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[寄稿]「経済安全保障同盟」が揺さぶる韓国の利益

登録:2022-11-01 06:18 修正:2023-02-01 09:59
韓国政府と企業の動きに批判がないわけではない。中身のある資本と技術が米国にすべて吸い取られ、韓国の先端産業は空洞化させられるのではないかという懸念が代表的なものだ。そのような心配にも関わらず、韓国政府と企業は、米国に事実上「オールイン」している。だが、その後に展開された状況には、心配させられるばかりだ。 
 
ムン・ジョンイン|世宗研究所理事長
尹錫悦大統領と米国のジョー・バイデン大統領が5月20日、京畿道平沢のサムスン電子半導体工場を訪問し、職員の説明を聞いている=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の外交政策の核心は、韓米同盟の強化だ。拡大抑止の充実化、韓米合同軍事演習の回数と強度の増加、米国の戦略資産の朝鮮半島への随時配備を中心とする軍事同盟、サプライチェーンの安定的確保と先端科学技術分野での協力を基盤とする経済安全保障同盟や、自由、人権、民主主義の拡散のための価値同盟などが、新たな韓米同盟の主軸を構成している。軍事同盟と価値同盟は、過去の保守政権でも提起されたことがあるが、経済安全保障同盟は、多分に新しい概念だ。しかし、その分野で赤信号が感知されている。

 韓国政府は、韓米経済安全保障同盟の強化に注力してきた。インド太平洋経済枠組み(IPEF)に先導的に参加し、「チップ4」を含む半導体部門での協力も本格化している。サプライチェーンの確保だけでなく、先端科学や防衛産業に至るまで、様々な分野で米国との経済安全保障協力を具体化している。

 民間セクターでの協力はさらに目立つ。5月末に訪韓した米国のジョー・バイデン大統領のセールス外交と韓米経済安全保障同盟を強調する尹錫悦政権の励みに力づけられ、7月にサムスン電子は、今後20年間に250兆ウォン(約26兆円)を投じ、米国テキサス州に11の半導体工場を作るという構想を明らかにした。現代自動車もジョージア州に6兆3000億ウォン(約6600億円)規模の電気自動車と電気バッテリーの工場への投資計画を発表した。SKのチェ・テウォン会長は7月26日、バイデン大統領とのテレビ対談で、29兆ウォン(約3兆円)規模の半導体、バイオ、グリーンエネルギ部門の新規投資計画を明らかにしたりした。LGグループも、ホンダと共同でオハイオ州での新たなバッテリー工場設立への投資を決めた。

 韓国政府と企業の動きに批判がないわけではない。中身のある資本と技術が米国にすべて吸い取られ、韓国の先端産業は空洞化させられるのではないかという懸念が代表的なものだ。そのような心配にも関わらず、韓国政府と企業は、米国に事実上“オールイン”している。だが、その後に展開された状況には、心配させられるばかりだ。

 直後には、北米以外の地域で生産された電気自動車と中国など懸念される国家から供給されたバッテリーや主要鉱物を用いた電気自動車を消費者が購入する場合、税額控除対象から除く米国のインフレ削減法(IRA)によって、現代自動車は大きな打撃を受けることになった。半導体分野での米国の輸出入規制など中国に対する牽制も、韓国企業に予期せぬ付随被害を与えている。輸出全体の60%、素材輸入の60%を中国と香港に依存している韓国半導体業界としては、米国のこのような措置は無視できないほどの強い衝撃にならざるをえない。米国は、サムスン電子とSKハイニックスに「事案別許可」という出口を開いてはいるが、不確実性は今もなお残っている。さらに、米国の急激な金利引上げは韓国経済の基盤を揺さぶっており、為替相場安定のための米連邦準備制度理事会との通貨スワップの議論については、新たな情報はない。

 問題は、米国のこのような動きが、一時的な現象ではないという点にある。経済部門での「アメリカ・ファースト」(米国第一主義)は、単にトランプの遺物というわけではなく、バイデン政権はもちろん、今後の米国の対外経済政策の基本方針として定着しているという事実に注目する必要がある。10月12日に発表されたとバイデン政権の国家安全保障戦略報告書を見てみよう。中国との競争に勝つための産業政策と労働者および中小企業保護のための公正貿易を強調しているが、肝心の自由貿易は、報告書の末尾に儀礼的に言及されているだけだ。最近、シカゴ国際問題協議会が発表した米国の外交政策の優先順位についての世論調査結果も、あわせてよく見てみる必要がある。米国本土の物理的防衛(30%)が今もなお最優先の課題だとするが、国際貿易での米国の経済的利益の確保(20%)が、民主的価値の拡散(15%)や潜在的侵略国の封鎖(9%)に比べいっそう重要な事案として挙げられている。

 これは、現在の米国の大勢が保護主義に変わったことを示唆している。米国の国内政治の地形がそれほどまでに変わったという意味だ。先日ワシントンで会ったピーターソン国際経済研究所のマーカス・ノーランド副所長は筆者に「今では米国議会で自由貿易を擁護する政治連合は見つけがたい。労働者の利益を擁護する反グローバリズムや反自由貿易の勢力が力を伸ばしている」と嘆いたことがある。

 保護主義に駆け上がる米国と開放型通商国家である韓国の間で、経済安全保障は互いに有利な互恵同盟になれるだろうか。韓国政府は、軍事同盟と価値同盟のために経済的損失を甘受できるだろうか。このような損失に対する韓国政界の反応はどうだろうか。1980年代末、韓国で激しい反米感情を触発した引き金は米国の通常開放圧力だったという事実が思い浮かぶ。韓米経済安全保障同盟は、必ずしも祝福ではないかもしれないという話だ。尹錫悦政権が真剣に悩まなければならない大きな問題だ。

//ハンギョレ新聞社

ムン・ジョンイン|世宗研究所理事長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1064930.html韓国語原文入力:2022-10-31 02:39
訳M.S