本文に移動

[寄稿]北朝鮮が米国との対話に乗り出さないわけ

登録:2021-07-12 07:50 修正:2021-07-18 18:58
ムン・ジョンイン|世宗研究所理事長  

危機が新たな突破口を開く場合もあるが、北朝鮮の強化された核武装力と米国内部の広範囲な反北朝鮮感情、そして深まる米中対決構図を考えると、いま北朝鮮核危機が再発すれば、過去と違って管理不可能な災いに発展する可能性が少なくない。危機を回避する糸口は原論にある。

 数日前、米国と欧州の専門家たちと北朝鮮問題に関するテレビ電話会議を行った。彼らは一様に北朝鮮に対して疑問を持っていた。ジョー・バイデン政権が調整された実用的かつ段階的アプローチで北朝鮮と外交的妥結を望むという意思を表明し、5月21日の韓米首脳会談の共同声明では板門店宣言とシンガポール宣言の尊重や南北間の関与と対話・協力への支持、北朝鮮担当特別代表の電撃任命など、誠意を見せたにもかかわらず、北朝鮮が反応を示さないことは理解しがたいというのだ。

 米国は最近まで4回にわたって北朝鮮との対話を試みたという。そのためか、最近はもうやるべきことはやったという態度を示している。アントニー・ブリンケン国務長官が繰り返している「もうボールは平壌に渡った」という発言が代表的な例だ。しかし、北朝鮮の反応は依然として冷ややかだ。「無意味で、貴重な時間を無駄にする米国とのいかなる接触と可能性についても考えていない」というリ・ソングォン外務相の6・23談話がこれを反映している。

 北朝鮮はなぜこのような反応を示すのか。国内状況の影響が大きいだろう。新型コロナ防疫や食糧問題、制裁の長期化による経済低迷など内部問題が山積している状況で、対外活動に乗り出すのは難しいかもしれない。最近開かれた党政治局拡大会議での問責人事は、これをそのまま表わしている。非常防疫長期化構想のもと、国境地域にコンクリートの障や高圧線を設置するほか、国際機関にワクチン支援を要請したにもかかわらず、感染の懸念から救護要員の入国を拒否している状況だ。 米国や韓国との対話よりも、内部の取り締まりに力を入れているものとらみられる。

 しかし、米国の姿勢も問題だ。核・ミサイル実験を続けた2017年とは違い、2018年の対話局面以降、平壌は豊渓里(プンゲリ)の核実験場の破壊や東倉里(トンチャンリ)のミサイル発射台の廃棄意思表明、核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)実験の自制など、一連のモラトリアム措置を取った。一方、米国はこれに対する相応の措置を取るより、懲罰的な姿勢を貫いてきた。ドナルド・トランプ政権時代に27回も実施された独自制裁は、シンガポール首脳会談後も大きく変わらなかった。それはバイデン政権に入ってからもあまり変わっていない。さらに、金正恩(キム・ジョンウン)総書記との首脳会談が、国際的地位と正統性を高める恩恵的行動という認識も強く根付いている。「善対善、強対強」という金総書記の論理構造の中では、相手の立場に立って考えるつもりのない米国との対話は意味がないという結論につながりやすい。

 バイデン政権の対北朝鮮政策は実用主義を強調しているが、依然として具体性が足りないのも事実だ。北朝鮮が「条件さえ合えば、非核化する用意がある」と言う時の条件とは「北朝鮮の生存を脅かし、人民の発展権を阻害する敵視政策の解消」だ。韓米合同軍事演習と訓練の中止、朝鮮半島における米戦略兵器の前進配備の自制、終戦宣言の採択と朝鮮半島平和体制の構築、朝米国交正常化といった問題を、北朝鮮側は生存の問題として捉えている。人民の発展権とは、北朝鮮制裁の緩和を意味する。北朝鮮側の要求が適切かどうかは別としても、バイデン政権はこのような事案に対する明確な立場を示したことがない。何を得られるかがはっきりしない限り、北朝鮮側も成果なしで問責されるのが必至の米国との実務接触に積極的に乗り出せないだろう。

 結局、米国の北朝鮮政策に対し、平壌側が構造化された不信感を抱き続けていることに問題の根がある。バイデン政権が、北朝鮮核交渉の優先順位を低く設定し、本質的な妥結よりも、軍事的抑止と同盟協力による安定的な管理に重点を置いているというのが、北朝鮮の対米認識であるわけだ。さらにバイデン政権が米議会とシンクタンク中心に形成された「反北朝鮮ワシントンコンセンサス」を克服する意図や意志があるかについても疑念を抱いているようだ。

 考えてみると、朝米双方とも進退両難の落とし穴に陥っている。米国側が具体的な誘引策を打ち出さない限り対話に乗り出せないという北朝鮮と、北朝鮮が対話に乗り出さない限り具体的なカードを示せないという米国側の隔たりは大きい。まさに信頼の格差だ。このような不確実性の中で、危機はいつでも再発しうる。時には危機が新たな突破口をもたらすこともあるが、北朝鮮側の強化された核武装能力と米国内部の広範囲な反北朝鮮ムード、そして深まる米中対決構図を考えると、いま北朝鮮核危機が再発すれば、過去と違って管理不可能な災いに発展する可能性が少なくない。

 危機を回避する糸口は原論にある。米国は北朝鮮政策の見直しで示したように、実用的態度と柔軟性を示さなければならない。北朝鮮も国内の状況だけに埋没せず、これまでの一方的な主張から抜け出し、接点を見いだすために努力しなければならない。これまでの状況を変えるために、創意的外交を展開することは他ならぬ韓国の役割だ。30年間にわたる北朝鮮核問題に悩まされてきた疲労と挫折感の中でも、避けられない韓国の宿命である。

//ハンギョレ新聞社
ムン・ジョンイン|世宗研究所理事長(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1003009.html韓国語原文入力:2021-07-12 02:37
訳H.J

関連記事