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[コラム]インド太平洋戦略は「自己充足的予言」にすぎない

登録:2021-04-06 07:13 修正:2021-04-06 07:49
対中封鎖が必要ならば、東アジア海域に集中し、きめ細かな紛争管理を行わなければならない。インド太平洋戦略は、実体もないのに、米国の軍事力を過剰展開する印象を与え、相手国のさらなる対応を誘う恐れがある。これは何よりも、誰も得しない「海の道をめぐる紛争」へと突き進むものだ。
米国のジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席//ハンギョレ新聞社

 国際物流に混乱を与えたここ数日間のスエズ運河封鎖は、米中対決の陰鬱なシナリオを強化した。

 2007年以降、再び強まってきた米国の封鎖に直面した中国は、南シナ海を内海にしようとしている。一方、米国はインド太平洋戦略に基づく海の封鎖で中国に圧力をかけている。このような事態は、中東から東アジアまで続く海域で不安と対決の増幅につながる恐れがある。

 海路を通じた輸送費用は、陸路に比べて30分の1から10分の1に過ぎない。全体物流の90%以上が今も海路を利用している。米国のミシシッピ川水域で航行可能な長さは3000キロに達する。世界では内陸部の航路の半分以上が米国にある。内陸の奥深くまで航行可能な水路で、全米の生産力が有機的につながり、海にも直接つながったことで、米国は一気に世界最大の生産力を備えた。一方、ソ連は広い国土を有しながらも、海に出る道が封鎖され、経済の動脈硬化が慢性化した。

 第二次世界大戦以降、世界は前例のない海の安全と航行の自由を享受してきた。米国が掌握した制海権のおかげだ。制海力があまりないソ連が、米国の制海権秩序を認めたからでもある。中国の浮上とこれを阻止しようとする米国の戦略は、再び海をめぐる争いを可視化させた。

 ここで改めて考えなければならない点がある。中国は皆に航行の自由を保障する米国の制海権秩序を認めようとしないのか。また、米国のインド太平洋戦略は本当に中国の封じ込めに効果的なのか。これは「自己充足的予言」である。つまり、そう考えるほど、それが現実化する可能性が高まるということだ。

 「インド太平洋」は、2000年にインドのある海軍将校がインド洋でインドと日本の海上の安全協力のために作り出した言葉だ。安倍晋三前首相が2007年にインドを訪問し「太平洋とインド洋は、今や自由の海、繁栄の海として、一つのダイナミックな結合をもたらしている」とし、「従来の地理的境界を突き破る『拡大アジア』が、明瞭な形を現しつつある」と述べ、インド太平洋を結び付けた。米国で最も大衆的な地政学者ロバート・カプランが、2009年と2010年に「フォーリン・アフェアーズ」にインド洋の制海権の死活的重要性を主張した「21世紀の中心舞台」と中国の地政学的野望を強調した「中国覇権の地理」という論文を発表し、米国でインド太平洋概念に火をつけた。

 インドは周辺海域の海上の安全を、日本は東アジア海域で中国勢力のけん制を意図したが、米国はこれを「世界戦略」として捉えたのだ。中国(中華人民共和国)は建国以来、南シナ海の領有権を主張してきたが、南シナ海環礁島で人工構造物を本格的に積み始めたのは、バラク・オバマ政権の「アジアへの帰還」戦略が発表されてからだ。

 中国など東アジア経済が世界の工場と言われるまで拡大し、中東の石油など原材料の海路としてインド洋の重要性が浮き彫りになったのは、必然かもしれない。米海軍は、中国がインド洋沿岸部に沿って(パキスタンの)グワーダル、(スリランカの)ハムバントタ、(バングラデシュの)チッタゴンなどの港を掌握する「真珠の首飾り」戦略を採択したという「中国脅威論」を発表した。しかし、これは主要港で専用埠頭をつくる程度にもかかわらず、まるで軍港として租借でもしたかのように誇張したものだった。

 米国のジョー・バイデン政権は今、対外政策を再調整している。要は中東の比重を減らし、アジアの比重を増やすことだ。中東からの撤退を推進したドナルド・トランプ前政権でも、イランの緊張で中東で米軍兵力が一時9万人まで増えたが、バイデン政権発足後、5万人に削減された。イエメン内戦への介入中止を明らかにし、アフガニスタンからの撤退も後戻りできないものになりつつある。

 ところが、米国は再びインド洋の他方を東アジアと結びつけ、勢力争いを繰り広げる構えである。問題は、米国がインド太平洋地域と規定する勢力圏の“インド”に足を踏み入れる拠点があまりないため、勢力圏を作るためには莫大な介入と資源を投入しなければならないという点だ。例えば、米国の空母が常駐するか、少なくとも随時配置されてこそ、少なくともインドも対中封鎖に協力することができるだろう。

 対中封鎖の概念自体が正しいのかも疑問だが、対中封鎖が必要ならば、東アジア海域に集中し、きめ細かな紛争管理を行わなければならない。インド太平洋戦略は、実体もないのに、米国の軍事力を過剰展開する印象を与え、相手国のさらなる対応を誘う恐れがある。これは何よりも、誰も得しない「海の道をめぐる紛争」へと突き進むものだ。

//ハンギョレ新聞社
チョン・ウィギル国際部先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/989697.html韓国語原文入力:2021-04-06 02:36
訳H.J

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