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[寄稿]メロドラマに転落した韓国型核共有

登録:2023-05-05 08:25 修正:2023-05-06 07:23
キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授
尹錫悦大統領が先月27日(現地時間)、ワシントンDCの国防総省でロイド・オースティン国防長官らから報告を受けている=ワシントン/ユン・ウンシク先任記者//ハンギョレ新聞社

 先週、韓米首脳が出したワシントン宣言の中心は、韓米核協議グループ(NCG)の新設だ。これについて韓国政府と与党が「第2の韓米相互防衛条約」「韓米核同盟の締結」と広報していることについて、あえて冷水を浴びせるつもりはない。存在しなかった協議体が一つできたので成果だと言い張るのだから、反発しても何もならない。

 だが、この協議体が何に用いられるのか、今は推察することさえ難しい。宣言文には、北朝鮮の核の脅威の情報を共有し、拡大抑止戦略を議論するために設立すると記されている。言葉通り、この協議体は核戦争を遂行する主体でなく、次官補級の協議機関にすぎない。おそらく、核兵器が動員される戦争を遂行するためには、軍には新たな作戦計画と戦争ドクトリン、兵器体系と指揮統制システムが必要だ。朝鮮半島で核兵器を運用するために必要な特殊認可要員と核保存施設があるかを確認し、有事の際に動員する核兵器が何であるかも事前に定めなければならない。

 そうした軍事的な必要性を満たすための新たな構想と計画もなしに、定期的に次官補が会って会議をするというのは一体どういう意味なのか。朝鮮半島で核戦争を企画する中心的な主体は誰であり、核戦争を遂行しなければならない状況をどのように決めるのか。どのような手続きを通じて、誰が核の使用を建議し決めるのか。在来型の戦争を遂行する現在の韓米連合司令部の役割は何か。すべてが疑問だ。

 もちろん、宣言文は「戦略司令部と韓米連合司令部間の力量および企画活動をつなぐために強固に協力する」と標榜し、「米国の戦略司令部とともに遂行する新たな図上訓練」も明示している。だが、こうした華々しい言葉の裏側には、「国際紛争を解決するうえでの核兵器の役目を縮小させる」というバイデン政権の非拡散政策と、朝鮮半島非核化共同宣言、核拡散防止条約はよりいっそう徹底的に順守されるという誓約がある。韓国と米国が共同で核戦争を企画し決定するためには、米国の核政策におけるかなりの変化が前提となるべきだが、米国政府はまったくそうするつもりはない。さらに明確な事実は、米国が朝鮮半島で今すぐ使用可能な戦術核兵器を開発し配備する意図はまったくないという点だ。

 現在、米国本土で保管されている100発あまりの無誘導核爆弾は、旧型の戦略爆撃機に搭載して10時間以上飛行し朝鮮半島に来ても、中国とロシアによってすべての飛行経路が探知される。現代戦では、ステルス機能がない旧型の爆撃機で接近し核爆弾を投下するという発想自体が常識はずれだ。米国の新型ステルス戦略爆撃機B-21はまだ開発が完了しておらず、どれほど生産するかも不明だ。ジョー・バイデン大統領は政権発足当初、低出力核巡航ミサイルと潜水艦発射戦術核ミサイルの開発予算を全額削減した。

 現在の米国には、朝鮮半島の戦場に投入可能な戦術核兵器と呼ばれる兵器は存在すらしておらず、米国政府は最初から「戦術核兵器という用語自体も危険だ」として認めずにいる。戦術核がなければ、広島に投下された原子爆弾の数百倍の威力がある戦略核兵器トライデントを潜水艦から発射するとでも言うのだろうか。きわめて威力が強く、事実上使用できない核兵器だ。米国のオハイオ級潜水艦は、核兵器受入れを禁止した南北非核化共同宣言のため、核を搭載して韓国の港に寄港することはできない。米国本土から北朝鮮に向けて核ミサイルを発射した場合、どうなるのか。北極海航路を通過するミサイルは、北朝鮮に到着する前に中国とロシアの領空を通過しなければならない。第3次世界大戦のリスクを覚悟しなければならない。

 そのため、核兵器を含めた拡大抑止は、実体のない宣言に似た水準のものにすぎなかったのではないかという疑いを避けがたい。説明が不可能なワシントン宣言について、キム・テヒョ国家安保室第1次長は「事実上、核を共有したと国民が感じられることになると考える」と言い逃れた。首脳会談の前から韓国政府は、「韓国型核共有」と「情報同盟締結」という超大型新作映画の予告編を強引にねじ込んだ。まさにその瞬間、米国は中国にワシントン宣言の内容を事前に知らせ、「中国に対する核の脅威はない」と了解を求めたようだ。核共有に未練を捨てられないキム次長に対して、ホワイトハウスの局長が直接「核共有ではない」と釘をさした。事実上、米国に目玉を食らったといえる、メロドラマに変質した韓米首脳会談をみて、中国は微笑を浮かべているだろう。もはや、核に対する妄想と執着は捨てるべきだ。安全保障の現実に変化はないのに、喪失感が大きくなるだけだからだ。

//ハンギョレ新聞社

キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1090617.html韓国語原文入力::2023-05-04 19:15
訳M.S

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