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[寄稿]「無能な官僚」という大惨事

登録:2022-11-08 03:13 修正:2022-11-08 08:53
イ・ジュヒ|梨花女子大学社会学科教授
今月1日、尹錫悦大統領とハン・ドクス首相(右端)、イ・サンミン行政安全部長官(右から2番目)が、弔問のためにソウル龍山区の緑莎坪駅近くに設けられた梨泰院惨事犠牲者合同焼香所に向かっている=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 予期せぬ死の背後には、致命的な内傷を負って残された人々がいる。私は20代で母を亡くした。心筋梗塞による急死だった。米国にいた私を含め、家族の誰も臨終に立ち会えなかった。後を追って死んでしまいたいひどい苦痛の中の唯一の慰めは、私が死んで母親が生き残ったのではないということだった。情の深すぎた母は、深さの知れないこのような絶望を決して乗り越えられないだろうから。だから、子を失った悲しみに崩れ落ちてしまった親と、ひどい怪我をした子を心配する親が数百人を超えた10月29日の惨事直後の、責任ある高官の態度には、怒りを禁じえなかった。いったい彼らはどういう人間なのか。

 官僚制とは、形式化を通じて序列構造を客観化すること、一定の役割が期待されるポストを作り、そのポスト同士の関係を明確にすることを意味する。地位が人を作るという言葉はここに由来する。硬直的で無気力な人物がリーダーになっても構わない。下級者や統治を受ける者より優れている必要もない。劣っていても構わない。しかし同時に、このような序列のもと、服従は目的を達成する手段ではなくそれ自体が目的にもなり、また、公式の目的はどこかに消え去り、個人の利害追求と組織の存続そのものが主な目的へと変わってしまうこともある。力が少数の権力者に集中することで構成員は機械の歯車へと転落し、結局は人間性を鉄格子(iron cage)の中に閉じ込める結果も招く。だから官僚制を理論化したマックス・ウェーバーは、この制度と大衆民主主義との間にあつれきが生じることを憂慮した。民主主義は選挙やリコールなどによって官僚の任期を短縮しようとする慣性を持つ。大衆は政治家を選ぶことができるし、同時にその人を追い出すこともできる。このようなあつれきは官僚の政治力不足でさらに悪化する。官僚制の限界を知るウェーバーは、彼の祖国であるドイツでは洗練された政治が行えないのではないかと憂慮し、官僚制の最高位には有能な専門の政治家が就くべきだと主張した。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は、共感能力のない高位官僚の華麗な学閥と法的知識がどれほど役に立たないかを、国民に雄弁に語ってくれる。経済がガタついて数多くの労働者が働く現場で死んでいるにもかかわらず、経済省庁は企業の欲望をあおる規制緩和と減税政策を続けている。国民の安全に全く責任が取れていないからこそ生じた惨事について、行政安全部長官は責任を認めず、警察の下位職にばかり矛先を向けている。子どもたちの共感能力を育てるのではなく、100メートル競走を50メートル先からスタートできるような特権をもつ人たちを優先して教育の不平等と格差のさらなる拡大に没頭してきた教育部長官も、7日に任命された。現政権の極め付きは、惨事を経験した国民を冗談で凌辱する首相だ。

 大統領候補時代に「犬謝罪」というジョークをSNSに流して以来、私は大統領の謝罪が信じられなくなった。米国での卑語暴言以後は、謝罪しない大統領の本気度を信じるようになった。真の謝罪には行動が伴わなければならない。野党が要求する国政調査を受け入れて今回の惨事のすべての真実を明らかにし、遺族がこれ以上責任ある高位官僚らの顔を見たり名前を耳にしたりしないで済むよう、彼らを全員更迭・罷免すること。それこそがその始まりであろう。

 あまりにも急だっただけで、母の死は病によるものであった。にもかかわらず、私は10年あまりにわたって罪悪感とうつ病から脱することができなかった。そんなある日、もし私が死んで母が生き残っていたとしたら、私は果たして何を願っただろうかと考えてみた。私が死んだことはもちろん生まれたことさえ忘れ、母が幸せで充実した人生を送ることを願ったと思う。ゆっくりと悲しみの沼から抜け出しはじめたのは、その時からだった。親が子を愛する分だけ、子も親を愛する。若者たちの生の短さはとても残念だが、だからこそより輝いたであろう彼らの生を追悼する。極端な絶望の中で止まってしまった親たちの生を慰める方法が、果たしてあるだろうか。死によっても妨げられることのない深い愛が、親たちに届くことを心から願うばかりだ。

//ハンギョレ新聞社

イ・ジュヒ|梨花女子大学社会学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1066177.html韓国語原文入力:2022-11-07 20:02
訳D.K

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