尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が示した経済分野の国政課題の哲学は「成長は民間が主導し、政権はなすべきこととなすべきでないことをよく区分しなければならない」(政権引き継ぎ委員会110大国政課題報告書)との言葉に集約される。これについては、様々な経済学者や企業が「コロナパンデミック以降、産業政策における『国の役割』がさらに増えている国内外の経済環境の変化からむしろ外れ」ており、「仕事のできる政権ということを前面に押し出すばかりで、何をなし、何をなさないと言っているのか、まったくぷピンとこないため、企業が5年を見通す長期投資・経営計画を立てることも難しい」と困惑している。
尹大統領は10日の就任演説で「速い成長過程においては多くの国民が新たな機会を見出すことができ、二極化と対立の根源を除去できる。飛躍と速い成長は科学と技術、そして革新によってのみ成し遂げられるもの」と述べた。先に引き継ぎ委が発表した「110大国政課題」報告書の標榜する「民間が引っ張り、政権が後押しする躍動的経済」、「政府の介入を最小化する全方位的規制改革」との脈絡が貫かれた発言と解釈される。民間のみが速い成長を成し遂げ、その結果は所得や雇用の二極化および不平等の解決につながるとする信念だ。
しかし今は、各国が産業政策において「国家がなすべきこと」をめぐって以前より激しく競争する時代だ。漢陽大学のハ・ジュンギョン教授(経済学)は、「(尹錫悦政権の経済政策が)正確に何をどのようにするというのか、よく分からない。落伍者を抱擁する正義にもとづく転換を追求するなど、韓国経済が直面している時代的課題をうまく解決するとともに、全世界的な技術覇権競争および産業政策競争で先んじられれば良いと思う」と語った。慶熙大学国際大学院のパク・ポギョン教授(経済学)も「今は未来産業の育成のために先進国すら政権が関与する、いわゆる『産業政策の復活』の時代だ。この機会をどのように利用するのか、またこの過程で政権と企業との分業はどのようなものになるべきなのかを判断しなければならないだろう」と述べた。
もつれた糸のように複雑な利害関係が絡む中で解決策を見出すためには、どこにハサミを入れるべきなのかを判断、決定しなければならないが、単に「民間」と「規制解体」ばかりを提示しているとの評価もある。パク教授は「不公正と不平等を解決する最も良い方法は、そのような問題を生む制度を見直すことだ。どのような規則を作り、その規則をどのように適用するかによって、企業や個人の目標と行動が変わるし、そうなれば経済の成果と構造が変わる」とし「尹錫悦政権は、進歩政権が経済に過度に介入したと判断し、政府の役割を減らそうとしているようだ。まかり間違えば福祉の縮小や独寡占、産業の安全、環境に対する規制などを緩和しようとするのではないかと懸念される」と語った。
就任演説に「自由、繁栄、成長、科学、知性」のような語彙が並んでいるだけで、完遂すべき課題が何であるのかが不明確でもどかしいとの評価も示されている。ある経済団体の役員は「大・中小企業政策であれマクロ・金融政策であれ、何を志向するのか曖昧な部分が多い。任期中ずっと、何か事が起きればその都度適切に対応するだけだということか」とし「政権は市場に関与しないということなら、企業にとっては良い可能性もあるが、現実的に政府の政策が経済に及ぼす影響は非常に大きいわけで、5年先を見通す投資計画が立てにくい」と述べた。
「客観的な事実とデータにもとづいて政策を決定・執行する実用主義」(110大国政課題報告書)を原則として提示しているものの、何かをするというよりは、仕事を「うまく」やっていけば「再び飛躍し、共に豊かに暮らす国」になれるというのが総合基調だ、とする解釈も示されている。選出された政権が自ら、政策の設計や執行の権限を必要最低限なものだけに制限すると約束しているわけだ。ハンバッ大学のチョ・ボクヒョン教授(経済学)は、「新政権の経済政策を評価しようとしても、うまくまとめられそうになく、論評することも困難」だと語った。経済運用の目標数値をはじめとする具体的かつ明確な約束が提示されなければ、何が守られているのか、あるいは失敗しているのか、国民が判断することも難しい。大韓商工会議所のチェ・テウォン会長は「何であれ、測定されていなければ改善したり管理したりもできない」(経営学者ピーター・ドラッカー)と頻繁に述べている。