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[寄稿]北朝鮮核問題、抑止論と認定論を越えて

登録:2022-09-26 02:01 修正:2022-09-26 06:49
イ・ジョンチャン元国情院長は最近のインタビューで、「北朝鮮の核問題について言及せず、朝鮮半島の平和共存だけを話し合おう」、「北朝鮮問題は北朝鮮の立場から考えてこそ糸口が見えてくる、もはや米国にも中国にも言うべきことは言わなければならない」と述べた。今は常識と道理、そして実事求是の原則に従って突破口を見出そうという元老の経綸に基づいた慧眼がいつにも増して必要かもしれない。 

ムン・ジョンイン|世宗研究所理事長
北朝鮮の金正恩労働党総書記兼国務委員長が8日、平壌の万寿台議事堂で開かれた最高人民会議第14期第7回会議で施政方針演説を行っている/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 朝鮮半島情勢が危うさを増している。9月8日、金正恩(キム・ジョンウン)委員長は最高人民会議の施政方針演説で、国家核武力政策法令の採択を宣言し、これを「特記すべき事変」であり、「歴史的偉業」だと述べた。さらに「核は我々の国威であり、国体であり、共和国の絶対的な力であり、朝鮮人民の大きな誇り」だと付け加え、北朝鮮の核保有国の地位が不可逆的だと強調した。「先に核を放棄し、非核化することは絶対ありえなく、そのためのいかなる交渉も、その過程で取引するものもない」

 新たに採択された法令はこれまで曖昧だった核武力の使命や構成、指揮統制、核兵器使用決定の執行と使用原則、使用条件、核兵器の安全な維持管理および保護、核武力の質量的強化と更新、そして拡散(伝播)防止などについて具体的に取り上げている。いわゆる「責任ある核兵器保有国」として北朝鮮の地位を対内・対外的に宣言しようとする試みだ。特に、過去の報復攻撃中心の抑止戦略に加え、核兵器の先制的利用と戦術核の配置を公にした攻勢的軍事教義を導入したのが最も懸念すべき部分だ。

 韓国政府の対応は、北朝鮮の核に対する抑止力の構築に焦点が当てられている。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は9月18日、ニューヨークタイムズ紙とのインタビューで、「堅固な韓米同盟の枠組みの中で、拡大された抑止力を強化する案を模索していきたい」とし、「拡大抑止は、有事の際に米国領土内の核兵器を使用するだけでなく、北朝鮮が核で挑発することを抑止できるすべてのパッケージを総体的に網羅することだ」と述べた。韓米当局は外交・国防次官級の対話チャンネルである拡大抑止戦略協議体(EDSCG)を稼働することで尹大統領の対北朝鮮抑止構想を具体化しており、北朝鮮の核脅威、核使用の切迫、実際の核使用の3段階別に軍事的対応策を講じるための拡大抑止手段運用演習(TTX)も年内に実施するという。ただし、このような抑止強化の対応戦略は、再び北朝鮮の核戦力や教義の強化につながり、安全保障のジレンマにおける悪循環をもたらす。

 このため、尹錫悦政権は一方では北朝鮮に対する拡大抑止力を強調しながらも、他方では「大胆な構想」を通じて「北朝鮮が非核化を選ぶなら、明るい経済的未来が待っている」として、北朝鮮に対話を呼びかけてきた。しかし北朝鮮はこのような提案を「大胆な妄想」だと一蹴し、韓国との対話を拒否している。韓国政府が北朝鮮の非核化を譲れない絶対的な目標に設定し、北朝鮮の「先制核使用」の可能性を前提とした予防打撃と報復を基本教義として採択する一方、いかなる場合にも北朝鮮との核軍縮交渉はありえないという原則論的態度を強調していることからして、対話を通じて外交的交渉の扉を開くことも容易ではなさそうだ。

 9月19日、延世大学統一研究院で行われた講演で、ミヒール・ホーヘフェーン欧州議会議員は、韓国政府と対照的な主張を展開した。北朝鮮はすでに核施設、物質、弾頭、ミサイルをすべて保有しているだけでなく、6回の核実験と小型化・軽量化・多種多様化を通じて核戦力を大きく強化しており、名実共に核保有国だ。これらから目を背け、完全かつ不可逆的な非核化を外交交渉の即時目標に設定するのは非現実的だということだ。そのうえ、米国の核の傘の保護を受けている韓国のそのような要求を北朝鮮が受け入れるはずがない。したがって、現段階では北朝鮮と平和共存の道を模索することが望ましいと、ホーヘフェーン氏は説破した。このために、柔軟な対北朝鮮制裁政策を展開し、緊張緩和と信頼構築のための努力をより積極的に傾けるべきだというのが同氏の主張だ。

 これは答えになりうるだろうか。尹錫悦政権の非核化絶対論と拡大抑止強化論が事態の根本的解決を図るのに限界があるなら、核を持った北朝鮮との平和共存を主張するホーヘフェーン氏の「北朝鮮核認定論」も韓国としては受け入れがたい。特に、国民感情を考えると、これは我々には想像しがたいことだ。非核化論と現状受け入れ論、いずれも代案になりにくい。 文字通りジレンマだ。

 最近「時事ジャーナル」とのインタビューで、イ・ジョンチャン元国家情報院長は、「北朝鮮の核問題について言及せず、朝鮮半島の平和共存だけを話し合おう」、「北朝鮮問題は北朝鮮の立場から考えてこそ糸口が見えてくる。今や米国にも中国にも言うべきことは言わなければならない」と述べた。イ元院長の主張は、北朝鮮の核を直ちに取り除いてこそ平和が訪れると信じるよりは、平和を作り上げながら非核化の扉を開こうという「平和牽引論」、北朝鮮の意図を希望的観測ではなくありのまま見ようという「戦略的共感論」、米国と中国に盲目的に従う代わりに、我々が大局的見地から解決策を作ろうという「創意的主導論」に要約できる。今は常識と道理、そして実事求是の原則に従って突破口を開こうという元老の経綸に基づいた慧眼がいつにもまして必要かもしれない。

//ハンギョレ新聞社
ムン・ジョンイン|世宗研究所理事長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1060048.html韓国語原文入:2022-09-2519:05
訳H.J

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