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[寄稿]韓国版ネットフリックスは不可能だろうか

登録:2021-10-09 04:34 修正:2021-10-09 11:30
イ・ウォンジェ|LAB2050代表
ゲッティイメージバンク//ハンギョレ新聞社

 20年前、ネットフリックスはDVDを郵便封筒に入れて配達するサービスを提供した。米国郵便公社(USPS)の往復郵便サービスを利用した。切手を貼らずに非常に安い値段でDVDを送ることができた。米国郵便公社は、毎年数千万ドルの赤字を払い、このサービスを維持したが、顧客は事実上ネットフリックス1社だった。国家が後押しして育てたわけだ。

 郵便配達サービスによりネットフリックスは収益率50%を得て、競合のレンタルビデオを倒した。そこから生じた余裕をもとに、他社より早く映像ストリーミング事業に飛びこんだ。そして今日、全世界を牛耳るところまできた。

 ネットフリックスの韓国ドラマ「イカゲーム」が全世界で旋風を巻きおこしながらも、他の米国ドラマの4分の1にしかならない製作費を受けとり著作権を丸ごと渡した状態だというニュースに接し、思い出された昔のことだ。韓国では通信網の使用料も払っていないというのだから、なおさら腹立たしい。生死をかけたゲームは韓国の人々が行ったが、製作費を除く収益はプラットフォーム事業者であるネットフリックスが独占することになったと考えると、苦々しく感じられた。

 考えてみればユーチューブも同じような構造だ。良いコンテンツを掲載し多くの人が見れば、誰でも広告収入を得られるとはいうが、そのようなことが可能な利用者はごく少数に過ぎない。むしろ、韓国の人々が夜を徹して作った良いコンテンツが、ユーチューブ本社であるグーグルの売り上げを増やすことに無料奉仕しているかのように見える。韓国国民が払った視聴料と韓国企業が出した広告料で作った韓国放送(KBS)や文化放送(MBC)の映像が、ユーチューブを支え育てている。

 実はお金は問題の一部にすぎない。ユーチューブはすでにニュースメディアの機能を果たしている。フェイクニュースや扇情的な暴力物があふれても、韓国社会が介入できる手段はほとんどない。通り魔の暴行を生中継したり、私生活を勝手に暴く映像が載せられていても放置される。子どもの目の前に露出されるネットフリックスの映像のアルゴリズムが何であるのかは、親にもわからない。

 企業側は「人工知能アルゴリズムによるもの」だとか「詳細な方針は公開できない」という釈明だけを並べる。責任ある企業ならば恥ずかしくて出せないこのような言葉にも、社会的な対応はほとんど不可能だ。社会の規範を外国企業のアルゴリズムに任せているわけだ。

 これほどまでになっていると、ふと気になる。なぜ韓国企業が運営するネットフリックスやユーチューブはないのだろうか。

 ユーチューブやグーグル、ネットフリックスについては、実はこれらの企業を現在の地位につくようにさせた最大の底力は、資本力から出た。想像できないほど巨額の投資が行われる金融市場の魔法のおかげで、これらの企業の戦略が可能になった。無料または低価格のサービスで消費者を取りこんだ後、適切な投資でコンテンツプロバイダを集め依存性を高める戦略だ。このような物量攻勢は、もちろん市場を掌握した後に勝ちとる独占利益を念頭に置いて行うものだ。

 韓国にはこのような資金がないのだろうか。十分にあるように思える。家計負債は四半期ごとに40兆ウォン(約3兆8000億円)以上増えており、すでに1800兆ウォン(約170兆円)を超える。不動産の購入に主に用いられた資金だ。企業に流れていき革新を起こさなければならない資金が土地に埋もれているわけだ。巨額の開発利益を回せば、未来のための投資も可能だろう。

 メディアコンテンツ分野の政策議論は、マスコミを規制するとか、コンテンツ産業に投資するとか、やや進んだとしても外国企業に税金をまともに払わせるといった話で終わる。もう少し視野を広げ、グローバルコンテンツの生態系にどのようにして参加するのか、戦略的に悩まなければならない時になった。プラットフォーム戦略がこのようなコンテンツ産業政策の中心にならなければならない。個々のマスコミやコンテンツ企業が単独でうまくできることではない。国家が出てきて方法を探らなければならない。

 私たちにはすでに潜在力はある。韓国は、全国民が使うメッセンジャーサービス(カカオトーク)とすべての人が資料を探すポータルサービス(ネイバー)を国産で保有する珍しい国だ。米国と中国を除けばほぼ唯一だ。映画「パラサイト」やBTS、「イカゲーム」などいくつかの事例だけを思い浮かべても、潜在力が確認される。

 テクノロジー企業には国境がないという考えが優勢だった。しかし、プラットフォーム企業の影響力が大きくなるほど、その国籍が持つ意味も強くなっている。振りかえると、サムスン電子と現代自動車は、開発年代(1960~1970年代)の国家の後押しにより、ネイバーとカカオは、ドットコムバブル時代に国家が用意した投資環境の上で育った。

//ハンギョレ新聞社

イ・ウォンジェ|LAB2050代表 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1013966.html韓国語原文入力:2021-10-06 09:55
訳M.S

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