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[コラム]感染症時代の民主主義

登録:2020-10-20 02:41 修正:2020-10-20 09:04

中国武漢で新型コロナの発症が初めて確認された時は、1年近く世界的流行が続くと予想した人はほとんどいなかった。コロナ以降も第2、第3のまた別のパンデミックが襲ってくるだろうと専門家たちは言う。一時的にではなく、日常的な感染症時代を私たちは生きていかねばならない。「一時的な基本権の制約」の水準に注目するのではなく、新たな時代にふさわしい民主主義の原則と合意が必要だ。

週末を迎えた17日午前、ソウル光化門広場に「都心内集会禁止」という案内板が設置されている。光化門広場には3週間ぶりに大規模集会も警察車両のバリケードも登場しなかった/聯合ニュース

 先週末、ソウルの光化門(クァンファムン)広場から3週間ぶりに警察車両のバリケードが消えた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の防疫レベル(社会的距離措置)がレベル2からレベル1へと引き下げられたせいもあるが、より根本的には、車両バリケードの設置に対する市民社会の懸念を、警察や政府が受け入れたものと考えることができる。新型コロナの状況が再び悪化し、8月15日の光復節のように極右保守団体による大規模違法デモの兆しが現れれば、状況は異なってくる可能性がある。しかし、感染症時代において基本権の制約を最小限に抑えつつ、集会・デモを行うことを受け入れる「調和とバランス」に一歩近づくためには、二度と車両バリケードは登場しない方が良い。

 車両バリケードや厳重な検問がなくても、先週土曜日のソウル都心の保守団体による集会が順調に済んだのには意味がある。報道によると、集会場所の歩道と車道には警察の部隊が配置されたものの、市民と車両の通行は自由だったという。100人に制限された集会には90人あまりが参加し、一定の距離を取って椅子に座り、集会の裏側では警察と区役所、主催者側が共に参加者たちの発熱検査を行った。人数と場所の制約はあるが、こういった形にしろ拡声器を通じて意見を表明できるということは重要だ。大規模な感染拡散という高い代価は払ったものの、光復節やその後の10月3日の開天節と9日のハングルの日の集会を経て、デモ主催団体と警察の両者とも、節制されたかたちの集会・デモの開催へと少しずつ意見の接近を図っているようにみえる。

 もちろんサラン第一教会のように、集会を政治的対立をあおる場にしようとする試みは、常に再演される可能性がある。しかし、国民の共感を得ることは難しい。政府を攻撃する前に、まず国民の健康に深刻な打撃を与える危険性が高いためだ。車両バリケードや検問所の設置など、警察の行き過ぎた対応にもかかわらず、世論調査をみると政府が過度に公権力を行使したと考える国民は多くない。

 これを、警察力と行政権の乱用を合理化する足場とされては困る。政府は「未曾有の社会的災害の中で一定部分の基本権の制約は避けられないが、これによって他国に比べてはるかに高い防疫成果を上げている」と話す。10月12日現在、人口10万人当たりの韓国の新型コロナによる死亡率は0.8人で、米国(64.9人)、英国(64.8人)、フランス(50.3人)、日本(1.3人)に比べてはるかに低い。全世界がベンチマーキングするK-防疫の力だ。

 K-防疫成功の最も大きな要因は、韓国国民の高い共同体意識と考えるのが妥当だ。感染者の動線把握のためのスマートフォン追跡や位置情報の共有、ビッグデータの活用などについての法的議論が起きる前に、公共の安全のために自主的に協力し、不便を受け入れるのはほかならぬ市民たちだ。感染症予防法第49条は公共交通機関でのマスク着用を義務付けているが、この条項をあえて記憶していなくても、公共の場でマスクをつけることは、誰もが「市民の責任」と考えている。

 政府が「社会的災害状況における基本権の制約」問題をもう少し重く認識し、集会・デモやプライバシーの問題にもより細心の注意を払ってアプローチすべき理由がここにある。法と規定に頼るより、国民の自発性と信頼に基づいて感染症災害に対処することの方が、はるかに効果的で大切であることが証明されたからだ。であればこそ、警察力と行政権を常に国民の支持を基盤として行使する努力がいっそう重要となる。

 昨年末に中国武漢で新型コロナの発症が初めて確認された時は、1年近く世界的流行が続くと予想した人はほとんどいなかった。来年上半期中に治療薬が出ると多くの人が期待してはいるものの、断言はできない。新型コロナが過ぎ去っても、第2、第3のまた別のパンデミックが襲ってくるだろうと専門家たちは言う。一時的にではなく、日常的な感染症時代を私たちは生きていかねばならない。

 「一時的な基本権の制約」の水準に注目するのではなく、新たな時代にふさわしい民主主義の原則と合意が必要な時期だと考える。週末の都心集会のような小さな行動一つ一つから新たな規定と合意を作り出し、実践していくことが大切だ。広場を取り囲む警察車両バリケードが見苦しいなら、通行を完全に妨がないようにしつつ、防疫に対抗する不法行為を阻止する強化プラスチック遮断網のような設備を新たに作って対応しなければならない。スマートフォンによる位置情報収集が今後、政府、特に企業の私的利益のために活用されないことを明確に国民に納得させ、そのための法と制度を整備することも必要だ。政界も例外ではない。集会とデモを政治的攻撃手段程度に考えていては、はるかに先を行っている市民の共同体意識にはついていけない。このような議論と論争こそ、感染症時代に民主主義を守っていくための第一歩であろう。

//ハンギョレ新聞社

パク・チャンス|先任論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/966357.html韓国語原文入力:2020-10-19 17:44
訳D.K

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