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[寄稿]災難脆弱国家、災難脆弱社会

登録:2020-03-10 20:43 修正:2020-03-11 06:58
ソウル市九老区のコールセンターで、新型コロナ集団感染が発生した。10日午前、ビルの外部に設置された選別診療所で、入居者たちが検診を受けるため並んでいる=パク・ジョンシク記者//ハンギョレ新聞社

 今回、中国人と中国同胞が多く居住する安山(アンサン)などで新型コロナウイルス(COVID-19)感染者が見られなかったので良かったが、仮にここから10人の陽性判定者が出たとすれば、“中国人たたき”はほとんど狂気の水準になっていただろう。ところが、保守マスコミや保守野党は「中国(人)遮断」が受け入れられないとして、マスク大乱を理由に政府を攻撃している。この国家的災難の情況で、これらの報道機関と第一野党は政権の言葉尻を捉えて攻撃することに終始していた。

 今回のような大きな災難は、常に恐怖と不安をもたらし、この不安は政治勢力とマスコミの扇動でほとんどパニック状態に変わりうる。もし、執権勢力がパニック状況を助長する場合、事実が歪曲誇張されて、社会の特定のマイノリティは犠牲になる。政治勢力が不安心理と生存本能でもがく大衆の偏見を刺激すれば、結果はきわめて悲劇的だ。

 腐敗し堕落した中世の教会が“魔女”を作り出し“狩り”をしたように、1923年の関東大震災当時、「井戸に毒を入れた」という扇動で朝鮮人5000人余りを虐殺した日本の右翼勢力は、政権の危機を朝鮮人のせいにし、6・25戦争(朝鮮戦争)の勃発でパニックに陥った李承晩(イ・スンマン)政権は、すでに転向した保導連盟員数十万人を“アカ”狩りの犠牲とした。政治勢力の恐怖と権力維持の欲望は、単純な災難や戦争状況を大惨事にしてしまう。

 今回の新型コロナウイルスの流行も、私たち人類の誤った開発主義に起因したものと見られる。しかし、変種ウイルスの発生と災難をひとまず定数と見るならば、被害を減らせるはずの災難を数百、数千倍に拡大させたのは、やはり政治権力だった。中国がより透明で民主的な国家だったなら、武漢の初期リスクをコントロールし、拡散を防げただろう。韓国でも大邱(テグ)に集結したり立ち寄った新天地教会の信者たちが自身の動線を正しく明らかにして政府の自宅隔離要求を守ったならば、この事態は2月中旬の状況程度で抑えられたかも知れない。

 今回、韓国政府も過去のMERS事態から大きな教訓を得て、診断キットを素早く準備し関連行政手続きを速かに進め、短期間に最も多くの人を診断したという評価を受けた。関連する公務員や医療関係者の献身性も高く評価されるべきだろう。商人がマスクを買い占めて、政治家とマスコミが不安を助長したり政府を攻撃する扇動的報道を繰り返し、一部の人々が他人に被害を与える行動を勝手にしたことで、状況は大きく悪化し尊い命が犠牲になり、日雇い労働者と自営業者の生存も崖っぷちに追い込まれている。

 しかし、そもそも疫病に対処する公共医療がきわめて脆弱で、急増する患者をまともに受け入れる病院も治療に当たる医師も大きく不足していて、こうした疫病を深く研究する機関も足りないので、韓国は依然として災難脆弱国家であり、今後迫り来る災難にも脆弱性を露わにするだろう。

 私たちは未だに、朴槿恵(パク・クネ)政府のMERS対処、セウォル号事故対処の過程を鮮明に記憶している。一言で言えば、国家不在、政府無責任であったし、新自由主義的な企業の営利追求助長政策がもたらした無残な結果であった。3・11東日本大震災と福島原発事故以後の日本政府の責任回避姿勢も似ている。今回の新型コロナ事態で、多くの死亡者が発生しているイランやイタリアのケースも、政府の不備なシステムによる面が大きいだろう。

 災難などの危機は、常にその国家や社会の平素からの欠陥を露出させる。災難のリスクは、社会的弱者にとっては匕首となる。そして、誰が国家や社会に責任がある勢力なのか、誰が隣人と共同体のために努める人なのかが明らかになる。報道機関と政界がまともに事実を公開し、原因を糾明し、対策を用意しなければ、災難は惨事に変わる。今回、新天地教会の信者や大型教会の牧師が見せた反社会的態度は最悪だった。彼らだけの共同体のために、社会的責任という観念自体を無視あるいは持ちえなかった彼らの態度は、韓国市民社会のゆがんだ顔であり、この事態が落ち着いた段階で必ず責任を問わなければならない。障がい者や患者に対する非人間的な閉鎖病棟、集団隔離施設政策自体も再考しなければならない。伝染病の拡散は個人や企業では解決できない。「医療特別市」を謳ってきた「メディシティ大邱(テグ)」は、最も災難に脆弱な都市であることが明らかになった。

 韓国が今回の事態を教訓にして災難脆弱国家から抜け出せば、気候環境危機、エネルギー危機、食糧危機、そしてまた来るであろう伝染病危機にしっかり対処できる先進国家になりうるだろう。もちろん、韓国は地球的災難に対する脆弱文明を克服する先頭にも立たなければならない。

//ハンギョレ新聞社
キム・ドンチュン聖公会大学NGO大学院長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/932013.html韓国語原文入力:2020-03-10 19:14
訳J.S

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