文在寅(ムン・ジェイン)大統領が2日、サムスン、現代自動車、SK、LGの4大グループ代表と共に大統領府で昼食を兼ねた懇談会を開いた。文大統領と4大グループ代表らとの懇談会は今回が初めてである。米中対立など急変するグローバル経済環境の中では、政府と企業の緊密な協力が求められる。大統領と企業関係者らが直面している経済の現実について胸襟を開いて意見を交わすのは望ましいことだ。しかし、この場で4大グループの代表らがサムスン電子のイ・ジェヨン副会長の赦免を建議したのは不適切だった。いま企業の役割がいつになく重要だとしても、民主主義と法治主義の基本である「法の下の平等」の原則は必ず守られなければならないからだ。
文大統領は「訪米の際、4大グループが同行したおかげで、韓米首脳会談において良い成果を上げることができた」と述べた。4大グループによる半導体やバッテリー、電気自動車など44兆ウォン(約4兆円)の投資計画の発表に後押しされ、首脳会談が成功裏に終わったことに対し、感謝の意を伝えたのだ。韓米両国は半導体やバッテリー、電気自動車など最先端技術製品において、グローバル・サプライチェーンの構築など包括的な協力に合意した。韓国企業にとって米中対立とグローバル・サプライチェーンの変化は、新たな課題でありチャンスでもある。コロナ禍を克服する過程で、主な国々は政府と企業の協力を一層強化している。
ただ、韓国としては、国内投資と雇用創出の機会が縮小される問題にも対応しなければならない。文大統領は「大企業が先頭に立って進出すれば、中小・中堅協力企業も共に進出することになり、部品や素材、装備もより多く輸出できるため、国内の雇用がさらに創出される」と激励した。現代自動車のチョン・ウィソン会長も「さらに多くのチャンスを作り出したい」と肯定的に答えた。政府と企業の共同努力の誓いが空念仏に終わらないことを望む。
SKのチェ・テウォン会長は、経済5団体のイ・ジェヨン副会長の赦免建議を考慮してほしいと述べた。サムスン電子のキム・ギナム副会長も「半導体などをめぐる投資決定が必要だが、トップがいてこそ迅速に進む」と述べた。これに先立ち、大韓商工会議所など経済5団体はイ副会長の赦免を提案し、宗教界などからも要請があった。世論調査によると、国民10人中6人が赦免に賛成している。国政壟断事態当時、国民がイ副会長の違法行為に対して大いに憤ったことからすると、経済と企業を懸念する気持ちが反映された結果とみられる。
しかし繰り返し強調するが、イ副会長に対する赦免は「法の下の平等」の原則に反するもので、非常に慎重に考えるべき問題だ。経済正義実践市民連合(経実連)と参与連帯、2大労総(民主労総、韓国労総)など、市民社会・労働団体は同日、大統領府前で記者会見を開き「イ副会長の赦免・仮釈放が経済的投資に対する政治的見返り、または経済論理に還元され、財閥の企業犯罪の正当化に悪用されることに反対する」と述べた。共に民主党のソン・ヨンギル代表も同日の記者会見で、「チョ・グク(元法務部長官)事態」について謝罪し、「公正と正義の価値を立て直す」と述べた。さらに、イ副会長は現在、違法合併と会計不正の疑いで裁判を受けている。財閥にとって最大の関心事であるESG(環境・社会・ガバナンス)重視の経営にも反する。
文大統領は赦免の建議に対し、「(トップ不在による)困難は理解できる。国民も共感する部分が多い」としたうえで、「経済が以前とは違う展開を見せており、企業の大胆な役割が求められることはよく知っている」と答えた。これに先立ち、大統領府が赦免論について「検討したことはない」と明らかにしたのとはかなりの温度差がある。文大統領の考えが赦免の方に傾いたのではないかと憂慮せざるを得ない。