赦免権は危険なものだ。権力分立の原則に反するのは明白だ。司法府の最終判断を、行政府の首班である大統領が無力化させる権限だからだ。多くの国では赦免権を認めながらも、同時にその赦免権が極めて例外的かつ制限的にのみ行使されなければならないという原則を共有している。
権力分立とは別に、平等の問題も提起される。なぜ多くの犯罪者のうち一部だけが赦免されるのか。 賄賂を受け取った人は赦免されたのに、その賄賂を直接受け取った人(チェ・スンシル)や賄賂を贈った人(イ・ジェヨン)はなぜ赦免されないのか。大統領でなかったということ以外に答はない。健康上の理由? 身体の具合が悪い状態で収監されている多くの人の中で、病気を理由に赦免された人がいただろうか。 赦免は法が平等でないことを最も露骨に見せてくれる制度だ。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領による先月24日の朴槿恵(パク・クネ)氏に対する特別赦免以後、多くの批判が続いている。「『賄賂など重大腐敗犯罪に対する赦免は排除する』という原則を自ら破った」、「全斗煥(チョン・ドゥファン)、盧泰愚(ノ・テウ)の例に照らしてみても反省と謝罪が前提にない赦免は葛藤を煽るだけだ」、「今回の赦免は不当であり、正義でない」などの批判だ。私はここで、少し別の主張をしてみようと思う。赦免権行使の限界は弾劾であり、弾劾された人に対する赦免権行使は不可能だという主張だ。
帝王的大統領制の起源とも言える米国の憲法第2条第2項では、赦免権を規定しつつ弾劾を例外としている。米国憲法に明文化してまで「弾劾には赦免権が行使されない」と規定された理由は何だろうか。
弾劾という手続きは、通常の司法府の有罪判決とは全く異なる。行政府や司法府に属する高位公職者が重大な不正行為を犯したにもかかわらず職務を継続している場合、立法府が当該公職者の職務を停止させるために、権力分立を損ないながらも介入する非常の手続きだ。赦免権が例外的に司法府に対する行政府の介入を認めたとすれば、弾劾もまた、行政府と司法府に対する立法府の介入を許容する例外だ。憲法が規定した例外を他の例外で無力化することはできない。米国において大統領の赦免も国会の弾劾の前で止められるのは、このような理由からだ。
米国と異なり、韓国憲法に明文規定はないが、憲法裁判所だけでなく国内の有数の憲法学者は皆「憲法の内在的限界」という表現で、弾劾には赦免権行使が不可能だと指摘している。「明文規定がなくとも弾劾制度の趣旨に照らして大統領の赦免は許されないと言えよう」(憲法裁判所の憲法裁判実務提要)、「大統領は憲法裁判所の弾劾決定に対しては赦免権を行使することができない」(高麗大学イ・ジュニル教授)
もちろんこの論議は、弾劾そのものに対して赦免権行使が不可能だということだ。そして文在寅大統領の朴槿恵氏に対する赦免は、弾劾決定に対してではなく、別途の有罪判決に対する赦免だった。弾劾そのものに対する赦免ではないから可能だとみられるだろうか? そうは言えない。
まず、国家情報院の特殊活動費関連国庫損失罪を除けば、朴槿恵氏はほとんど同一の事実関係により弾劾決定と刑事判決を受けた。同一の犯罪に対し、国会と憲法裁判所は重大な憲法違反として「大統領朴槿恵を罷免する」と決定し、司法府は20年を越える懲役刑を宣告した。いくら大統領でも前者に手を付けることはできないと言うならば、後者に対しても手を付けることはできないとみるべきだ。同一の事実関係に対する刑事判決に赦免を与えた瞬間、弾劾決定の正当性と権威は揺らいでしまう。すなわち、弾劾された朴槿恵氏の赦免は国会の弾劾訴追、憲法裁判所の弾劾審判権限を事実上損なう憲法違反行為である。
次に、大統領弾劾の特殊性だ。大統領弾劾のためには国会在籍議員の3分の2以上の賛成が必要だ。憲法が国会在籍議員の3分の2以上の賛成を規定しているのは、改憲、大統領弾劾、国会議員除名のたった三つしかない。このような厳格な要件の立法府権限行使が成り立った場合であれば、権力分立の原則上、大統領としては赦免権行使を行うことができないとみるほかはない。「刑事裁判だけを経た一般人に対して赦免するかどうかを決めることとは質的に異なる事案」であるからだ。(元憲法裁判研究院責任研究官イ・ソクミン)
初めての大統領弾劾であり、弾劾された大統領に対する初めての赦免である。先例がないので十分な検討と論議が必要だ。 違憲的な赦免が先例になってはならない。
イム・ジェソン|法務法人ヘマル弁護士 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )