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[寄稿]新冷戦時代に必要な「外交的ディスタンシング」の知恵

登録:2020-08-18 21:07 修正:2020-08-19 09:53

米国の反発を買うことになっても、南北協力を現在よりはるかに果敢に推進する必要がある。中立国のオーストリア、フィンランド、スウェーデンが冷戦の中で平和と繁栄を享受したように、争いにまきこまれない者が結局は最後の勝者になる。古今東西の鉄則だ。

イラストレーション=キム・デジュン//ハンギョレ新聞社

 私たちが現在生きている2020年は、今後おそらくいくつかの方式で記憶されるだろう。新しいパニックの年としても記憶されるだろうが、何よりも中国と米国の対立が全面化・表面化して、新冷戦の水準にまで深刻化した年として記憶されるだろうとみる。冷戦の中で、分断され2つの兵営国家の暴力的“体制競争”を味わったところが朝鮮半島だ。新冷戦は、まだ冷戦構造が清算されてもいない朝鮮半島に、下手をすると途方もない破壊的影響を及ぼしかねない。そこで、うまく対応するためにはまず新冷戦についていくつか重要な事実を念頭に置かなければならない。

 一つめに、両陣営の看板にだまされてはならない。中国の「社会主義」の看板は、歴史的“名分”に過ぎない。現在の中国の体制は、国家官僚資本主義であり、不平等の水準は“社会主義”の意味を退色させる。不平等の尺度として使われるジニ係数は、0に近いほど所得がまんべんなく分配された状態で、1に近ければ不公平に分配されているという意味だが、最後に発表された中国のジニ係数は0.467で、韓国(0.345)はもちろん、さらには米国(0.414)よりも激しい所得不平等を示している。一方で、看板は「多党制民主主義」だが、国富全体の38.6%を占める1%の最上位層が民主・共和両党の政策に決定的な影響を及ぼす米国で、本当に“民”が国の“主”になっていると考えるならば、あまりに純真な想像だ。実際、中米両国は両方とも寡頭政治(oligarchy)の社会であり、この寡頭政治が作動する方式が歴史的に違うだけと見るのが正しいだろう。両国の争いは理念対立ではなく、利権をめぐって繰り広げる泥仕合に過ぎない。

 二つめに、米国と中国が世界体制でそれぞれ占める位置は異なっており、中国が“米国の座”を当分のあいだ代わりに占めるはずもなく、また占めようとすることもない。米国は一次的に軍事覇権を行使して、世界市場を軍事的に統制している。現在、米国は約70カ国に600ほどの軍事基地を保有し、17万人の米軍兵力を海外に駐留させている。それとは対照的に、中国の海外軍事基地はたった1カ所のみだ。これと同時に、米軍はドル貨幣を基軸通貨として使う世界金融体系を支配している。世界各国の外貨準備高は、今でもドル貨幣の比率が61%にもなる。それに比べて、中国元貨が世界各国の外貨準備高に占める比率は約2%であり、ドルはもちろん英国ポンド(4.4%)の半分にも及ばない。中国は依然として一次的に生産大国であり、軍事大国でも金融大国でもない。世界の工業生産で中国は28%を占める反面、米国は16%にしかならない。この生産大国は、もちろん今後は軍事膨張や国際金融界への浸潤を目指すだろうが、これは一次的に中国周辺地域で成り立つことであり、しかも徐々に成り立つことだ。中国が米国のような世界の軍事・金融覇権を確保するというのは、今後数十年間は現実的に不可能だろう。

 三つめに、過去の米ソ冷戦とは異なり、新冷戦時代には世界の地理的両分も、一糸乱れぬ陣営対立もないだろうとみる。完ぺきに“親中”態度で一貫する国家はどこにもない。中国の唯一の公式的軍事同盟国は北朝鮮だが、北朝鮮の主導層も内心で最も望んでいるのは対米・対日修交を結ぶことと、対中国貿易依存度を減らすことだ。しかし、それと同じように「完ぺきな親米」も現実的に不可能だ。例えば、最近オーストラリアは中国を狙って対米軍事同盟関係を強化するいくつかの措置を取ったが、オーストラリアの対外貿易に中国の占める比重は24%である反面、米国の比重はわずか8%だ。いくら親米ジェスチャーを取るとしても、こうした貿易構造が維持される以上、その限界も明らかだろう。結局、中米が対立する状況では“他の世界”のほとんどの国が絶妙な“綱渡り”を行わなければならない。もちろん、各国は地政学的位置により中米との親疎の程度がそれぞれ違うだろう。例えばロシアやカザフスタンは、中国とのパートナー的関係を当分維持すると見られるが、韓国や日本は米国の軍事同盟に残るだろう。それでも、そうだったとしても韓国としてはいくつかの“外交的ディスタンシング”が明確に必要だ。

 まず、中米両国の事実上の寡頭支配モデルから距離をおく必要がある。現在の中国のモデルは韓国と歴史的に特別な縁はないが、米国の新自由主義的モデルは過去20数年にわたり韓国に多大な影響を及ぼしてきた。韓国の金持ち“総取り”現象は、まだ米国程ではないが、大々的に失敗している米国モデルをますます追従していっている。制度的民主主義が導入され、学生デモ隊が“財閥解体”を叫んだ1987年には、財閥トップ一家を含む最上位1%が全所得の9%程度を握っていた。今は最上位1%が全所得の16%を、上位10%が全所得の50%を占める時代だ。上位10%をはじめとする土地投機のために高騰を続ける住居価格を抑えなければ、この国では庶民が住居を持つのはまったく不可能になるだろう。米国モデルを完全に離れ、金持ち増税、大企業が納める法人税の引き上げの道に進まなければ、韓国の市民には未来がない。韓国には、失敗した米国モデルではなく、国家的再分配を基盤として無償の医療・教育を含むモデルが切実に必要だ。

 次に、どちらか一方の他方に対する敵対行為にまきこまれてはならない。韓国は当分、韓米同盟の枠組を現実的に打破することはできないが、米国の反中国の挑発に加担すれば、得るものは全くない。軍事・金融大国と生産大国の間の対立は、きわめて長く続く可能性があり、結局は軍事と金融の覇権をいくつかの列強が分けて持ち合う、より多極的な国際秩序の出現に帰結する可能性が高い。こうした多極的な国際秩序に適応するために、韓国にとって必要なことは、一方に対する盲目的な“忠誠”よりは、いくつもの側との互恵関係、そして可能ならばすべての国際関係において対外依存度を減らすことだ。実際、今後の世界地図で南北協力の強化は南北双方にとって最善の選択になるだろう。南北協力を通じて、北側が対中国済依存度を減らし、南側が対米軍事依存度を減らすならば、南北双方の新しい国際秩序への安着に大きく役立つだろう。それにともない米国の反発を買うことになっても、南北協力を現在よりはるかに果敢に推進する必要がある。

 中立国のオーストリア、フィンランド、スウェーデンが冷戦の中で平和と繁栄を享受したように、争いにまきこまれない者が結局は最後の勝者になる。古今東西の鉄則だ。

//ハンギョレ新聞社
パク・ノジャ(Vladimir Tikhonov)・オスロ大学教授(韓国学)(お問い合わせ (お問い合わせ japan@hani.co.kr ))
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/958230.html韓国語原文入力:2020-08-18 19:30
訳J.S

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