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[コラム]尹錫悦大統領の「その他諸々」外交

登録:2023-05-04 03:58 修正:2023-05-04 13:00
尹錫悦外交の全賭けにはキム・テヒョという参謀がいて、枝葉の悪目立ちにはキム・ゴンヒ女史がいる。大義名分と実利のいずれもが蒸発し、尹錫悦外交はその他諸々の外交となる。もっとも、彼はドン・マクリーンのギターを贈られてはいた。
先月26日(現地時間)、韓米首脳会談後に開かれたホワイトハウスでの国賓晩さん会で、尹錫悦大統領がドン・マクリーンの直筆サイン入りギターをバイデン大統領から贈られ、喜んでいる/ロイター・聯合ニュース

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の外交は集中でありつつも枝葉だ。集中がすぎて「全賭け」になり、その全賭けすらも枝葉の問題に圧倒される。全賭けにはキム・テヒョという参謀がいて、枝葉の悪目立ちにはキム・ゴンヒ女史がいる。

 今年3月の尹大統領の訪日に先立ち、キム・テヒョ国家安保室第1次長は日帝強占期の強制動員問題の韓国の解決策について、「実は日本はびっくり仰天していた。韓国の国内政治に問題がないかどうかは分からないが、日本としては待ちわびていた解決策だと思う(と反応した)」と語った。日本との同盟強化のために、強制動員問題においては被害者である韓国側がすべての責任を取る解決策を誇らしげに語ったのだ。嵐は、韓日首脳会談で日本側が歴史問題に対する謝罪どころか、慰安婦、福島産水産物の輸入、独島問題に至るまで、滞っている借金の返済を迫るように言及したという日本メディアの報道によって吹き荒れた。

 キム次長は尹大統領の訪米でも、最大の成果として誇る拡大抑止の強化公約を「事実上の核共有」と述べ、またしても逆風を招いた。翌日、ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のエド・ケーガン東アジア・オセアニア担当上級局長が「非常に直接的に申し上げる。我々はこれ(ワシントン宣言の内容)を『事実上の核共有』とは考えていない」と反論した。ワシントン宣言と拡大抑止の強化は物議の対象になっただけだった。

 同盟の強化という尹政権の外交路線を舌禍によって色あせさせても、彼は日増しに現政権の外交の実力者となりつつある。訪米を前にキム・ソンハン国家安保室長ら大統領室の外交安保参謀たちが更迭された。この事態を招いたというレディー・ガガとBLACKPINKの公演行事は、“尻尾が胴体を揺さぶる”尹大統領外交の姿を示した。

 大統領夫人の行事として計画された同公演が物議を醸したことで、尹大統領の訪米は最初から枝葉に注意を奪われた。尹大統領の就任後初の海外訪問となったNATO首脳会議出席の際にキム・ゴンヒ女史が個人的な知人を同伴してからというもの、報道は大統領の外遊の度に彼女の問題に集中した。

 昨年11月に尹大統領がASEAN首脳会議に出席した際には、キム女史がプノンペンの貧しい家を訪問した際に撮影された、病気の子を抱きしめる写真は、オードリー・ヘップバーンを真似するために照明を設置して撮影した演出だとする非難の声があがった。この問題の根本的な背景を理解しようと思ったら、今すぐ大統領室のウェブサイトに行ってキム女史の写真を見れば良い。大統領の行事ではなくキム女史の姿ばかりが目立ち、芸能人のグラビア集のようだ。

 全賭けと枝葉が外交の主軸となれば、大義名分と実利のいずれもが蒸発する。今回の訪米の肝は、首脳会談後の記者会見の最初の質問とバイデン大統領の答えであらわになった。記者はバイデン大統領に「中国の半導体製造を制限することは、韓国に被害を与える。中国との競争のために韓国という同盟国が被害を受け、そうすることで国内の政治的支持を糾合しようとしているのか」と質問した。これに対しバイデンは「米国の製造業を成長させたい。米国が半導体を発明した。かつて半導体は輸入した方が安かったが、米国の半導体市場シェアは10%にまで落ちた。米国は再び市場の主導権を握らなければならない」と答えた。

 米国が自国産業を復興させることに誰が文句を言おうか。問題は、米国が韓国などの半導体やバッテリーのメーカーの手首をひねり上げて、米国に投資し、工場を建て、雇用を創出し、技術までさし出せと言っていることだ。補助金を受けるためには工程技術を公開しなければならない「半導体法」、米国の自動車メーカーだけに補助金を与える「インフレ抑制法(IRA)」が今回の訪米の懸案だったが、努めて言及を避けている。「フィナンシャル・タイムズ」の報道によると、むしろ米国は首脳会談に先立ち、中国に進出した米国の半導体メーカー「マイクロン」が制裁を受けた際に、中国市場でその不足分を埋めないよう、韓国の半導体メーカーに圧力をかけたという。

 このところネットフリックスで人気を博しているドラマ「ザ・ディプロマット」には、米大統領が「同盟など大したことはない。私が10歳の時、友人に指切りして『君が殴られたら僕が味方になってあげる』と約束したみたいなものだ」と言うシーンがある。米国は「韓国がやられたら核で殴ってくれ」という尹大統領の依頼に、恩着せがましくまたしても指切りし、バイデン大統領が記者会見で述べた通り韓国の投資1千億ドルを手にした。韓国はその指切りの約束を「核共有」と主張したが気圧された。

 だから、尹大統領の議会での演説での英語力には鳥肌が立つ。彼の「アメリカン・パイ」熱唱が世紀の外交儀典だと主張するなど、「その他諸々の事案」をもって尹政権は成果を自賛する。訪日ではオムライス接待ばかりが目立った。その他諸々の外交と言わざるを得ない。もっとも、彼は「アメリカン・パイ」を歌ったドン・マクリーンのギター(韓国語では「その他」と発音が同じ)を贈られてはいた。

//ハンギョレ新聞社

チョン・ウィギル|国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1090439.html韓国語原文入力:2023-05-03 17:47
訳D.K

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