本文に移動

[寄稿]インドを覆う“数字の向こう”の苦しみ

登録:2021-05-08 05:41 修正:2021-05-10 13:46
インドの火葬場の薪の山は、インド政府の問題を暴露すると同時に、数字と現実との間のギャップ、あるいは数字の背後にある人間の経験を物語っている。それは、感染者と死者の数が正確に反映されたとしても、消えることなく、頭の隅に積もっているであろう記憶だ。

チョン・チヒョンㅣカイスト科学技術政策大学院教授・科学雑誌「エピ」編集委員

 1日に2~3回は「コロナライブ」のサイトを開いてみる。自治体が公示する新型コロナ感染者数をリアルタイムで集計して見せてくれるウェブサイトだ。翌日の午前になれば24時間集計された感染者数が公式発表されるが、まるで外出前の気温を確認するように、そのつど感染者数を把握するのが習慣になった。私が住む都市の感染者数だけではなく、ソウルに行く用事がある日は首都圏の数も確認する。

 見やすい形で毎日更新される数字は、不思議な安堵感を与える。感染者数が急激に増えたり、なかなか減らない時でも、その事実を正確に表現する数字があれば、政府や専門家はこの事態を一所懸命に追跡しており、ある程度管理しているという印象を受ける。数字の形でデータを正確に収集し、迅速に提供することは、災害に対応する政府の力を計る指標となる。感染者数の急増に劣らず恐ろしい状況というのは、数字を把握して提供するシステムが作動していないことだ。

 数字は事態の終結への希望を与える。最近は関心が感染者数からワクチンの接種数に移った。感染者数ばかり注目されてきたのに、今はワクチン接種の数を見ている状況そのものが、コロナ禍の解決局面に入ったことを物語っているかもしれない。ワクチン接種が一部富裕国に集中しているが、それでも世界的にワクチン接種10億回を達成したというニュースを聞くと、共通の目標に向かって一歩ずつ進んでいる気がする。ワクチン接種がある数字を上回り、それによって新規感染者数がある数字を下回れば、ようやく新型コロナの流行が終わるという期待が持てる。目標の数字に到達することが、日常への復帰を知らせるシグナルのように受け止められているのだ。

 しかし、14億の人口がいるインドで新型コロナの感染者と死者が急増しているというニュースを見ると、終息や復帰の日はまだかなり遠くにあることを認めざるを得ない。公式統計によると、最近インドで1日の感染者数は30万人以上、死者数は2千人以上にのぼる。さらに心配なのは、このように大きな公式数字も現実をまともに反映していないという専門家たちの指摘だ。ニューヨーク・タイムズがインタビューしたミシガン大学の防疫専門家は、実際の死者数が公式発表より2倍から5倍は多いと推定し、「これは完全なデータ虐殺だ」と指摘した。新型コロナを死因としない事例が積み重なり、大きな違いを生み出した。ミスであれ、意図的記載漏れであれ、災害状況での不幸な死はいつも少なく集計される傾向がある。

 インド政府の死者統計と実際の死者数の差を正確に把握できる方法はない。数字を集計する力そのものが政治的な権力であるからだ。政府が事態を正確に捉えようとする意志を捨てれば、数字は永遠に迷宮入りすることになる。それでも試してみるなら、遺体が集まる場所を直接尋ね、情報を収集し、記録するしかないだろう。ニューヨーク・タイムズはインドの各州政府が発表する死者数よりはるかに多い遺体が地域の火葬場に運ばれていると報じた。例えばインドのボパール市は4月中旬の13日間で新型コロナ関連の死者が41人だと公式発表したが、同紙が地域の火葬場と墓地を取材して推算した死者数は1千人以上だった。火葬場の管理者から正確な説明を聞くことができなかった記者は、遺体が同時に火葬される場所の近くに積まれている薪の山を描写することで記事を締めくくった。果てしなく補充される薪の山の大きさが、政府発表の数字より死の現状をより正確に示している。

 インドの火葬場の薪の山は、インド政府の問題を明らかにすると共に、数字と現実との間のギャップ、あるいは数字の背後にある人間の経験を物語っている。それは、感染者数と死者数が正確に反映されたとしても、消えることなく、頭の隅に積もっているであろう記憶だ。私たちは体系的で正確な数字を通じて新型コロナという災害に対応できるが、この災害の結果を数字だけで片付け、記憶することはできない。感染した人とそうでない人、死亡した人と生き残った人は、いずれもそれぞれの立場で集計では捉えられない苦しみを味わった。この苦しい経験を記録して記憶することこそが、すべての数字が集計されてから始まる長い回復の過程の基礎になるだろう。

//ハンギョレ新聞社

チョン・チヒョンㅣカイスト科学技術政策大学院教授・科学雑誌「エピ」編集委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/994113.html韓国語原文入力:2021-05-07 02:36
訳H.J

関連記事