「戦争の最初の犠牲者は真実である」という有名な言葉は間違っている。戦争の最初の犠牲者であるだけでなく、最も惜しい犠牲は人だ。民間人であれ、軍人であれ、ウクライナ人であれ、ロシア人であれ、その価値は皆同じだ。そしていかなる名分を掲げても、この犠牲を正当化することはできない。ロシアのウクライナ侵攻が2カ月近く続き、文字通り「数え切れない」命が犠牲になっている。戦争が終わる希望の光も見えない。
「真実」は戦争の2番目の犠牲の対象だ。侵攻初期からオンラインとマスコミを通じた「情報戦争」がどの国際紛争よりも熾烈に繰り広げられ、何が真実なのか混乱する状況が続いている。世界経済フォーラムの「戦略インテリジェンス」プラットフォームのデジタル編集者ジョン・レッチングは、今回の戦争が「最初のティクトック戦争」と言われていると伝えた。短い動画を共有するこのソーシャルメディアで、侵攻に反対する人と支持する人たちた熾烈な攻防を繰り広げていることを表す言葉だという。ツイッターやテレグラムなど、ほかのソーシャルメディアの事情もあまり変わらない。
ウクライナの惨状に対する「異なる真実」がオンライン上に溢れているのには、ロシア政府、そして西側諸国の政府のせいもある。ロシアは侵攻勢力という「原罪」がある上、ウクライナでどのようなことが起きているのかについて、十分に公開していない。国際的な信頼も失って久しい。 戦争ニュースがウクライナと西側の主張一辺倒になる原因を提供している。
米国や英国、欧州連合(EU)など西側政府は、ロシアに対する経済制裁とともに、RT放送などロシアメディアの遮断措置も断行した。フェイクニュースを流してロシア政府の宣伝扇動(プロパガンダ)の道具の役割を果たしているというのが主な理由だ。言論の自由は開かれた社会の譲れない価値という西欧自由主義者の「信念」も、ロシア制裁の前では無力だった。
このような状況ではたとえ少数であっても、「別の主張」に好奇心を抱く人たちがいるものだ。彼らは結果的に、オンラインなどでロシア側の主張の拡散を手助けすることになる。西側諸国がロシアの「フェイクニュース」だけに避難の矢を向けられないのもそのためだ。
オンラインで繰り広げられる情報戦争は、世界の多くの人々の生活に直接影響を及ぼすわけではない。しかし、この問題が目の前の現実である人々もいる。旧ソ連から独立し、ロシア系住民が全体の25%水準のバルト海のエストニアとラトビアの人々が代表的な例だ。
最近、米国のNBC放送は、エストニアのロシア語使用者は3つのグループに分けられると報じた。3分の1程度はロシアのウクライナ侵攻に反対し、少数は侵攻を支持する中、多数は平和を望んでいるが西側諸国のメディアとロシアメディアの相反する報道に混乱を覚えているという。さらに、ロシアのアイデンティティが一時は選挙で利用されるほど一定の力として働いたが、今は安全保障の観点から見る対象になったと、同放送は報道した。
ラトビアでも多数のロシア系住民はどうすることもできない立場に追い込まれている。カナダの「トロントスター」は先月、ロシア語使用者を対象に実施された世論調査で、回答者の約半分はロシアのウクライナ侵攻に賛成も反対もできないという反応を示したと報じた。
ロシアのウクライナ侵攻を強く批判する社会ムードの中で混乱に陥ったロシア系の人々にとって、「真実」は机上の空論のようなのんびりとした遊びの対象ではない。実存的決断を下すのに絶対的に必要な道具であり、力だ。だとすると、冒頭の発言を覆さなければならないかもしれない。「戦争の最初の犠牲者は人と真実である」と。