「いつか一緒に食事しましょう」
朝鮮半島はそこにとどまっている。文在寅(ムン・ジェイン)政権は任期末期に朝米対話と南北対話の転機を作るために昼夜を問わず努力している。バイデン政権も、朝鮮半島の非核化のためには何の条件もつけずに北朝鮮と対話しようと言っている。北朝鮮ももちろん「対話にも準備」ができていると繰り返している。しかし対話どころか、その日程も定められずにいる。このようなことは日常でもよく見かける。いつか食事でもご一緒にと言いながら、誰もスケジュール表を出さない。
誰も今すぐ状況を覆したがってはいないものの、だからといって時間と金をかけて共に食事するつもりもないからだ。バイデン政権の高官たちは、すでに宣言している。「北朝鮮核問題は以前のどの政権も解決できなかった難題だ」。逆に言えば、自分たちもこの問題を解決する方法を知っているわけではないということだ。北朝鮮が核を放棄するはずがないからだというが、一方でこれは北朝鮮の望む関係正常化と平和体制を与える意思がないということでもある。ゆえに状況管理こそ最善だ。すでに米国の核兵器によって北朝鮮を抑え込んでおり、経済制裁で締めつけている。「今度一緒に食事でも」と言ってイメージ管理をすればよい。「我々は対話を望んでいるのに、北朝鮮は応じない…。やはり北朝鮮こそ問題だ!」
文在寅政権は何かどんでん返しのきっかけを作り出したいと思っている。大統領としての「業績」もかかっており、来年の大統領選挙も念頭に置かざるを得ない。韓米作業部会(ワーキンググループ)を終了させてでも、韓国政府の手足は自由にしておきたい。そうだとしても、韓米同盟にほころびが生じる余地が生まれたり、万が一にでもそのように見える余地があるのではないかと心配し、自重する。そのため、来年の大統領選挙は韓国政府の手足を縛る縄ともなる。南北の首脳が朝鮮半島非核化に合意したにもかかわらず、米国が朝鮮半島の北側に核兵器を突きつけていることは問題にならず、平和体制の構築を約束しつつも「強い国防」をより強力に推進する。韓国政府も「今度一緒に食事でも」と言って食卓に匙を載せておくことこそ最善の対処だ。
北朝鮮は現在、非核化にも関心がなく、平和体制はよりいっそう関心の外だ。南北関係はすでに2018年の首脳会談以前へと時計の針を戻してしまっているし、「敵対関係」と規定してしまった。核兵器を手にしたのだから米国とはすでに「恐怖のバランス」がとれているという。逆に言えば、核兵器を放棄する理由はないということだ。もはや米国との対決において肝心なのは経済制裁の突破だとし、経済自立にすべてをかけている。どうせ新型コロナウイルスで世界経済も動揺している状況なのだから、これを機に国境を塞いで自立度を最大限引き上げようという。定めた指標を達成すれば戦略的目標は変わりうるだろうが、今は自力更生だ。北朝鮮も「食卓が準備できたら連絡してくれ」と答える。
「ただメシ」はないと経済学者たちは喝破する。「空手形の昼食の約束」もただではない。いつの間にか韓米同盟は地域同盟へと拡大しつつある。国連司令部の帽子をかぶって英国海軍とフランス海軍が日本に寄港し、中国近隣で軍事作戦を展開してもいる。北朝鮮の核兵器とミサイルの能力は日々向上している。朝鮮半島が、北東アジアが、軍拡競争にはまりつつある。
だからこそ、先日の最高裁の判決に視線が行く。良心に従って兵役を拒否した「シウ」氏がそこにいた。彼は空手形を切らなかった 非暴力主義と反戦主義の信念にもとづいて行動した。兵役拒否に対する法の処罰と社会的差別を回避せず、良心に従った。
彼のような良心的兵役拒否者は、法廷で自らの良心を立証せしなければならない。「良心鑑別士」を自任する検事たちの問いに良心的に答えなければならない。「1980年の光州に戻ったとしたら銃を握るか」「日帝の侵略に抵抗するために武力は行使するか」「家族の命が脅かされた時、あなたはじっとしているのか」(コラム「『良心鑑別士』検察の浴びせる問い」イム・ジェソン)。これらの問いの方こそ暴力的で没歴史的だ。
大韓民国は、軍が市民に銃口を向ける野蛮な暴力の時代をすでに克服した。世界は、一つの民族が他の民族を暴力で支配する植民地主義時代をはるか昔に通り過ぎている。当時の暴力について国家が謝罪し、賠償する世の中となっている。今は良心的な問いを投げかけなければならない。「憲法上、大韓民国の領土である北朝鮮を米国の核兵器が狙っていても平気なのか」「今あなたは片手で愛する人の手を握り、もう片方の手で戦争を続けるつもりなのか」「太ることを心配しながら、休戦ライン以北にはコメ一粒送らないのか」
「いつか食事でも」といった空手形では、平和は訪れない。良心こそが平和をもたらすはずだ。
ソ・ジェジョン|国際基督教大学政治・国際関係学デパートメント教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )