「非常に貧しかったり、男に逃げられたり、強姦されたり、いかなる場合であっても、女性が子どもを産む際に、私たち全員が受け入れるトレランス(寛容)をそなえていれば、女性は何とか(子どもを)育てられると思う」
キム・ヘン女性家族部長官候補が、過去に自身が共同で起業したウィキツリーのユーチューブチャンネルに出演し、「中絶が違法とされているフィリピンでは、韓国人男性が女性を酔わせて(妊娠させて)逃げても、フィリピン人女性は子どもを産む」という、望まない妊娠をしても出産すべきだという意味にとらえうる発言をしていたことが明らかになり、波紋を呼んでいる。
2012年9月17日にウィキツリーのユーチューブチャンネルで公開された動画を確認すると、キム候補は「非常に貧しかったり、男に逃げられたり、強姦されたり、いかなる場合であっても、私たち全員が受け入れる『トレランス(寛容)』をそなえていれば、女性は何とか(子どもを)育てられると思う」と述べ、妊娠中絶が禁止されているフィリピンを肯定的な例として引用している。この動画は、同年8月に憲法裁判所が「堕胎罪」に対し、「胎児の生命権が女性の自己決定権に優先するとの趣旨」で4対4で合憲決定を下した後に撮影された。
キム候補は「フィリピンは無条件に堕胎が禁止なので、妊婦が堕胎しにやって来れば医師が告発するためすぐに捕まり、すべて懲役となる。妊婦も医師に告発されることを恐れて(病院に中絶手術を受けに)行けない」と紹介した。そして「韓国人男性が女性を酔わせて子どもを産ませて逃げるためコピーノ(韓国人男性とフィリピン人女性との間に生まれた2世)が多いが、方法がないからフィリピン人女性は(子どもを)産み、社会はその子どもを寛容に受け入れる」と付け加えた。
カトリック信者が大半を占めるフィリピンは、妊娠中絶を法的に禁止している。中絶した女性は懲役刑に処され、中絶手術を施した医療スタッフも処罰の対象となる。妊娠中絶と再生産の権利の確立を目指す団体「再生産権センター(The Center for Reproductive Rights)」は、2008年に1000人以上のフィリピン女性が違法な中絶手術による合併症で死亡したと発表している。
キム候補はこれを韓国の状況と比較してもいる。キム候補は「韓国なら外国人と誤って子どもを作ったら捨てたり養子に出したり中絶したりするだろうが、フィリピンはそうではない」とし、上記のように述べている。
キム候補者は15日にも、人事聴聞準備団事務所への出勤時に記者団から妊娠中絶に対する考えを問われ、「女性の自己決定というもっともらしい美辞麗句に隠された堕胎の実状をじっくりみたいと思う」と、妊娠・出産に対する女性の自己決定権を否定するような発言をしてもいる。
これは、2019年4月に女性の妊娠中絶権を憲法上の基本権として認めた憲法裁判所の決定に反する発言だ。憲法裁判所はその際、「妊娠した女性による妊娠を維持するか終結するかの決定は、自ら選択した人生観・社会観にもとづく、自らの置かれた身体的・心理的・社会的・経済的状況に対する深い苦悩の結果を反映する全人的決定」だとし、「個別的状況に応じて妊娠中絶という選択肢が保障されなければ、その女性の人生は荒廃し、人格が傷つくという結果に至る恐れがある」と述べている。
キム候補の人事聴聞会準備団はこの日午後、立場を表明する文書を発表した。同準備団はその中で「過去の放送での発言は、女性の自己決定権を否定するという意味ではまったくない」とし、「出産と養育の意志があるにもかかわらず、経済的困難や社会的偏見などを理由に命を放棄することがないよう、共に守り育てていくという社会的雰囲気が必要だという内容」だと釈明した。