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[寄稿]インフレ対応、ためらってはならない

登録:2021-10-20 02:25 修正:2021-10-20 07:56
パク・ポギョン|慶熙大学国際大学院教授
ゲッティイメージバンク//ハンギョレ新聞社

 世界がインフレの不安に襲われている。先月のコラムでは、インフレは短期で終わらず持続する可能性が高いと書いたが、1カ月でそれが現実のものとなった。米国の9月の消費者物価上昇率は前年同月比5.4%で、4カ月連続で5%以上を記録した。5%以上が3カ月を越えて続いたのは1990年以来三十数年ぶりのこと。欧州では天然ガス価格が高騰し、国際原油価格も80ドルを超えている。

 このようなインフレはどこから始まったのだろうか。多くの専門家とメディアは供給不足問題のみを注視し、1970年代のオイルショックのようなスタグフレーションが進行していると診断する。サプライチェーンに支障が出ているという問題があるのは確かだが、新型コロナウイルスによって遅延していた消費の噴出や過剰流動性といった需要の問題もそれに劣らず作用している。原因の診断が重要なのは、診断が正しくなければ対策も誤りうるからだ。

 わずか数カ月前までは、インフレは一時的な現象にとどまるだろうとの見方が優勢だった。昨年のコロナ禍初期の物価下落の基底効果が消えれば、物価上昇率も落ち着くと予想したのだ。しかし、グローバルな物価上昇は9月まで続いており、もはや基底効果という仮説は説得力を失っている。

 コロナによる一部品目の生産の停滞、すなわちサプライチェーン問題もインフレを刺激している。車両向け半導体の不足や物流のボトルネック現象が代表的な例だ。インフレは一時的だと予測した人々は、この問題もやはり近いうちに正常化するだろうと予想していた。ところが最近の中国の電力不足と重なったことで、この問題はむしろ拡大する様相を呈している。

 インフレの悪化のもう一つの原因は、化石燃料価格の上昇だ。欧州では供給に支障が出ていることで天然ガスの価格が上昇しており、中国は国内での石炭生産やオーストラリア産石炭の輸入などの減少で深刻な電力不足に直面している。これは、代替燃料である石油の需要増加と原油価格の上昇へとつながっている。問題は、このような化石燃料価格の上昇が簡単には反転しないということだ。コロナ禍前までは、原油価格が上昇するとエネルギー革命といわれたシェールガスとシェールオイルに対する投資が拡大し、原油価格の上昇が抑制されていた。しかしコロナ禍を経て状況は変わった。原油価格の下落を受けて多くのシェール油田が生産を打ち切ったうえ、最近は原油価格の上昇にも関わらず投資拡大の動きが見られない。主要国の炭素排出削減や化石燃料の生産規制強化などで、長期的には石油や天然ガスの消費も萎縮するだろうとの見通しが出ているからだ。

 このようなサプライチェーンの支障や石油の生産不足のみを見れば、今のインフレは供給側が要因となっていると考えうる。しかしそうではない。大半の供給ボトルネック現象を誘発し、かつ深刻化させている根本的な要因は、予想より早い主要国の景気回復にある。供給拡大が準備されていない状態で、多くの部門で需要が供給能力を上回っているのだ。2桁を記録する輸出増加率や強い消費心理、中国の電力消費の急増、世界的に見られる不動産価格や住居費の急上昇などは、いずれもインフレに需要側の要因が強く働いていることを示している。何よりも、景気回復が予想より早いのに対して、膨大に供給されたグローバルな流動性の吸収が遅れていることが問題だ。この流動性は、石油のように一時的な供給不足があるところへと向かい、投機的バブルを形成することで、インフレをさらに深化させうる。

 他国と比較すれば、韓国はそれでもよい方だ。米国の物価上昇率は5%台だが、韓国はまだ2%半ばを維持している。コロナ対応の成功で、昨年の景気低迷の程度は先進国の中で最も抑えられており、全体的に景気の振幅が小さいということがインフレ抑制に役立っている。利上げもすでに始まっており、家計負債などの流動性の管理に積極的に取り組んでいるのも幸いだ。強い製造業のおかげでサプライチェーンが安定しているのも肯定的に評価しうる。しかし、今のインフレ圧力は2008年の金融危機のようなバブル崩壊で解消されない限り、予想より長引くこともありうるということに留意しなければならない。何より、純然たる供給側の要因によるスタグフレーションであれば対応策は見出しにくいが、今回は需要側の要因が作用するインフレであるため、持続的な流動性の吸収が必要であり、これをためらってはならない。

ハンギョレ新聞社

パク・ポギョン|慶熙大学国際大学院教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1015797.html韓国語原文入力:2021-10-19 18:03
訳D.K

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