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[コラム]尹錫悦政権の異常兆候が示すもの

登録:2023-07-05 02:09 修正:2023-07-05 03:40
ソン・ウォンジェ|論説委員
尹錫悦大統領が4日、青瓦台迎賓館で行われた2023年下半期経済政策の方向性に関する第18回非常経済民生会議に、チュ・ギョンホ副首相兼企画財政部長官と共に向かっている=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 最近、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の統治姿勢は明確な異常兆候を示している。まず、強圧統治姿勢が日増しに目立ってきている。前政権、野党に対する捜査の集中は果てしなく続いている。THAAD配備問題にまで刃を光らせている。警察は集会・デモに対して強制鎮圧で威嚇する一方、大統領が「建暴」とのレッテルを貼った建設労働者を大々的な捜査で追い詰めている。故ヤン・フェドン氏の焼身惨劇が起き、韓国労総所属の労働者も流血鎮圧の対象となった。

 最近は私教育(塾や習い事。公教育に対する概念)界の「スター講師」にまで税務調査・捜査の嵐が吹き荒れている。今回も大統領が自ら「私教育の利権カルテル」に直接言及した。実のところ、自らの無分別な入試介入発言が波紋を広げていることの責任を転嫁するためであることは、誰もが知っている。福島第一原発の汚染水放出に対する懸念の声すら「怪談」と決め付け、「司法措置」をうんぬんしている。国民の暮らしと直結する問題すら司法処理の対象として考えてばかりいるのだ。

 強圧的な態度が極右への退行と同時に起きているという点も妙だ。尹錫悦大統領は先月28日の自由総連盟の創立記念式で、文在寅(ムン・ジェイン)政権に「反国家勢力」の烙印を押した。国民が選出した政府の正統性を否定する自傷的発言だ。翌日には「金正恩(キム・ジョンウン)政権打倒」、「独自の核武装」を主張する人物を統一部長官に指名した。また「中国共産党が朴槿恵(パク・クネ)退陣デモに影響力を行使した」といった極端な陰謀論を繰り広げてきたユーチューバーを国家公務員人材開発院長に任命した。尹大統領が任命した検察出身のパク・インファン警察制度発展委員長は、「文在寅はスパイ」だと述べた。キム・ムンス経済社会労働委員長、キム・グァンドン真実・和解のための過去事整理委員長に至るまで、現政権の発足後は極右主張を展開する人物の起用がいともたやすく行われ、かつ頻繁だ。李明博(イ・ミョンバク)元大統領もニューライトを多く用いたし、朴槿恵(パク・クネ)元大統領も極右ユーチューブチャンネルをよく見ていたといわれるが、これほどではなかった。これまで以上に政権の理念的地盤が萎縮していることを物語っている。

 このような異常な態度が、政権発足から1年で露骨になっていることも研究対象となる。権力機関を前面に押し出した強圧統治と理念的極端化は、いずれも政権の正当性の基盤が弱い時に用いられる統治形態だ。政権が国民の多数の同意の上で国政を率いていく能力を失った時に起こる。わずか1年で強制力を動員し、極端な強硬支持層を結集させてようやく政権が回っていくレベルに至っているという兆候だ。このような点で、強圧統治と極右人事は強い権力掌握を示すシグナルではなく、政権の脆弱性を示すサインだ。尹大統領が選挙連合を自ら解体し、与党内の合理的な批判勢力をも相次いで排除したことで起きた結果だといえる。

 現政権が弱いことは、就任後一貫して歴代最低水準の大統領国政支持率を記録してきたことに端的に表れている。先月30日に発表された韓国ギャラップの世論調査の結果を見てみよう。大統領の国政遂行を「支持する」は36%、「支持しない」は56%で、その差は20ポイントに達した。民主主義が根付いた国においては、大統領の力は、権力機関に対する掌握力に劣らず、国政に対する国民の支持をどれだけ確保しているかにかかっている。今のように与党が少数の状況ではなおさら重要な要素だ。尹大統領はこの重要な力の源泉が小さいうえ、枯渇している。だからなおさら、どうにか握っている強制力にしがみつかざるを得ないのだ。しかし、そうすればするほど統治基盤はさらに狭まってゆくというのは皮肉だ。

 国政支持率を左右する要因は国政の成果と意思疎通だ。尹政権が悪循環の皮肉に陥ったのも、結局は国政で成果を出せないという無能のせい、国民と意思疎通してないせいだ。上で見た韓国ギャラップの調査でも、「支持しない」の理由としては「外交」(22%)、「福島第一原発の汚染水放出問題」(11%)、「経済/民生/物価」(9%)、「独断的/一方的」(6%)などがあがっている。1年以上無能とコミュニケーション不在が貫くキーワードだ。

 当初から尹大統領の国政ビジョンそのものが脆弱だったうえ、たとえ労働・教育・年金改革のような抽象的な目標を持っていたとしても、それを実現する政策能力と政治的同意を引き出す責任倫理がいずれも薄弱であったことも原因だ。善と悪の二分法で世事を裁断してきた検事の経験と視野に閉じ込められていることも一因だ。周囲に直言するレッドチームも見当たらない。むしろ「閣下、痛快です」といったお世辞の達人ばかりが目につく。このような人々が司法処理万能国政に肩入れし、あおっている。しかし、いくら権力機関を動員して司法処理をわめき散らしても、国政の無能と無責任は決して隠せるものではない。

//ハンギョレ新聞社

ソン・ウォンジェ|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1098718.html韓国語原文入力:2023-07-04 18:19
訳D.K

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