数日前、ノルウェーのオスロで韓国の外交官の一人が北朝鮮の人権に関連して学術発表をした。発表画面には、あてもなく流浪する北朝鮮の貧しい子ども、いわゆる「コッチェビ」たちと、脱北者の記憶によって復元された政治犯収容所の多くの恐ろしい場面が続いた。発表者が言う通り、北朝鮮の人権は世界最悪であることは間違いないとみられた。討論者たちもこれに関しては全般的に当然納得した。
しかし質疑応答の時間に、平壌で勤務したことのある外国の外交官が手を挙げた。彼は、北朝鮮の人権の惨状に関する発表内容には文句をつけなかった。本人も北朝鮮勤務時代に人権問題が深刻だということはよく分かっていたと話した。彼が気にしたのは、北朝鮮がこれほど反人権的な地獄ならば、一体どうして数十人(正確にはこの10年間で31人)の脱北者が自ら北朝鮮再入国を試みるのかだった。いくら家族に会いたいなど個人的事情があったとしても、「天国から地獄へ」帰ることは論理的に納得できないという。
この質問を聞いた発表者は、自信を失ったような表情だった。「韓国の資本主義に適応するのに問題があった」「韓国社会で差別を受けたと主張している」 「韓国の労働環境に適応することが難しかったのかもしれない」という、ほとんど弁解のような返事が続いた。しかし、この答えは聴衆の疑念を晴らすことはできなかったようだった。一体、差別がどの程度で、労働環境がどれほど悪ければ、東アジアで最も貧しく人権問題で世界で最も知られている北朝鮮に自ら戻るだろうか?
これを機に私も質問を一つ投げてみたかった。2015年の韓国政府の調査によると、脱北者の死亡原因のうち自殺が15%を占めているが、これは韓国人の平均より3倍も高い数値だ。このような現実をどう説明できるだろうか。昨年の「北韓人権センター」の調査によると、脱北者の18%が再入国の意向があったというが、その原因を何だと考えるのかということも私のもう一つの質問だった。しかし、時間切れでこのような質問はできずじまいだった。
もちろん、南北の人権状況をあえて単純比較すれば、北朝鮮の人権実態の深刻さは際立つしかないだろう。十分に予想されることだ。私たちはしばしば「天から人に贈られた」という意味で「天賦人権」を語るが、人権とは自然発生的なものでは全くない。
単純生存を目指す人間集団の中で人権という概念自体が成立するはずがない。人権が守られるためには、一人の社会構成員の多様な欲求を充足させるほどの社会的富の蓄積とともに、その社会内での安全保障の不安の程度や、国際的人権標準を共有できる水準の国際交流などが必要だ。こんにちの北朝鮮のようにきわめて貧弱な物質的土台の上で、軍事的総動員ムード、すなわちジョルジョ・アガンベンが言った「例外状態」を維持しなければならず、議会政治や三権分立の原則を欠いたまま大きな軍部隊のように運営される社会で、人権が十分に守られると予想する人は少なくとも人権専門家の中には誰もいないだろう。
それに比べれば、脱北民が経験する差別と蔑視、各種の人権侵害が象徴する韓国の人権状況の方が一層意外だ。北朝鮮は貧困と支配グループによる社会的資源の独占など、第3世界の脱植民国家の典型的な問題を深刻な形で示しているが、韓国は世界の人々の大半が羨望する欧州レベルの1人当たり国民所得に、議会政治が働く第一世界の社会だ。そのような社会では、人権も第一世界の平均程度に守られることが合理的に期待しうるが、実状はこれとは全く違う。国際労働組合総連合(ITUC)が毎年発表する世界労働権指数で、韓国は最悪に近い5等級を維持し続けている。最近、焼身自殺で政権の労働弾圧に抵抗した建設労組幹部は、遺書で「正当な労働組合活動をしただけなのに、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の検事独裁政治のいけにえとなり、自己の支持率の数字を上げるために多くの人が死ななければならず、また罪なく拘束されている」と書いた。この文章一つが、数千ページの報告書よりも韓国の労働人権の現実を正確に語っている。
残酷な労働弾圧は、韓国型新自由主義の不可欠なパートナーだ。新自由主義とは、労働者階層の破片化と労働の非正規化、労賃抑制と超搾取による資本蓄積のレジーム(体制)を意味する。このレジームは、人権とまともに共存するのは事実上不可能だ。韓国でこうした反人権的新自由主義があまりにも簡単に定着した理由は、まさに分断状況を理由に多くの国家機関が持つことになった暴圧性だ。北朝鮮よりはるかに強い国家である韓国では、北朝鮮ほどの「例外状態」を維持する必要はないが、南北対峙の状況で韓国は富裕国の中で最も高い水準の軍事化状態を維持している。
だから国際労働機関(ILO)基本条約29号(強制労働の禁止)を批准しておきながら、いじめと暴言が蔓延した職場で社会服務要員が事実上の強制労働をさせられており、「強制労働国家」という汚名を得ることになった。軍事化指数が非常に高い社会でなければ、こうしたことが果たして起こりうるだろうか? もちろん双方の対峙と軍事化による人権侵害の程度は、国力がさらに弱い北朝鮮の方がはるかに高いだろう。
北朝鮮の人権と韓国の人権を共に改善しようとするなら、朝鮮半島での緊張緩和、すなわち南北対話が急務だ。特に相対的弱者である北朝鮮の場合には、南北が「雪解けモード」に入ってこそ社会に対する軍事的統制の紐をある程度緩める状況が造成される。逆に、今のような対峙ムードの中で北朝鮮は「韓流取り締まり」など、社会に対する国家の統制を強化し、韓国では労働弾圧がされやすい保守的ムードが社会を掌握することになる。対峙し合っている南北は、一つの分断体制を形成しあっているため、その関係の状態が双方の社会に莫大な影響を及ぼすという事実を私たちは忘れてはならない。その関係が改善されてこそ、人権状況改善の糸口をつかむことができるだろう。