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[コラム]失敗から始まった尹錫悦式外交と暗うつな「朝鮮半島シナリオ」

登録:2022-11-23 03:28 修正:2022-11-23 07:42
とりわけ台湾と朝鮮半島で同時に危機が起きれば、米国はどのような選択をするだろうか。このような暗うつなシナリオは必然的なわけではない。平和を守るためにどのような努力をするかによって未来は変わる。しかし現実はどうか。 
 
パク・ミンヒ|論説委員
尹錫悦大統領/聯合ニュース

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の東南アジア歴訪外交は出発もしないうちに失敗した。口さえ開けば自由と「普遍的規範と価値」を叫ぶ大統領が、特定の報道機関を名指しして専用機搭乗を不許可としたことで、言論弾圧のもうもうとしたホコリがすべてを覆ってしまった。

 帰国後は「専用機搭乗からの排除は憲法を守るためのもの」という大げさな詭弁で報道機関との闘いに全力を傾けている。今回の歴訪中に発表した「韓国版インド太平洋戦略」と韓米日プノンペン共同宣言は、1990年代初めの冷戦終結の流れに対応した北方外交以降で最大幅の外交の軌道修正だ。しかし、大統領がそれについてきちんと説明し、世論の同意を得ようと努めた跡形はない。限りなく無責任だ。

 今回の首脳外交の結果を最も鋭く把握しているのは、「招待されていない客」、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長だった。米国のジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席の初の対面による首脳会談で、米中の立場の違いが最も尖鋭に表れたのは北朝鮮の核・ミサイルと台湾の問題だった。尹錫悦大統領と習近平主席の韓中首脳会談でも、北朝鮮の核問題をめぐる意見の相違は大きかった。韓国と米国は「北朝鮮の核問題の解決のために中国は積極的な役割を果たせ。さもなくば韓米日軍事協力で中国けん制を強化する」というメッセージを送り、中国は北朝鮮の「合理的憂慮」を強調しつつ、米国の戦略兵器配備や韓米訓練などの方をまず中止すべきだと反論した。

 北朝鮮の立場をかばう中国のシグナルを確認した北朝鮮は、直後の18日、米本土を攻撃しうる新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17型」を発射した。幼い娘まで連れてきて発射実験を直に視察した金正恩国務委員長は「核には核で、正面対決には正面対決で答える」と述べて自信を示した。

 金正恩委員長は今の世界情勢をどう見ているのだろうか。ロシアによるウクライナ侵攻で、大国が領土と影響圏を広げるために周辺の国や地域を侵略する「帝国主義列強の時代」が戻ってきつつあり、これを防ぎうる既存の国際秩序は事実上崩壊しつつあり、帝国と核を持つ国が思いのままに行動できる世界が到来しつつあると判断しているだろう。

18日、新型ICBM火星17の発射実験を現地で指導した北朝鮮の金正恩国務委員長が、娘と親しげに発射台の前を歩いている/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 特に、朝鮮半島に対する中国の戦略の変化が重要だ。ウクライナ-台湾-北朝鮮核問題は連動していると警告してきた中央大学のペク・スンウク教授は「朝鮮戦争で休戦協定が締結されて以来、朝鮮半島に対する中国の基本的な立場は戦争の抑止だったが、今や中国は朝鮮半島で非核化原則を放棄するとともに、台湾の状況に関して北朝鮮を変数として利用しようとしている」と分析する。

 「台湾統一」は習近平主席が中国人民に対して必ず完遂すると約束した、統治の正当性の支えとなっている。14日の米中首脳会談でも習近平主席は「台湾問題は中国の核心利益中の核心であり、米中関係で決して越えてはならない最優先のレッドライン」だと述べた。

 中国はこうした戦略の変化に合わせて、北朝鮮の非核化ではなく「朝中同盟の強化」を選択した。中国が台湾統一に乗り出した場合、米国の抑止力を分散させるためには、北朝鮮が韓国を軍事的に脅かすことで「2つの戦線」を展開した方が中国にとって有利だからだ。今回の韓中、米中首脳会談についての中国の発表から「朝鮮半島の非核化」という表現が完全に消えたことに注目しなければならない。

 こうした情勢変化を受けて、北朝鮮は核戦略を変えた。2019年のハノイ朝米首脳会談が「ノーディール」で終わる前まで、北朝鮮の核・ミサイル実験は米国を交渉の場に引きずりだして取り引きしようという戦略の一部だった。しかし今年9月の核武力法制化、相次ぐ弾道ミサイルの発射、「戦術核部隊訓練」などは、北朝鮮の核が「戦争抑止用」以上のものになったという非常に憂慮すべきシグナルだと考えるべきだと専門家たちは警告している。核・ミサイルの専門家である科学技術政策研究院のイ・チュングン名誉研究委員は「技術的な面から現在の北朝鮮の戦術核開発、部隊編成、装備などを総合すると、実際に韓国に向けて発射しうるということを前提に開発と訓練を行っていると判断し、備えるべきだ」と語る。

 北朝鮮のICBM技術が完成すれば、金正恩委員長は、戦術核で韓国を直に狙っても米国は米国本土を攻撃できる北朝鮮のICBMの能力を考慮して介入できないだろうと計算するのではないか。とりわけ台湾と朝鮮半島で同時に危機が起きれば、米国はどのような選択をするだろうか。

 このような暗うつなシナリオは必然的なわけではない。韓国が朝鮮半島をめぐる危機の本質と国際秩序の変化をきちんと把握し、平和を守るためにどのような努力をするかによって未来は変わる。しかし現実はどうか。

 大統領は「韓米日三角協力」ばかりをスローガンのように叫ぶだけで、韓国の立場から「容米」「容日」しようとする戦略に苦悩する意志も能力もなさそうにみえる。野党は、国際秩序が急変し、過去の北朝鮮核問題の解決策はもはや通用しない状況を直視したり、現実的な代案を考えたりする姿勢を示さない。外交についての韓国社会の議論は「親米」「親中」「親日」と非難し合う陣営同士の闘いへと矮小化し、「韓国の視点」から長期的戦略を共に作り上げていく公論の場は失われてしまった。今のもっとも深刻な危機は、権力者の騒々しい政治攻防に全社会が流され、「生存の危機」に備えるべきゴールデンタイムまで流れていくのをただ眺め続けているのではないかということだ。

//ハンギョレ新聞社

パク・ミンヒ|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1068345.html韓国語原文入力:2022-11-22 14:04
訳D.K

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