先日、175人の元国家首脳とノーベル賞受賞者が米国のバイデン大統領宛に公開書簡を送った。全ての大陸を網羅するこれらの人士は、新型コロナウイルスワクチンの特許を期限付きで停止するようバイデン大統領に求めた。「ワクチン二極化」がコロナに劣らぬ大災害になるとの警告は、普遍的な人類愛に立脚している。そこに、ノーベル経済学賞受賞者で米コロンビア大学教授のジョセフ・スティグリッツの鋭い経済学理論が加わった。
スティグリッツは特許をはじめとする知的財産権の経済的効果を批判的に考察してきた。知的財産権は、政府が革新者に対して独占的利益を得る権利を一定期間保障する制度だ。「反独占」の一般原理を免れることができたのは、誰でも適切な動機があってこそ革新に身を投じるし、それによる恩恵を皆が共に享受しうるという論理のおかげだ。しかし、この論理は経験的に立証されてはいない。一方で反証はあふれている(『スティグリッツ教授のこれから始まる「新しい世界経済」の教科書』)。
「強力な知的財産権は、さらなる革新のために非常に重要となる『知識の拡散』を制限するため、予想とはまったく異なり、経済で起こる革新を実際に妨害しうる」。スティグリッツは、知的財産権がかえって革新のための後続研究を妨害してきたことを体系的に論証する。医薬品は「特許の失敗」を代表する。特許に阻まれ、同一の効能を持つ薬品の開発のために、重複する研究に天文学的な費用が投入され、非倫理的な臨床実験も量産されている。
医薬品の特許の独占に対抗する唯一の制度が「強制実施許諾」だ。戦時やパンデミックのような危機的状況において、政府が特許を停止し、複製薬を供給できるようにする規定だ。驚くべきことに、これは特許制度の外ではなく、内部の制度だ。世界貿易機関(WTO)の知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPs)に含まれており、米国をはじめとする各国の特許法にも含まれている。まるでコロナを予想でもしていたかのように。
しかし強制実施許諾は、覇権主義と利潤の前においては張り子の虎だ。米国では6月には3億5000万人分のワクチンが余ることになるが、バイデン大統領は「我々も足りない」と仮病を使い「ワクチン行列外交」に余念がない。ワクチンの使用期限が迫っても「投げ売り」はしないだろう。米国系多国籍食糧企業が価格維持のために、余った食糧を飢餓救済に使わず捨てるのと同じように。