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[コラム]「アマチュア」大統領

登録:2022-07-22 03:34 修正:2022-07-22 10:11
尹錫悦大統領が20日、ソウル龍山の大統領室庁舎に出勤中の囲み取材で、サムスン電子のイ・ジェヨン副会長らの特別赦免についての取材陣の問いに対して、一切言及しないことが原則だと答えている=大統領室通信写真記者団提供//ハンギョレ新聞社

 近ごろの世宗市(セジョンシ)の官庁街の雰囲気にはただならぬものがあるようだ。各省庁の官僚たちは事実上お手上げ状態だという声が聞こえてくる。ある元高官は「後輩たちに会うと、各省庁が主導的に何かができる雰囲気では全くないということだ」と語った。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が国務会議で長官たちに「スター長官がたくさん出てくれたらと思う。(中略)自信を持ってメディアに頻繁に登場し、国民に政策について説明してほしい」と呼びかけた。30%台前半にまで急落した支持率を反騰させるために、コミュニケーションの強化を注文したというが、各省庁が積極的に動いていないことを大統領も認めたわけだ。

 大宇造船海洋の下請け支会がストライキに突入したのは6月2日だ。行政安全部のイ・サンミン長官と雇用労働部のイ・ジョンシク長官がストの現場を訪れたのは今月19日だから、事態勃発から48日目の時点だ。大統領の公権力投入示唆発言が飛び出して、慌てて動いたとみなければならない。文在寅(ムン・ジェイン)政権出身のある人物は「前政権ではありえないこと」と舌打ちした。

 支持率下落の主な要因としてあげられる民生経済対策の不十分さも同じ脈絡だ。庶民は高物価、高金利、ウォン安という「三角パーフェクトストーム」の直撃を受けている。しかし政府には切迫感や危機感があまり感じられない。文在寅政権が2019年の日本による輸出規制、2020年のコロナ危機で、毎日のように非常対策会議を開いていたのとは対照的だ。国民の失望と怒りは当然だ。

 新政権が思い切り弾みをつけて意欲的に働くべき時に、一体何が起こっているのだろうか。大統領は11日から省庁の業務報告を受けている。過去の慣例を破り、大統領が長官から1対1で報告を受けるという型破りの方式だ。ところが、準備した業務計画を長官がきちんと報告できないことが多いという。大統領が長官の話を少し聞いただけで、もういいと言って話の腰を折り、自分ばかりしゃべっているというのだ。

 さらに大きな問題は、大統領の長話にはまとめるべき内容があまりないという点だ。政府が成果を出すためには、長官の充実した報告-大統領の明確な指示-省庁による効率的な執行、というプロセスが一糸乱れず進められなければならない。しかし、今はシステムが崩壊しているようだ。

 尹錫悦大統領が「準備ができていない大統領」だということは国民も知っている。検察総長を辞めてわずか100日あまりで政治に飛び込んだのだから、ある意味では当然だ。国民は準備ができていない大統領のリスクを知りつつも、文在寅政権を審判するために選択したのだ。

 問題はその次だ。尹大統領が自分の足りない部分を補うためには、有能な人材を果敢に登用して多くの良い意見を聞かなければならない。そして権限を十分に委任し、良い成果を生むようにしなければならない。

 中国の春秋戦国時代に斉の桓公が最初の覇者になったのには、宰相の管仲の功が絶対的だった。桓公は、自分を殺して兄を君主に擁立しようとした管仲を宰相に抜擢するという、卓越した用人術を発揮した。しかし、尹大統領は自分を側近たちで囲むばかりだ。また、長官たちの話を聞くというより、自分の話ばかりを前面に押し出している。

 支持率下落の原因としては、経済危機に伴う民生対策の不十分さ、頻繁な人事の失敗、与党の内紛など、様々なものがあげられる。その中心には、自身の準備不足リスクをきちんと管理するどころか、むしろ大きくしている「アマチュア大統領」がいる。大統領が国政のコントロールタワーの役割をきちんと果たせないという、政権のガバナンスの危機だ。

 大統領の国務会議での発言を機に、転換点を作り出さなければならない。条件は厳しい。何より政策の乱脈ぶりが深刻だ。その中でも経済分野が最もひどい。新政権は企業寄りの姿勢を打ち出し、財閥や富裕層に対する減税と規制緩和を推進している。大企業の成長を通じて経済を立て直すというトリクルダウン論だ。しかし、これはかなり前に死亡宣告を受けている。滴り落ちる水で水車を回すようなものだ。

 政策の方向性が不明確なため、衝突することも多い。新政権は財政健全性の強化をマクロ的な国政目標として提示した。これはまさに法人税や総合不動産税の減税などの財閥・金持ち減税とぶつかる。

 尹錫悦政権は産業部ブラックリスト事件、西海公務員殺害事件、北朝鮮漁師送還事件などで「文在寅政権叩き」にすべてをかけている。文在寅政権も政権初期には積弊清算を大々的に行った。しかし戦線を広げすぎたために社会対立を深め、国政に注ぐべきエネルギーを浪費した。改革の対象を過去の政権と保守に限定したことで、「自分に甘く他人に厳しい」との批判も自ら招いた。長きにわたって積もりに積もった各種の不条理と不合理を一掃し、未来を新たに切り開くことを求めたろうそく革命の精神に反する、との批判も生んだ。結果的に弾劾を支持した80%近いろうそく連合勢力は分裂し、2022年の大統領選挙での敗北の大きな要因となった。

 尹錫悦政権は、かつて与党(国民の力)も文在寅の積弊清算に反対していたことを忘れ、「文在寅の失敗」を踏襲しようとしているようだ。ただでさえ準備ができていない大統領としては、当面の課題解決のために必死で徹夜しても足りない中、力を浪費する余裕があるのか疑問だ。

 無所属のヤン・ヒャンジャ議員は、尹大統領に対して「大統領はプロらしくない」と苦言を呈した。尹大統領も「大統領をやるのは初めてだから」と述べたのをみると、それは分かっているようでもある。ならば、今からでもこれを謙虚に認め、「アマチュア大統領」のリスクを最小化する努力をすべきだ。それを通じて政策の乱脈ぶりを正すとともに、無理な「尹錫悦式積弊清算」もやめるべきだ。さもなくば、支持率の回復は遠のかざるを得ない。

//ハンギョレ新聞社

クァク・チョンス|ハンギョレ経済社会研究院先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1051871.html韓国語原文入力:2022-07-21 16:33
訳D.K

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