国連軍司令官であり韓米連合軍司令官・在韓米軍司令官のロバート・エイブラムス氏は来月、30カ月間の勤務を終え、故郷のノースカロライナに帰還する予定だ。彼の苦労に感謝し、将来に祝福があることを願う。
離任を控えた同司令官は5月13日、韓米同盟財団と在韓米軍戦友会が主催した歓送行事で述べた告別の辞で、「表現の自由」について言及した。韓国のマスコミはこれを対北朝鮮ビラ問題と結び付けて韓国政府を遠回しに批判したものだと報道した。
同司令官も、対北朝鮮ビラに関する発言がもたらす波紋を意識したのか、逃げ道を作っておいた。民主主義の主要価値に言及する際、表現の自由を真っ先に挙げる紛らわしい方法を選んだ。もちろん、赴任後30カ月、彼が示した朝鮮半島問題に対する認識や行動からして、その発言が何を意味するのかは明らかだったが。
彼の発言は、これまで韓国国内の懸案には触れなかった慣例を無視しただけでなく、特に韓米首脳会談を控えて敏感な懸案であるビラ問題をあえて送別会で言及したという、時期的にも不適切なものだった。そのうえ、彼が兼任する国連軍司令官としても矛盾した言動である点で、非常に懸念すべきことだ。
3回の南北首脳会談を通じて南北間の軍事的緊張が緩和され、板門店(パンムンジョム)の非武装化措置が進められた2018年11月8日に赴任したエイブラムス司令官は、非武装地帯内での国連軍司令部の管轄権を最優先する立場を示してきた。前任のビンセント・ブルックス司令官の在任中も国連軍司令部の管轄権をめぐり議論になったことはあったが、朝鮮半島問題に対する理解のもと、円満な協力が行われた。一方、エイブラムス司令官は、統一部長官が(軍事境界線南側の非武装地帯にある民間人居住地域の)台城洞(テソンドン)村を訪問した際、記者団の同行を認めず、統一部次官が招待した韓独統一諮問委員会の出席者の非武装地帯の警戒所への訪問も許さなかった。また、複数の機関と団体が南北交流協力事業推進のために非武装地帯への出入り許可を要請したが、安全問題を理由に拒否してきた。
これまで国会とマスコミは、国連軍司令部の過度で恣意的な権限の行使に対し、何度も問題を提起してきた。しかしエイブラムス司令官と国連軍司令部が掲げた「安全問題」が軍人の立場ではあり得る主張であり、国連軍司令部の管轄権をめぐる論争が韓米同盟に否定的な影響を及ぼす可能性があるという反論に阻まれ、本格的な議論には至らなかった。
今回の対北朝鮮ビラ問題に関する彼の発言は、政治的波紋のほかにも、南北関係発展法改正の趣旨を無視している点においても、深刻な問題といえる。これまで韓国政府は、同法が境界地域住民の命と安全を守るため、必要最小限の制限であることを説明してきた。在韓国連軍司令官の任務が非武装地帯を含む朝鮮半島の緊張緩和と平和定着のためのものであることは明白だ。にもかかわらず、「表現の自由」を掲げ、本人がこれまで自分の管轄権を維持するために伝家の宝刀のように振り回してきた「安全問題」に背を向ける態度は矛盾しており、理解に苦しむ。
大韓民国の国民は、1950年当時、東アジアの小さく貧しい国の自由と民主主義のために共に血を流した米国と国連軍に対する感謝の気持ちを忘れていない。韓国政府も停戦協定の枠組みを維持し、非武装地帯で国連軍司令部の軍事的性質の権限と役割を尊重するという立場を明らかにしてきた。したがって、国連軍司令部も南北関係の変化と朝鮮半島における平和の定着に向けた韓国政府の努力を理解し、協力していかなければならない。エイブラムス司令官も告別の辞で述べたように「共にいきましょう」という韓米同盟のスローガンとともに、未来志向的な同盟へと発展させていかなければならない。
新たに赴任するポール・ラカメラ司令官は、現太平洋陸軍司令官として過去に韓国で勤務した経験もあるだけに、朝鮮半島問題と韓国国民に対するより深い理解に基づいて緊密な協力が行われることを期待する。
ヤン・ムジンㅣ北韓大学院大学校教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)