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[寄稿]韓米首脳会談の行く末はいかに

登録:2021-05-31 06:03 修正:2021-05-31 09:04
ソ・ジェジョン|国際基督教大学政治学・国際関係学デパートメント教授 
 
韓米首脳会談の成果は、パケットとムーアの間のどこかにあるようだ。朝鮮半島の完全な非核化と同時に「拡張抑制」(米国の北朝鮮に対する核兵器の使用・威嚇)を公約した。「板門店宣言やシンガポール共同声明などのこれまでの南北間と朝米間の約束に基づいた外交と対話」を確認しながらも、「同盟の抑制態勢の強化」と「合同軍事準備態勢の維持」を強調した。

 21日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と米国のジョー・バイデン大統領が、米国の老兵の両側でひざまずき敬意を表した。ラルフ・パケット予備役大佐、彼は米国の戦争の英雄だ。1949年に米国陸軍士官学校を卒業し日本に配属された新人少尉のパケットは、朝鮮戦争に志願した。米国第8軍特殊部隊に“最下位の兵士としての従軍”でもいいと志願した彼を高く評価したジョン・マギー中佐が、彼を中隊長に任命した。特殊部隊はただちに北進作戦に投入され、1950年11月、清川江(チョンチョンガン)の北側の要所である205高地での戦闘で功績を挙げた。この戦闘でパケットは危険を冒し、先頭で部隊を導いた。その渦中に手榴弾で負傷し、さらに迫撃砲の攻撃を受け深刻な傷を負った。彼は部隊の隊員らに自分を残して待避すよう命令した。しかし、隊員らは命令を拒否し、彼を救い出した。

 この経験は彼に深い教訓を残した。「指揮官はすべからく危険を前にして率先垂範し、先頭に立たねばならない。そうすることで、兵士が指揮官を信じ従うようになる。渾然一体となった部隊だけが勝利をおさめることができる」。その後に参戦したベトナム戦争でも彼は先頭に立った。退役後も名誉大佐として指揮官と兵士を鼓舞した。「軍人はすべからく自分の命をかける覚悟になっていなければならない。自分の任務を成しとげるためには、自分と部隊の名誉のためには、自らを投げ出さねばならない」。戦争中にイラクに行き、米軍を励まし鼓吹した。米国の自由を守護するためには、軍人は命令に従い、必要であれば命を捧げなければならないという「戦士の倫理」を伝えた。バイデン大統領は、米国の戦争の英雄であるパケットに名誉勲章を授与した。文在寅大統領は彼を「朝鮮戦争の英雄」だと称賛した。

 トム・ムーアは英国の老兵だ。2020年、新型コロナウイルス感染症で皆が沈んでいた時に、彼が立ち上がった。99歳の老身で補助機器を頼りに、どうにか歩き始めた。遠くに行くことはできなかった。自宅の庭園を繰り返し往復した。しかし、彼の胸は希望で満ちていた。新型コロナと戦っている英国の医療従事者、感染者、恐れに震えている皆に勇気を与えるという希望だ。一歩ごとに後援金を得て、100歳の誕生日までに1000ポンド(約16万円)を募金で集めて英国国民保健サービス(NHS)に寄付するという目標を立てた。目標は低かったが上を向き、歩いてまた歩いた。

 彼の歩みは孤独ではなかった。老身の苦しそうだが力強い歩みに皆が感動した。基金の行進が続いた。歌手のマイケル・ボールがトム・ムーアとともにミュージックビデオを作った。「ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン(You'll Never Walk Alone)」(あなたの歩みは決して一人じゃない)、長年の風霜にさらされ残っていた深い声で、希望を歌った。2020年4月30日、彼の100歳の誕生日の朝までに募金された額は3000万ポンド(約47億円)。1940年代に大英帝国の陸軍将校としてインドに派兵され、ミャンマーで大英帝国の最前線に立った彼だった。しかし、生涯の最後の峠で、彼は殺しの道ではなく生きる道を選択した。すべての人の生命を守るために、歩きに歩いた。多くの英国人と世界の人々の胸を希望で鼓吹した。多くの人々が彼とともに生命の道を歩いた。「キャプテン・トム」は人間の生命の、人間の安全保障の英雄だ。

 韓米首脳会談の成果は、パケットとムーアの間のどこかにあるようだ。朝鮮半島の完全な非核化と同時に「拡張抑制」(米国の北朝鮮に対する核兵器の使用・威嚇)を公約した。「板門店宣言やシンガポール共同声明などのこれまでの南北間と朝米間の約束に基づいた外交と対話」を確認しながらも、「同盟の抑制態勢の強化」と「合同軍事準備態勢の維持」を強調した。「南北の対話と関与、協力に対する支持」を表明すると同時に、「国連安保理関連の決議を完全に履行すること」(対北朝鮮経済制裁の履行)も促した。「太平洋島しょ国との協力の強化」と「包容的な地域多国間主義」を語りながらも、アジア大陸の国々との協力の強化には言及せず「クアッド」の重要性のみを指摘した。グローバル・ヘルスにおける課題への協力は誓ったが、具体的な優先課題は韓国軍に対するワクチン供給だった。宇宙探査でパートナーシップを強化することにしながらも、宇宙での安全保障への協力を具体的に名指しした。気候変動への脅威に対応するとしながらも、韓国は今なお石炭火力発電所を作っており、輸出している。

 スウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリは、今回のP4Gサミットに参加しなかった。すでに明言したことがある。「文大統領は、私がする事を『尊重する』と述べたのであれば、行動で証明してほしい。行動は言葉よりはるかに意味がある」。華々しい首脳会談は終わった。行動が残っている。

//ハンギョレ新聞社

ソ・ジェジョン|国際基督教大学政治学・国際関係学デパートメント教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/997249.html韓国語原文入力:2021-05-31 02:09
訳M.S

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