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[コラム]韓国のフィリピン人ケア労働者たちの不安な未来

登録:2023-08-24 06:46 修正:2023-08-24 10:44
先月31日午前、ロイヤルホテル・ソウルで、外国人家事労働者導入モデル事業関連公聴会が開かれている/聯合ニュース

 詩を書き、絵を描き、判決文も書く、賢い人工知能(AI)が代わりを務めるのが難しい人間の労働は何だろうか。最近、米国世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が「産業や職種へのAIの影響」を調べたところ、理髪・美容師と保育・家事労働者、消防士、配管工などは比較的AIの影響が少ない職種と分析された。一方、大学教育や分析のテクニックが必要であり、給料の高い職種ほどAIに取って代わられる可能性が高いことが分かった。特に育児と看病をはじめとするケア労働は、AIの影響に関するほかの研究でも自動化が難しい領域に挙げられる。ケア労働に欠かせない共感力はAIが真似するのが難しいためだと専門家たちは説明する。

 ケア労働の価値が再評価され、関連職業も細分化されているが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権のケア関連政策は時代の流れに逆行している。韓国政府が年内にフィリピン国籍の労働者100人を家事代行スタッフやベビーシッターとして連れてくる方針を示したのが代表的な事例だ。内国人、在外同胞(F-4)や結婚移民者(F-6)のような長期滞在者、訪問就業同胞(H-2)だけが就職できる家事と育児のケア労働分野に、非専門就職(E-9)ビザを追加するためのモデル事業の一環だ。仕事と家庭を両立する政策にあまり力を入れていない政府が、これを少子化対策として打ち出したのも問題だが、それ以外にも考慮すべき点が少なくない。

 まず、雇用許可制の根幹を成す非専門就職ビザは、韓国人労働者を確保できなかった中小企業に人材を供給することが基本原則だ。政府は家事代行やケア労働分野において労働者の供給が不足しているというが、これは絶対的人数が足りないというよりは、低い処遇により需給が円滑でないための問題だ。かつて家事労働は書類上存在しない代表的な非公式労働だった。1953年に労働基準法が制定された当時から「家事使用人には適用しない」という条項(第11条の適用範囲)が付いていた。「雑用」とか「女性(母親)の仕事」という前近代的な認識のためだ。2021年の家事労働者法の制定で、ようやく労働者性の認定と処遇改善に向けた第一歩を踏み出した状況なのに、再び「安い労働力」で問題を解決するという発想をどのように受け止めれば良いだろうか。

 実際、雇用労働部は最低賃金(時給9620ウォン)を適用する方針を示したが、モデル事業に使われる予算(宿舎費など1億5千万ウォン)を握っているソウル市のオ・セフン市長は、公然と「より低い賃金」を求めている。現在、家事代行やベビーシッターの時給は約1万5千ウォン(約1620円)となっている。オ市長は昨年9月、国務会議で「月38万~76万ウォン(約4万~8万2千円)のシンガポール式外国人ベビーシッターの導入」を建議し、物議を醸した張本人でもある。非専門就業ビザが開放されれば、業界の全般的な賃金水準の低下を招く可能性も高い。雇用条件が悪ければ悪いほど、国籍を問わず長く働こうとしなくなり、これは質の低いケアサービスにつながる悪循環を生む。

 前政権でも検討して中止した理由は何なのか、なぜ家事と育児の分野は定住基盤の外国人労働者だけに開放されてきたのかをちゃんと考えたのかも疑問だ。以前、企画財政部は2016年の経済政策の方向性として「外国人家事代行スタッフの導入」の可否を検討したが、政府省庁内でも低賃金による不法滞在、人権侵害、国内労働者の仕事が奪われることなどへの懸念が高まり、議論が中断された。労働の専門家たちは「工場や農場における人権侵害にもきちんと対応できない制度が、果たして個人の家というプライベートな空間で起きることに効果的に対応できるかは疑問」(キム・ヤンスク社会学者)だと指摘する。現行の雇用許可制が事実上、事業場の変更の自由を制約しているためだ。

 「(フィリピン労働者には)月給100万ウォン(約10万8千円)を与えても自国での賃金の数倍になる」(オ・セフン市長)と楽観するのも安易な考えだ。私たちは農村の人手不足を解消するために投入された外国人労働者たちが、徐々に事業場を離れる過程を見てきた。労働時間が決まっており、残業や特別勤務でさらに手当てをもらえる製造業の方が好まれるためだ。ケア労働市場がまた別の不法滞在を量産する関門にならないという保証もない。最近は育児と単純家事が厳格に分離される傾向にあるが、言語と文化的違いを考えると、フィリピン労働者に主にどのような業務が与えられるかも明確ではない。人手不足を「外国人の家事代行スタッフ」の導入で解決するというふうに単純に考えられる問題ではない。「フィリピン人ケア労働者」たちの不安な未来がすでに浮び上がるといえば、杞憂だろうか。

//ハンギョレ新聞社
ファンボ・ヨン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1105329.html韓国語原文入力:2023-08-2300 2:39
訳H.J

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