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[寄稿]倫理的衰退の明白な兆候

登録:2023-01-02 07:31 修正:2023-01-11 10:51
[世界の窓]スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授
9月24日、ロシア警察がサンクトペテルブルクで動員令反対デモに参加した市民を逮捕している/EPA・聯合ニュース

 倫理的進展には有益な形態の教条主義が伴う。正常な社会であれば、強姦や拷問は容認されるべきかという議論は存在しえない。そのようなことがあってはならないという事実を、全員が“教条的に”受け入れているためだ。一方、「合法的強姦」なるものが言及され、拷問が隠れて行われるどころか公開の場で展示されるのであれば、それはその社会が倫理的に腐敗していることを明確に示すものだ。その時点から、以前には想像さえできなかったことが速い速度で可能になる。

 現在のロシアがそうだ。ロシアは11月、ワグネル・グループの傭兵でウクライナ側に転向したある男性を処刑する動画を公開した。映像のなかで、彼が自分は地下室に拉致されたと話した瞬間、後ろに立っていた男性が彼の頭に大きな金槌を振り下ろし殺害した。ワグネル・グループの創設者でありウラジーミル・プーチンの最側近であるエフゲニー・プリゴジンは、これについて「犬が犬にふさわしい死を迎えたもの」だと言及した。ロシアはイスラム国(ISIS)と同じ処刑方式を使い始めたのだ。

 ロシアとの同盟をいっそう強化しているイランも、やはり同じ方向に動いている。イランはデモに参加した人々を逮捕、処刑しているが、このなかには多くの未成年女性も含まれている。イランは未成年に死刑を執行する地球上めったにない国家の一つだ。未婚の若い女性を死刑対象とみなさないイラン法を根拠に、イランは死刑前日に刑務官が女性と強制結婚して強姦した後に死刑を行う蛮行を、数えきれないほど犯してきた。

 民主主義国家とされるイスラエルも、宗教的原理主義にいっそう近づいている。ベンヤミン・ネタニヤフが、パレスチナ人を虐殺したテロリストであるバールーフ・ゴールドシュテインを尊敬する極右政治家イタマル・ベングビールを新内閣に参加させたのがその証拠だ。また、ネタニヤフは、ユダヤ人にとって最大の脅威となるのは極右勢力であるにもかかわらず、筋違いなことにイスラム教徒や左派との戦いを促す。ネタニヤフはなぜ極右の反ユダヤ主義を気にしないのだろうか。彼自身がこれらの人々に依存しているからだ。極右は反ユダヤ主義的だが、同時にイスラエルをイスラム教徒に対する防壁とみなすため、イスラエル国家を強く支持する。

 不幸なことに、ここまでは話の一部分に過ぎない。この反対側にいる政治的に正しい左派も、同様に倫理的に衰退する様相を呈している。これらの人々は、すべての形態の性的、人種的アイデンティティに対して寛容を説きながらも、自らがいっそう権威主義的になり、様々な規制を要求している。違反の欲望を呼び起こす父権的な禁止よりもある意味はるかに強力なこの禁止は、覚醒した市民であることを自ら要望する「ウォーク」(woke、「目覚めている人」という意味)や自分と意見が違う人への支持を取り消す「キャンセル・カルチャー」(cancel culture)の姿へと帰還する。

 ウォークとキャンセル・カルチャーは、「唯一のものなき多数の時代に登場したレイシズム」だ。伝統的なレイシズムは、「一つ」の団結を脅かす外部からの侵入者(たとえば移民者やユダヤ人)と戦う。反対にウォークは、「一つ」という古いカテゴリーを完全に捨てることができなかったと思われる人々(たとえば、愛国者や家父長的な価値を擁護する人々)と対抗する。ウォーク左派は、このような野蛮主義に反対を宣言するが、実は平然とその野蛮に直接加担し、自分たちの抑圧的な論理をまき散らし実践する。これらの人々は、多元主義と差異を支持するとしながらも、極端に権威主義的な主観的立場で発言し、論争を許容せず、恣意的な前提に基づく排除を日常的に行う。寛容で自由主義的な社会では許されないとみなされる行為だ。

 キャンセル・カルチャーは、性的マイノリティ個人が経験する苦痛や悲劇、そしてこれらの人々が常に直面している暴力と排除を相殺しようとする、必死だが明確に自滅的な試みだ。ウォークとキャンセル・カルチャーの論理的狂信は、文化的要塞への後退であり、“安全な空間”への後退だ。それに対する多数の抵抗には少しも触れることができず、むしろ強化するだけだ。

//ハンギョレ新聞社

スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1073086.html韓国語原文入力:2022-12-25 18:53
訳M.S

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