本文に移動

[寄稿]岸田新首相への提案

登録:2021-10-07 02:14 修正:2021-10-07 07:18
イム・ジェソン|弁護士、社会学者

 私は、日帝時代の強制動員の被害者の方々に代わって、訴訟および執行手続きを行っている弁護士の1人です。まず、日本の第100代首相に選出されたことに対して、お祝いを申し上げます。新型コロナウイルスで全世界が苦境に立たされていますが、新しいリーダーシップとともに日本社会に再び活気が戻ってくることを心から願います。

 1965年の国交正常化以来、最悪の韓日関係という評価には、もはや新鮮味はありません。その核心には、2018年の韓国の最高裁判所による強制動員損害賠償判決、この訴訟の被告だった日本企業によるその後の協議の拒絶および判決の不履行、そして2019年7月の日本政府による半導体・ディスプレイ関連素材の輸出規制があります。

 韓国政府は、強制動員被害者の勝訴とした韓国最高裁の判決とその後の現金化手続きに対する日本の報復措置である輸出規制を解除することを要求しています。日本政府は、輸出規制を解くためには韓国政府が強制動員問題の「解決策」を示すべきだと主張しています。しかし、韓国政府が実務レベルにおいて打診するいくつかの案に対して、日本政府は拒否してばかりいます。

 こうして、最高裁の判決から3年近く経とうとしています。韓日関係の硬直化が生み出す両国間の様々な被害も問題でしょうが、強制動員の被害者を代理する立場としては、何よりも高齢の被害者がいかなる謝罪も受けられない状態で、時間ばかりがむなしく流れていることが残念であり、痛ましくてなりません。

 岸田文雄新首相には、この問題について提案をしたいと思います。代理人の一人である私の個人的な意見であることを前提とした提案ですが、前向きな議論が可能なのであれば、被害者や支援団体と積極的に話し合おうと思います。

 提案の肝は、強制動員被害者と日本企業が直に会って議論する場を設ける、というもので、その場が責任を持って実現されるなら、協議の期間中には日本企業の資産の現金化手続きを停止するというものです。具体的には「(1)強制動員被害者と日本企業との間で最低3回以上の交渉を行う、(2)前項の交渉中には、現在進められている現金化手続きおよびさらなる資産差し押さえなどを停止する、(3)(1)項の交渉手続きは韓国と日本の政府が保証し、オブザーバーとして参加する」。このようにまとめることができます。

 まず、強制動員問題は、長きにわたって被害者と加害企業が訴訟を繰り広げてきた事案です。最高裁の判決も日本企業に対するものです。被害者と日本企業が会って話し合うのが筋です。2012年までは、三菱重工業などは被害者側との協議を行ってもいました。しかし2018年の最高裁判決後は、企業の態度は変わってしまいました。被害者側は数回にわたって東京にある日本企業を訪れ、協議を要請しましたが、すべて門前払いされてしまいました。様々なルートを通じた提案もすべて断られました。原則に戻ることが必要です。前提条件なしに、それも1回で終わるのではなく、3回以上会って、合意を導き出すために努力する交渉が必要です。

 日本政府が望むのは、日本企業の資産の現金化の中止です。しかし、その中止は韓国政府にはできません。現金化は損害賠償債権を持つ被害者の権利であり、適法な手続きです。韓国政府には、任意にその執行を中止させる権限も、大義名分もありません。交渉が実現すれば、交渉期間中の現金化を停止する措置を被害者側は検討できることでしょう。

 9月27日、韓国の大田地方裁判所は、三菱重工の商標権と特許権に対する売却命令を決定しました。様々な執行手順が複雑に進んでいますが、売却命令の決定は初めてです。最も進んでいる執行段階です。三菱重工は時間稼ぎのため、この決定に対して即時抗告、再抗告を行い、最高裁まで行くでしょうが、6カ月はかからないでしょう。結論が変わる可能性はないということもご存じでしょう。つまり、6カ月が過ぎれば三菱重工の資産の競売手続きが始まります。すでに報告をお聞きかもしれませんが、まだ外部に公開されていない日本企業の資産差し押さえ案件もあります。最高裁判決以降、さまざまな変数によって執行手続きが遅れていましたが、いまや具体的な現金化は目前に迫っています。

 3年間にわたって行き詰まっていたこの問題に関して、当事者の間で交渉が始まることを望みます。新首相には、韓日関係の新たな局面を切り開いてくださることを願います。

//ハンギョレ新聞社

イム・ジェソン|弁護士、社会学者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1014158.html韓国語原文入力:2021-10-06 18:04
訳D.K

関連記事