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[寄稿]仁川国際空港非正規職の正規職化の内幕

登録:2020-07-14 22:03 修正:2020-07-15 07:32

幸いなことに報道機関が仁川国際空港の正規職化について素早く「ファクトチェック」記事を伝えた。

労働問題事件に関する報道は、出入り記者が会社・検察・警察の報道資料に過度に依存しているために労働者の立場が反映されない場合が多かったが、今回は「ファクトチェック」を要求する側が“使用側”であったために明らかになった特異現象である可能性が高い。

公共輸送労組仁川空港地域支部の労組員が18日午後、仁川空港出国場で「まともな仁川空港正規職化対策会議の発足および立場発表記者会見」を開き、労働条件の後退なき正規職化など6800人の労働者の意見を最大限反映することを要求している=仁川空港/シン・ソヨン記者//ハンギョレ新聞社

 仁川国際空港の保安検査台の職員を直接雇用し正規職化すると発表した後に、韓国社会に現れた現象は、「大変なことが起きた」と表現してもよいほどに非正常的なことだった。報道機関と政治家たちは、先を争うように「若者層」を代弁すると名乗りを上げた。「就活生」と表現される若者たちも主体的に立ち上がり、よく俗語で表現される「運動圏」(進歩的な社会改革運動に積極的に参加する人々)の若者たちに劣らず積極的に自分たちの姿を見せた。仁川国際空港公社で今「正規職」として働く人々も、非正規職の正規職化に反対する集会を開くなど活発に活動を繰り広げたが、集会に参加した正規職には入社年次が新しいと思われる「若者」が多かった。

 20~30代をそっくり青年運動に献身してきた活動家が、「全国のほとんどすべての大学のキャンパスに一年間大字報の1枚も貼り出されないほどに、韓国の社会青年運動は衰えてから久しい。『青年運動』は今や政治家や少数の活動家が自分たちの目的を達成するためのレトリックとして利用されるだけで実体がない」と虚しく言うほどに、韓国社会で集団的に自分の声を上げる若者の姿を見るのは難しくなったが、実に久しぶりにその若者たちが実体を見せた。

 そんな中で、マスコミが注目することもせず、本人たちも自分の姿を見せるどころか、むしろ隠れるようにしていた若者たちの姿が珍しく見られたが、それが今回正規職化の対象になった空港の乗客保安検査台の青年職員たちだ。「食堂でご飯を食べる時も知らず知らずに頭を下げていました」とも語った。

 聴覚障害者は“手話”をする人の手の動作を見ただけで、非障害者のする手話はすぐに見分けられると言う。放送会社の時事番組に聴覚障害者のインタビューが“再現”というレッテルを付けて出た時、その場面を見た聴覚障害者は「あれは非障害者がする手の動作だ」とすぐに分かった。製作スタッフが望んでいたインタビュー内容が、実際に聴覚障害者から出てこなかったために、手話のできる非障害者にやらせて、希望通りの内容でインタビューしたかのように見せたために起きたことだ。

 仁川国際空港の非正規職の正規職化“事態”でも、“アルバイト”で就職したが正規職になったとか、年俸を5千万ウォン(約450万円)も受け取ることになったとか、君たちはソウル大・延世大・高麗大にどうして通うのかという皮肉など、グループチャットルームで交わされた話が果たして本当なのかを保安検査台の職員に尋ねたならば、「仁国公」(仁川国際空港公社)という一単語だけでも保安検査台の職員がした話でないということが、すぐにわかっただろう。実際、空港で働く職員たちは、“仁国公”とか“仁公”などという言葉はほとんど使わないからだ。労働者たちは、自分たちが働く職場名をむやみに簡単に縮めて言うことはない。冷麺が単に好きなだけでなく、故郷の冷麺に相当な自負心を抱いていた北側出身の離散家族である私の両親が「ピネン」(ピビンネンミョン=薬味を混ぜて食べるスープなしの冷麺)とか「ムルレン」(ムルレンミョン=スープのある冷麺)という呼称を使わないのと似ている。

 今回の仁川国際空港の非正規職の正規職化“事態”は、つまるところ非正規職が正規職に転換されて賃金が大幅に引き上げられるなど大きな恩恵を受けたかのように誤って伝えられて起きた事態だった。保安検査台の職員が普段水準の賃金を維持したまま「間接雇用」から「直接雇用」に雇用形態だけが変わっただけだ。既存の正規職とは異なる別途の職群を作り、公社が吸収する形態なので既存の正規職とは業務の内容も重ならず、昇進競争の対象にもならない。周期的に解雇の危機に直面する状況から抜け出して、雇用だけは安定的に維持されることになるため、事実上の「無期契約職化」に近い正規職化であり、さほど大声を上げて非難する内容でもなかった。

 「ロト」(宝くじ)は、韓国社会ではよく途方もない恩恵を得ることを象徴する単語として使われる。労働条件が大きく変わらない正規職化を「ロト就職」と表現し「ロト就職防止法」まで発議するようなことではなかった。

 幸いなことに報道機関が仁川国際空港の正規職化について素早く「ファクトチェック」記事を伝えた。労働問題事件に関する報道は、出入り記者が会社・検察・警察の報道資料に過度に依存しているために労働者の立場が反映されない場合が多かったが、今回は「ファクトチェック」を要求する側が“使用側”であったために明らかになった特異現象である可能性が高い。

 アンケート調査の結果、20代では今回の仁川国際空港正規職化に賛成する人が次第に多くなった。スマートフォンなどを通して、日常的にマスコミなどの新しい情報と接触する機会が多い世代であるためだろう。乗客保安検査台の職員を直接雇用の正規職化することに対する考えが、未だに「反対」に留まっているならば、少し調べてみてから判断しても遅くない。

//ハンギョレ新聞社
ハ・ジョンガン聖公会大学労働アカデミー主任教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/953590.html韓国語原文入力:2020-07-14 19:03
訳J.S

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