ロシアによるウクライナ侵攻が始まって3か月が過ぎた。連日伝えられる悲惨な犠牲には心を痛めるばかりである。ウクライナを征服するというプーチン大統領の野望は、もはや実現不可能になっていると思われる。戦況は膠着状態に陥ったように見える。犠牲者を増やす前に早く停戦が実現することを祈るしかない。
プーチン大統領にとって、戦争がこれだけ長期化し、ロシア軍の中にも多くの犠牲を出していることは、大きな誤算に違いない。しかし、苦戦にもかかわらず、戦争を止める気配はない。ここで戦争を止めたら、そもそも何のために戦争を仕掛け、多くの犠牲を出したのかわからないという批判が国民の側から沸き起こり、プーチンの政治生命が危うくなるかもしれない。彼は現代世界で最強の独裁者だろうが、その独裁者には、自らの誤りを認めることが政治的な死を意味するという最大の弱点がある。誤った政策を、多大な犠牲にもかかわらずいつまでも続けることは、独裁者に共通した特徴である。
こうした政策決定のパターンは、日本にとっても他人事ではない。90年前、当時の日本の指導者たちは、満州事変以後、何を獲得するための戦争なのかわからないままに、中国大陸で泥沼の戦争に突っ込んでいった。戦後の日本はその失敗を反省したはずなのだが、戦争を知る人々がどんどん少なくなるにつれ、むしろ過去の戦争を美化し、指導者を英雄視する議論が広がっているように思える。
もちろん、今の日本は独裁国家ではないし、戦争を仕掛けることもない。しかし、今の日本の政策決定者は自らの誤りを認めず、経済運営に関して間違った政策をずるずると続けている。
2013年に第二次安倍晋三政権が異次元金融緩和を始めて以来、日銀は巨額の国債を買い入れて、低金利政策を続け、円安を誘導してきた。それは確かに、輸出企業に利益をもたらした。しかし、その利益は内部留保や自社株買いに向けられ、賃上げや設備投資にはつながらなかった。ロシアによる戦争の開始以来、世界的な資源・食糧価格の高騰が続いているが、日本の場合は円安がこれに重なって、消費者はいっそう大きな負担を迫られている。
欧米諸国の金融当局は、インフレ対策のために金利を引き上げ始めた。しかし、日本は金利を引き上げるという選択肢を取れない。金利の上昇は国債の利払い費を増加させ、財政赤字を一層拡大する。金利が上がれば国債価格は下落し、500兆円を超える国債を保有している日銀には巨大な含み損が発生する。その場合、日本銀行が債務超過に陥り、紙幣は信認を失うかもしれない。つまり、日本の財政・金融は破綻の瀬戸際に来ているのである。
物価上昇率が、金融緩和政策の目標だった2%を超える勢いであり、異次元金融緩和を行う理由もなくなろうとしている。だからこそ、黒田東彦日銀総裁は、円安は良いことだと主張し、異次元金融緩和の旗を降ろさないのだろう。また、安倍元首相は先日、日銀は政府の子会社だと発言したが、これは、過去9年間にわたって政府、日銀が一体となって進めた金融緩和、円安政策が正しかったと強弁する意図だったのだろう。しかし、政策決定者のメンツを守ることが至上目標になれば、誤った政策はいつまでも続き、結局国民が大きな被害を受けることになる。
先程日本は独裁国家ではないと述べたが、野党の存在感は希薄で、政府の政策に対するチェックや歯止めはないに等しい。昨年秋の衆議院選挙以来、日本のメディアには野党は批判ばかりという批判があふれている。しかし、誤った政策で国が破綻するかもしれない危機において、野党は政府をはっきり批判しなければならない。批判を嫌うのは、誤りを認めたくない指導者の発想であり、批判を封じ込めるのは敗北への道である。
山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)