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[寄稿]災害支援金、世帯主への支給は正しかったのか

登録:2020-05-26 09:08 修正:2020-05-26 13:16

 世帯主が申請して受け取れるように設計された(新型コロナウイルス感染症措置における)緊急災害支援金によって、住民登録上の世帯が現実では住居と生計を共にする世帯・家族と同じではないことが浮き彫りになった。なぜ最初から個人に支給するようにできなかったのだろうか。大統領府の国民請願掲示板では「世帯ごとの支給では世帯の規模によって個人に回ってくる分が変わってくるため公平性に欠ける」という批判をはじめ、世帯主が受けとってはならない家族の事情を込めた請願が相次いだ。韓国女性団体連合は、世帯主が申請するという原則は個人の生活を保障できないとし、災害支援金は家族の形態や状況と関係なく、全ての個人に対して支給されなければならないという声明を発表した。

 行政安全部は異議申し立てが約7万件に達したと発表した。住民登録上の世帯主が行方不明であったり、外国にいたり、施設にいるケースもあった。世帯主と世帯員が確執を抱えている関係にあるため、世帯主が受領した支援金が世帯員に使われないというケースもある。家庭内暴力、性暴力、児童虐待の被害者で世帯主と違う所に居住するケースがそうだ。離婚した夫婦が健康保険被扶養者関係を整理していない場合、実際の居住と生計をともにしている親ではなく、他の親宛てに子どもたちの支援金が支給されるケースもある。世帯の構成が法的な家族関係と異なるケース、離婚訴訟中の世帯、事実上別居状態である世帯など、現実での家族の暮らしは世帯主が代表できない数多くのケースに広がっている。政府は現実的に問題が続出すると、異議申し立てをすれば世帯主と分離して受け取ることができるようにした。

 住居と生計を共にするならば、世帯主が受ける支援は均等な分配を保障するのだろうか。すでに一部のメディアは、災害支援金を誰がどのように使うかをめぐり家族同士の対立が起きていると報じている。受給者が誰になるのかは、社会保障の歴史において重要な問題だ。20世紀初頭、英国では国が児童を支援しなければならず、その手当は絶対に母親が受け取るべきだという運動があった。当時、この家族手当運動を率いたエレノア・ラスボーンは、子育ての責任を持つ母親が受給者にならなければ子どものために使われないと主張した。このような主張は、1900年代に女性の参政権運動をしながら訪れた多くの低所得労働者の家庭で、女性と子どもの暮らしがどれほど不平等かを見聞きしていたためになされた。世帯主や生計扶養者が同等に代理できない家族員の権利と平等を守ることが重要だと提起されたのは、今から約100年前のことだ。

 2018年の人口住宅総調査によると、韓国は約2千万世帯あり、このうち1人世帯が29.3%で最も多い。2人世帯を合わせると、全体の半分を超える。30年前までは4人世帯が29.5%で最も多く、世帯全体の半分を4人、5人世帯が占めていた。全体の28.7%を占めていた5人世帯は、現在では5.4%に過ぎない。生計を共にする家族の単位と規模が変わった社会であるにもかからわず、「4人家族」という基準、扶養者と被扶養者、世帯主または家族の代表を求める古い習慣は遅々として変わらない。問題は、現実にそぐわなくなってきた社会保障制度の遅滞が、少なからぬ人に意図せず不便と苦痛を与えているということだ。

 最近、新型コロナ後の社会を討論する場が多く開かれている。感染症防疫対策も、大きく見れば社会構成員の所得や健康、教育と介護を包括する社会保障制度の中で扱われている。何より重要なことは、新たな危険と戦いながら得られる知恵が社会保障制度の革新と現代化につながるようにすることだ。20世紀に導入され発展してきた公共扶助、社会保険中心の所得保障制度で、働く男性と家事を担当する女性、そして子どもからなる伝統的な家族を前提に設計された給付体系を改善しなければならない。現代社会で男性と女性は既に等しく教育を受け、みなが職業を持って社会活動をしようとしている。保育と長期療養制度は、すべての社会構成員に対して人生の特定の時期に必要な基本的なケアを社会的に提供している。今や現代社会の家族は、政府が提供するセーフティネットの基礎の上で、人々の暮らしと関係をより深める多様なかたちで自由に存在する。したがって、現代社会において社会保障がより効果的に個人の生活の質を高め、社会的な危険に対処するためには、標準的な世帯単位に基づいた所得保障の慣習を検討しなおす必要がある。変わりゆく家族、そして家族の中の個人の暮らしにさらに注目する方向へと、社会保障制度の現代化を図るべきである。

ヤン・ナンジュ大邱大学社会福祉学科教授

ヤン・ナンジュ|大邱大学社会福祉学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/946385.html韓国語原文入力:2020-05-26 02:09
訳C.M

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