韓国の政府与党がまたしても前政権を狙った政局づくりに没頭している。慶尚北道星州(ソンジュ)の在韓米軍THAAD(終末高高度防衛ミサイル)基地に対する環境影響評価を文在寅(ムン・ジェイン)政権が意図的に遅延させたとし、与党が監査院による監査と検察による捜査を主張しているのだ。修能(大学修学能力試験=入試)の混乱や、差し迫る福島第一原発の汚染水放出などで政府与党の政治的負担が増している中、前政権たたきを強化することで内部の結束を固めるための布石と分析される。
与党「国民の力」のキム・ギヒョン代表に続き、パク・テチュル政策委議長は27日、文在寅政権がTHAAD基地に対する環境影響評価を遅延させたとする疑惑を提起し「(当時の)国防部長官や大統領府の国家安保室長ら外交・安保関係者などの上層部が介入したかどうか、その責任の所在を明確にしなければならず、監査院による監査と、必要な場合には検察による捜査を通じて真相をきちんと究明すべきだ」と主張した。
しかし、文在寅政権時代にTHAAD基地に対する環境影響評価が行われなかったのは複合的な要因が作用した結果だとの反論の声があがっている。
2017年4月に慶尚北道星州に配備されたTHAADは、6年以上にわたり臨時配備された状態だった。THAADを正式に配備するためには基地内に各種の建物やインフラを建設しなければならないが、そのためには環境影響評価法に則って環境影響評価を経なければならない。この手続きの第一歩として、評価を担う環境影響評価協議会を設置する必要があるが、文在寅政権はこの協議会を設置できなかった。THAAD基地のある慶尚北道星州郡草田面韶成里(チョジョンミョン・ソソンリ)の住民を協議会に参加させようとしたものの、住民が基地正常化に反対したからだ。
文在寅政権時代に環境影響評価が行われなかったのは、当時米国がTHAAD基地の事業計画書を提出しなかったためでもあったという。環境影響評価は事業計画書がなければならない。
参与連帯平和軍縮センターのファン・スヨン氏は「THAAD配備は朴槿恵(パク・クネ)、文在寅、尹錫悦(ユン・ソクヨル)の各政権を経て行われた」とし、「文在寅政権を特定して環境影響評価の遅延について捜査し、何を明らかにすべきなのかが分からない」と語った。ファン氏は、検察が捜査を行うなら、朴槿恵政権のTHAAD用地分割を捜査すべきだと主張した。韓国が在韓米軍に供与するTHAAD用地の面積は実は計70万平方メートルだが、朴槿恵政権時代に国防部は環境影響評価を避けるために用地面積を30万平方メートルあまりに分割して供与するという便法を使ったという。
前政権の外交・安保政策を問題視して状況を反転させようとする政府与党の動きは、今回が初めてではない。尹錫悦政権発足直後の昨年6~7月、監査院は「西海(ソヘ)公務員殺害事件」と「脱北漁師送還事件」に対する監査にそれぞれ着手し、検察も捜査に入った。外交・安保政策の他にも監査院は、文政権の「統計数値歪曲疑惑」を提起して監査を開始。文政権が任命したハン・サンヒョク放送通信委員長とチョン・ヒョンヒ国民権益委員長に対する監査を行い、「狙い撃ち監査」だとの物議を醸した。
最近も尹錫悦大統領のいわゆる「入試発言」をめぐって教育界や受験生の間で混乱が起きていることについて、イ・ジュホ社会副首相兼教育部長官は26日の「私教育(塾や習い事)対策」を発表する場で「文政権の5年間、私教育問題は事実上放置されていた」と述べ、批判の矛先を前政権に向けた。大統領室はこの日、私教育業界と教育当局の「利権カルテル」を強調しつつ、「教育部には様々な情報が提供されていると認識している。司法的な措置が必要ならば、その部分も考えうる」と司法処理を示唆した。
政府与党が事案ごとに監査院と検察を動員していることについては、与党内からも憂慮の声があがっている。「支持層を直ちに結集するのには役立つが、後のさらに大きな後遺症に耐えなければならなくなる恐れがある」との理由からだ。ある初当選議員は「文在寅政権がうまく処理できなかったことを正すべきだというのはその通りだが、『復讐の血戦』をしろと言って国民が政権を任せたわけではない。前政権の失政に頼った反射利益は長続きしない。結局、政府与党が成果を出せなければ『前政権たたき』は負担として戻ってこざるを得ない」と述べた。慶尚道選出のある重鎮議員は、「監査院や検察などの刃物を使えば当面は楽だが、刃物は両刃なので常に自分に戻ってくるということは覚えておくべきだ」と述べた。