも文化的にも特権的な地位にいる場合が多いためだ。そうした理由から、欧州ユダヤ人会議は、反ユダヤ主義を交差的に分析することを拒否する。そうした場合、抽象的な人種主義的ヘイトが、様々な抑圧の形に対する具体的な分析によって代替され、反ユダヤ主義が例外的な地位を失うことになるためだ。

 欧州ユダヤ人会議の主張のとおり、反ユダヤ主義には明らかに例外性が存在する。だが、反ユダヤ主義の例外的な地位を利用してダブルスタンダードを擁護したり、ユダヤ人が平均的に享受する特権に対する批判的な分析をすべて禁止することは問題だ。2020年、ドイツの時事週刊誌「シュピーゲル」に掲載された反ユダヤ主義に関する対談の題名は「誰が反ユダヤ主義者なのかを判断する人はユダヤ人であり、潜在的な反ユダヤ主義者であってはならない」だった。それはいい。だが、ならば、西岸地区のパレスチナ人にも同じ原則を適用すべきではないのか。

 皮肉なことに、「抑圧」と「特権」をあわせて交差的に分析する場合、むしろ反ユダヤ主義を理解する洞察を得られる。ファシズムは、「ユダヤ人」を腐敗、無秩序、搾取を持ち込む外部の侵入者として追い出し、「抑圧される人々」と「特権を享受する人々」の間の階級闘争の原因をユダヤ人に向けることによって、人々が自分たちが受けている抑圧が実はそれらの人々の社会の秩序に内在しているという事実を見えなくした。

 欧州ユダヤ人会議の主張は、社会的闘争の原因がその社会に内在しているという洞察を不可能にする。こうした主張が、彼ら自身の交差的な枠組みに頼っているためだ。彼らは一部のユダヤ人の特権的地位を分析するだけで反ユダヤ主義だと非難し、ひいては「ユダヤ人」が「裕福な資本家」と描写される場合が多いという理由から、資本主義に対する批判までも反ユダヤ主義と規定する。欧州ユダヤ人会議は、自分たちが自ら新たな反ユダヤ主義の土台を築いているという事実を知っているのだろうか。

//ハンギョレ新聞社

スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1095452.html韓国語原文入力:2023-06-12 02:37
訳M.S

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