朴槿恵(パク・クネ) 政権の失敗を象徴するものの一つは「手帳人事」だ。朴元大統領は大統領になる前に、政治現場で会った人々の名前を手帳に書いておき、面談やフォーラムなどそれなりの「検証」を経て、人事の際に起用する方式を好んだ。ただし、その候補群が誰にも知らされていないことが問題だった。大統領個人の直観と感に依存した独断的な人事は、推薦と検証という公的システムを形骸化させた。国務委員候補たちが相次いで辞任に追い込まれたり、物議を醸したりしたのは必然的な結果といえる。それでも、朴元大統領の手帳は「もしかすると私の名前もあるかもしれない」と政治関係者たちに期待を抱かせた「人事データベース」だった。少なくとも人材を探そうとする努力はしていたわけだ。
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が13日、国防部、文化体育観光部、女性家族部長官を交代させた。3省庁とも問責の人事が予見されていたところで、次の手順は刷新になるはずだった。ところが、候補の面々を見ると、シン・ウォンシク国防部長官候補は12・12クーデター(全斗煥が実験を握った軍事クーデター)を「空白期に国を救うためのもの」とし、(朴正煕の)5・16クーデターは「偉大な革命」であり、民主化は「人民民主主義」だと主張した人物だ。李明博(イ・ミョンバク)政権時代に文化体育観光部長官を歴任し、12年ぶりに再び指名されたユ・インチョン候補は8月、あるメディアとのインタビューで、「国のお金で国家利益に反する作品を作るなんてありえない」と語った。ユ候補が長官時代、文化芸術界のブラックリストに関与した疑惑を受けてきたことを考えると、非常に意味深長な発言だ。キム・ヘン女性家族部長官候補は出勤初日「ドラマチックにEXITする(出ていく)」と述べ、女性家族部の廃止をほのめかせた。女性家族部長官の責務については何も言及しなかった。「(ユン大統領夫人の)キム・ゴンヒ(女史)人脈」の疑惑が持ち上がっていることに加え、大統領府報道官時代に配偶者が白紙信託の代わりに義姉に株式を渡して転売したことが明らかになり、仕事を集中発注したことも明らかになっている。刷新どころか、基本的な人事検証すら行っていないのではと疑念を抱かせる人物を候補に指名したのだ。「30代の長官が多く輩出されるだろう」という公言はいつの間にか姿を消し、第1期「ソ6男(ソウル・60代・男性)」内閣に続き、これら3人の平均年齢は67.6歳だ。特にユ・インチョン候補の再指名は「李明博のいない李明博政権」と言われるほどで、与党からも「そんなに人材がいないのか」という嘆きの声が上がっている状況に至った。
大統領室は「過去政権の関係者か否かは、我々にとっては大きな基準ではない」とし、「最も重要なのは専門性と責任性を持って、現在その場で歴史的使命を果たすことができるかどうか」だと述べた。その結果が「18省庁(部処)のうち少なくとも13省庁の長官と次官が李明博政権の関係者」(共に民主党のパク・クァンオン院内代表)につながったわけだ。抜擢の背景として専門性、所信と決断力など、様々な徳目を並べているが、このような人材が李明博政権だけに集まっていたはずはない。政治経験がなく多様な分野の人脈を持っていない限界と、李明博政権を「良い政権」と捉える個人的好感が結びついた結果とみるのが妥当だ。政界入りの過程で、李明博政権関係者たちから支援を受けた現実的な理由もあるだろう。こうした制約条件があるのは認めるとしても、就任してからもう1年4カ月もたっているのだ。就任当初から側近と私的人脈を優先したのに続き、「経験があるのだからうまくできるだろう」と過去政権の関係者の再起用ばかりなのは、人材発掘は二の次という怠惰の告白に他ならない。
19日に始まったイ・ギュニョン最高裁長官候補の人事聴聞会は、「人事惨事」の完結版になる可能性が高い。非上場株式と子どもの国外財産の申告漏れ、土地投機および農地法違反疑惑、「親の七光り」による息子の特恵採用疑惑など、基本的な資質が疑われている。「大統領の友人」であること以外に、イ候補が最高裁長官になるべき理由も明らかではない。
人事は大統領が国民に送るメッセージであり、高度な政治行為だ。歴代大統領が人事リスクを減らすために苦心したのも「失敗した」人事が政権を揺るがしかねないことを分かっていたためだ。盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は人事首席秘書官を新設し、推薦と検証機能を分離するなど「システム人事」を標榜したし、李明博大統領も政権末の人事秘書官を人事企画官に格上げし、責任性を強化した。影の実力者が横暴を働き、独断的な人事と酷評された朴槿恵政権時代にも人材発掘用の「手帳」はあった。
尹大統領の就任以後、ずっと「人事が亡事」という批判を受けてきたが、検察側近中心に構成された人事は推薦も検証も本来の役割を果たせずにいる。今からでも人事システムの全面改編に乗り出すべきだ。大統領の独善的な人事が政権の足を引っ張る悲劇を断ち切らなければならない。