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[寄稿]韓国、検事政権の統治戦略と厳罰主義

登録:2023-09-06 08:39 修正:2023-09-06 09:41
イム・ジェソン|弁護士、社会学者
ゲッティイメージバンク//ハンギョレ新聞社

 「虚勢を張る者の代価は監獄に行くことになるだろう」

 ハン・ドンフン法務部長官の発言だ。彼は最近急増する殺人予告について、投稿者を例外なく起訴し、「初動で強力に捕らえる」と語った。強力な対応を支持する声は多いが、落ち着いて考えてみよう。虚勢を張る者の監獄行きは正しいのか。模倣犯罪が広がった際には教育など、対応手段は多様でありうる。刑罰は最後の手段であるというのは常に文明国家の重要な原則でなければならない。

 問題となる虚勢を張る人間の半分が未成年なら、さらに慎重でなければならない。注目されたくて殺人予告を投稿する青少年が、成長期に監獄に閉じ込められる経験をして前科がつけば、「本当の」犯罪者になることもありうる。これは犯罪学のスティグマ(烙印)理論、学習理論によってすでに検証されている。しかし、大韓民国の法務部長官が真っ先にやっているのは棒を振りかざすことだ。

 社会問題に対処する過程で処罰の導入や強化を最優先の政策とし、犯罪に対する無寛容と苛酷な刑罰を指向する言説と実践を、厳罰主義という。1990年代に米国で施行された三振法は、厳罰主義を象徴するものだ。カリフォルニア州では当時、2回の前科があったとすれば、3度目の犯罪には軽重関係なしに25年以上の懲役刑が宣告された。3本のゴルフクラブを盗めば懲役25年、150ドル分のビデオテープを盗めば懲役50年が言い渡された。

 韓国は、2000年代半ば以降に厳罰主義的転換がなされたと評される。政権政党がどこであれ、厳罰主義は大きな流れとなった。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権にみられる厳罰主義も、韓国社会の長年の傾向が反映されたものに過ぎないとみなしてしまうこともできる。しかし、尹錫悦政権の厳罰主義は以前のそれとは異なる。言説の量的な面だけを見ても比較にならない。全国の日刊紙と放送のニュースで確認される「厳罰主義」という単語は、2021年までは100件未満だったが、2022年は100件、2023年は8月現在で236件へと急増している。韓国社会での厳罰主義論議(論争)は今が頂点だ。

 イ・ジュホ教育部長官は今年3月、校内暴力に対する措置の強化を推進しつつ、「厳罰主義は教育の観点からも必ず向かうべきもの」と主張した。ハン・ドンフン長官は先月23日、現政権は凶悪犯罪への対応で厳罰主義に傾いているとの批判に対し、「重大犯罪を遮断し厳罰に処することは、国民の安全を守るために必要だ」と答えた。犯罪を扱う経歴ばかりを積んできた元検事たちが国の要職を掌握した状況にあって、厳罰主義は現政権の政策的目標だ。

 犯罪を厳しく処罰するという、一見極めて常識的にみえる厳罰主義は、なぜ問題なのだろうか。複雑な問題に処罰だけで対応するからだ。青少年の非行の原因は様々であり、介入も教育的なやり方がまず検討されなければならない。現政権は14歳ではなく13歳から刑事処罰の対象とすると宣言した。尹錫悦大統領は「麻薬犯罪は必ず処罰されるよう強力に捜査」せよと指示している。そのような中では、麻薬中毒は犯罪ではなく病気としてアプローチすべきで、処罰ではなく治療が必要だという意見は立つ瀬を失う。

 多くの出生未届け児童の放置、殺害事件が最近になって明らかになった。直ちに犯罪者に死刑が宣告できるよう刑法が改正された。だが、親が懲役10年なら子を殺害し、無期懲役なら「刑が重すぎる」と考えてきちんと育てるようになるのだろうか。処罰は数多くの政策手段の中の一つでなければならない。ところが厳罰主義は、処罰だけで十分だと錯覚させる。制度変化の機会も失わせる。政府の無能さも見えなくする。

 与党は「釜山(プサン)回し蹴り事件」以降、最も広範な「犯罪者身元公開」法案を推進中だ。世界的に廃止されつつある「仮釈放のない終身刑」も憲政史上初めて立法が予告されている。ハン・ドンフン長官は先月30日、「死刑執行施設を点検せよ」と指示した。実質的な死刑廃止国の地位を投げ捨て、来年の総選挙を前に凶悪犯の死刑を執行する可能性も十分にある。凶悪犯の顔と恐ろしい犯罪内容、彼らを断罪する強い国家のスペクタクルが社会を覆うだろう。厳罰主義が統治戦略にまで成り上がる過程だ。それで社会は安全になるのか。

 米国の人口は世界人口の5%だが、世界の刑務所収容者の25%は米国の刑務所にいる。2021年現在の米国の殺人率は10万人当たり6.8人、韓国は1.3人だ。失敗した米国の厳罰主義をまねるのか。社会問題を犯罪へと単純化し、処罰でそれをなくすと主張する検事たちの限られた経験と見識のみで、統治と政治を行ってはならない。

//ハンギョレ新聞社

イム・ジェソン|弁護士、社会学者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1107263.html韓国語原文入力:2023-09-05 19:29
訳D.K

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