2020年代初め、韓国は「先進国」として公認された。「先進国」という単語は「富裕国」の意味も含むが、単に一定水準以上の1人当り国民所得を誇る富裕国だからといって、それだけで「先進国」になるわけではない。カタールの1人当たり国民所得(約5万7千ドル)は、韓国(約3万4千ドル)よりはるかに多いが、世界の人々は君主国であるカタールを「先進国」とは呼ばない。
事実、朴槿恵(パク・クネ)元大統領弾劾など複雑な権力交代の過程が平和的で民主的に実現できたということは、韓国の「先進性」を名実共に立証した最も決定的な局面だった。韓国とともにかつての植民地として「金持ちの国」の隊列に上がった珍しいケースの一つがシンガポールだ。シンガポールの1人当たり国民所得は韓国のほぼ2倍に近いが、シンガポールの「先進性」を信頼できない理由もカタールと同じだ。たとえ表面的には議会制民主主義が存在するとはいえ、実質的に一度も権力の交代がなされたことがない国を「先進国」とはみなしがたい。
しかし、先進国というのは勲章のように自慢するだけのものではない。苦しい産業化過程を経て、下からの闘争を通じて民主主義を勝ち取ったとすれば、国内人だけでなく外国人にも一定の責任を負うことになる。例えば「金持ちの国」であるシンガポールは難民をほとんど受け入れておらず、もう一つの「金持ちの国」であるカタールは昨年197人しか難民を受け入れていない。しかし、これは世界の市民にとってそれほど驚くべきことではない。たいてい民主主義と人権意識とは同時に発展するもので、民主化されていない社会に難民の人権まで責任を負う人権的感受性を期待するのは難しい。だが韓国は民主化された先進社会であるだけに、韓国に対する期待水準はこれらの国とは異なる。さらに、韓国は9年前から難民法を施行しているため、ここ10年余り世界各地で起きた戦争による世界的な難民危機の状況で、韓国の役割を期待する人も少なくない。
しかし、現実は期待とは異なる。裕福な民主主義国家である韓国では、難民受け入れのための法的制度も整備されており、失業率(2.1%)も欧州連合(EU)の3分の1に過ぎないが、難民受け入れの実績は惨憺たるものだ。2010~2020年の韓国の難民認定率は1.3%に過ぎない。閉鎖性で悪名高い日本(0.3%)よりはやや高いが、非民主国家であるロシア(2.7%)よりも低い。ちなみに、韓国の保守主義者の間で「グローバルスタンダード」の代名詞とされる米国の同じ期間の難民認定率は25.4%で、カナダは46.2%に達する。自由主義政権である文在寅(ムン・ジェイン)政権の最後の年である2021年、2341件の難民申請のうち審査を通じて難民の地位を認められた人は32人だけだった。すなわち、政権の性格とは関係なく、韓国の政策決定権者たちは難民の地位をなかなか与えようとしない。
その背景には、一部の有権者の反発に対する懸念がある。昨年、アフガニスタンの親西側政権崩壊により韓国に入国することになった事実上のアフガニスタン難民391人に、「難民」ではなく「特別寄与者」という名称を付けたほどだ。「特別寄与」の強調は、起きるかもしれない一部の反発を未然に防止しなければならなかったことを意味する。特に、韓国国内の特定宗教において一部の原理主義的信者のイスラム嫌悪がひどい水準であるため、当時の政権ではその部分を念頭に置き、その名前にまで「特別寄与」を強調したと知られている。
しかし、だからといって国内でまだ一握りにもならない難民認定者(1246人、「出入国・外国人政策統計月報」2022年7月号)や人道的滞留者(2465人)に対する一般人の平均的な態度が敵対的なわけでもない。実際、韓国での難民受け入れに対する肯定反応は北欧とほぼ同じ水準だ。韓国リサーチの「世論の中の世論」チームが昨年8月に実施した世論調査によれば、積極的な難民受け入れ政策に対する賛成は48%だが、反対は34%に過ぎない。これに加えて、国内居住難民の国籍取得に対する支持は75%、難民子女への教育機会提供に対する支持は77%にもなる。事実、問題は一般人より官僚と政治家にある。
権威主義時代に根ざす韓国の官僚社会における外国人関連政策のモデルは、欧米圏ではなく日本だった。例えば低賃金外国人労働者を「研修」という美名で呼び込み、その労働者性も認めずに搾取した韓国の産業研修生制度(1991年導入)は、1981年から日本で施行された同名の制度を移植したものだった。構造的人権蹂躙などの弊害が明らかになり、雇用許可制に乗り換えたが、それも欧米圏とは異なり、外国人労働者の定住を阻んでいるシンガポールと台湾がモデルだった。
すでに多文化時代に入ったにもかかわらず、韓国の官僚社会は依然として人権よりも社会的統治の利便性、行政の利便性を重視し、「同化」が難しいとみられる非同胞・非専門職の外国人男性や家族の受け入れにかなり消極的だ。このカテゴリーには、外国人労働者とともに多くの難民申請者も含まれる。強硬な保守政治家たちは官僚のこうした態度にこれといった問題意識を持つことはなく、民主化闘争を経験した自由主義陣営の政治家たちは相当数が、いまだに民主化闘争が国内の独裁打倒だけを意味した時代を精神的に生きている。彼らは、海外の独裁者たちが繰り広げる戦争の結果として発生した難民の受け入れと支援も、韓国の反独裁運動の後継者たちの責任だという世界市民意識を十分に持っていない。
しかし今や、このような意識を持って先進民主国家として国際社会に対する責任の一部を担わなければならない時代だ。例えば今、ロシアのプーチン独裁政権が行ったウクライナ侵攻の結果、700万人を超えるウクライナ難民が主に欧州に避難している。同時に名分のない侵略戦争に強制動員されないために、ロシア人約80万人が今年ロシアを脱出した。韓国政府はポーランドで生計の危機に瀕したウクライナ難民のために25億ウォン(約2.6億円)の寄付金を出したり、韓国にすでに来ている約3800人のウクライナ人の滞在期間を延長したりはしたが、ほとんどの先進国と違い、高麗人(朝鮮半島にルーツを持つ旧ソ連領定住同胞)以外のウクライナ難民は国内に受け入れていない。今後は韓国の国際的威信にふさわしく、はるかに積極的な支援政策を展開し、ウクライナ難民とプーチンの侵略を拒否するロシア人を一部でも受け入れるべきではないだろうか。韓国の多民族社会の発展、旧ソ連地域との関係の深化などの次元でも役立つ措置だろう。先進国になった以上、韓国はその地位にふさわしい国際的責任を果たす姿を行動で示さなければならない。