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[寄稿]「韓国外交失敗論」の根拠を問う

登録:2021-01-25 06:31 修正:2021-01-25 07:27
批判は民主主義の基本だ。しかし、批判は事実に基づかなければならない。偏見と憶測、罵倒のための批判は、民主主義を権力闘争の悲劇に陥れるだけだ。これから1年5カ月間、韓国外交が成果を成し遂げることを望むなら、なにより責任ある批判が必要である。

ムン・ジョンインㅣ延世大学名誉特任教授

 時が経つのは早い。文在寅(ムン・ジェイン)政権の任期はもう1年5カ月しか残っていない。この3年7カ月がまるでジェットコースターのように流れた。2017年の危機から出発し、2018年の希望の一年が訪れたが、2019年2月、ハノイでの朝米首脳会談が物別れに終わったことで、朝鮮半島は再び凍りついた。出口がなかなか見つからない。このような現実を反映するように、国内外で文在寅政権の外交政策に対する批判も高まっている。

 代表的なのが、韓国メディアのいわゆる「外交失敗論」だ。同意しがたい。文在寅政権が当初掲げていた朝鮮半島の非核化と平和体制の構築という目標を達成できなかったのは事実だ。しかし、これが短期間で実現できる課題ではないことは説明する必要もないだろう。さらに、これに向けて進んでいく過程で成し遂げたことも多い。板門店(パンムンジョム)宣言や平壌(ピョンヤン)宣言、南北軍事合意書を採択し、これによって天安艦事件や延坪島(ヨンピョンド)砲撃、木箱地雷のような軍事的危機状況は発生しなかった。口頭と書面で北朝鮮指導者の非核化の意志を確認し、シンガポールとハノイで2回にわたる朝米会談を可能にしたことは、決して些細な成果ではない。北朝鮮の核保有が本格化して以来、歴代のどの政権がこれほどの成果をあげたのか。非核化と平和を模索した2018年の外交努力を過小評価してはならない。

 さらに、破綻したという韓米同盟は依然として堅固であり、中国との関係も特に問題がない。2国間だけでなく多国間外交で成し遂げた成果も少なくない。新型コロナがもたらした危機がなかったら、さらに多くの実績をあげただろう。終わるまでは終わりではない。

 次に、一部の日本のジャーナリストや保守論客たちは、文大統領のポピュリズムが韓日関係を駄目にしたと批判する。彼らの主張は強制徴用被害者や慰安婦問題を大統領が国内の政治的目的のために悪用しているという認識を前提にしている。事実とは異なる。支持率が高止まりしていた任期初めからこれまで、文大統領は一貫した態度を守ってきた。

 文在寅大統領は、初期から歴史問題は韓国国民に集団記憶と傷として残っているため、治癒に時間がかかるという点を強調してきた。したがって、歴史問題は国民的合意を求めながら漸進的に解決し、北朝鮮の核問題や中国の浮上、経済協力など急がれる戦略的事案から協力を進めていこうという立場を維持してきた。これらの分野での協力で成果があがれば、国民への説得も容易になるという趣旨だった。

 しかし日本指導部は、先に歴史問題を解決しない限り、韓日協力は不可能という態度を示してきた。菅義偉首相にしても、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は条件もなく会う用意があるとしながらも、昨年12月、ソウルで開催される予定だった韓日中3カ国首脳会議には徴用工問題が解決されなければ出席できないと述べた。韓国は三権分立が明確な民主主義国家だ。行政府が司法府の判決を覆すことはできない。さらに、文大統領は人権弁護士時代から被害者中心主義を掲げてきた。民主主義制度と原則に基づいたこのような外交政策がポピュリズムに基づいているという主張は納得できない。

 三つ目に、最近登場した米マスコミの批判だ。昨年、国会で可決された「南北関係の発展に関する法律(対北朝鮮ビラ散布禁止法)」が、散布禁止の基準や対象、主体、方法などを広範囲に規定しており、韓国国民だけでなく、外国人の基本権まで過度に制限するという理由からだ。これと関連し、韓国国内でも一部の人々が憲法裁判所に異議を申し立てており、最終判断を見守らなければならないが、その立法趣旨に立ち返ってみると、評価は変わらざるを得ない。表現の自由と北朝鮮の人権の増進という普遍的価値に劣らず、200万の境界地域の住民の生命と安全も重要であるからだ。

 同法を立案した議員らは、南北がビラ散布を含めて誹謗をしないと合意したという点を指摘する。その履行のためにも当該法律が必要だというのが彼らの主張だ。なお、散布ビラの実効性については疑念の声が上がって久しい。ビラやCD、ドルなどが北朝鮮側地域にどれだけ届くのか分からないだけでなく、処罰を恐れる住民はビラを発見すれば直ちに当局に届け出るのが現実だ。このように限界が明確な行動を、境界地域の住民の不安を甘受してまで、一部の人々の表現の自由のために放任するのが政府の適切な態度なのだろうか。「国際人権規範と韓国の主権の衝突」という一部のフレームが大袈裟に見えるのもそのためだ。

 批判は民主主義の基本だ。しかし、批判は事実に基づかなければならない。偏見と憶測、罵倒のための批判は、民主主義を権力闘争の悲劇に陥れるだけだ。これから1年5カ月間、韓国外交が成果を成し遂げることを望むなら、何よりも責任ある批判が必要である。

//ハンギョレ新聞社
ムン・ジョンインㅣ延世大学名誉特任教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/980105.html韓国語原文入力:2021-01-2502:39
訳H.J

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