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[寄稿]米国にも見捨てられる新自由主義、韓国はどうするべきか

登録:2020-03-03 22:13 修正:2020-03-06 20:03
墜落しつつある「新自由主義」//ハンギョレ新聞社

 私はこの頃、米国大統領選挙の状況をとても興味深く見守っている。過去40年間、米国こそが世界に新自由主義的モデルを強要してきた国だ。韓国では「1997年外国為替危機と新自由主義導入」と言うが、実際は23年前に韓国に新自由主義を導入させたのは国際通貨基金(IMF)の後ろに隠れていた米国の大資本だった。韓国はIMFを通じて新自由主義を移植されたが、主要国有企業の全面的民営化を拒否したユーゴスラビアやイラクは、それぞれ1999年と2003年に様々な口実で米国の侵攻に遭わなければならなかった。リビアの指導者、ムアマル・カダフィ(1942~2011)が、米国を盟主とするNATO(北大西洋条約機構)の爆撃などで、その政権を没落させられ殺されなければならなかった主な背景の一つは、米国が彼を公開的に“資源民族主義者”と名指ししたためだ。カダフィが繰り広げた資源の国有化と“第3世界型”福祉政策は、米国が主導してきた新自由主義世界では容赦できない“異端の罪”であった。

 ところが今や米国自らが“異端”に走ってしまった。ドナルド・トランプは、ためらいなく事実上の新保護主義政策を活用している。輸入依存を減らし自国生産を再び奨励しているのだ。そのおかげで、米国の製造業は久し振りに大規模な働き口の創出が始まり、約50万人が新規雇用された。古典的新自由主義は、競争優位理論に従って低賃金国家で加工された商品を米国のような高賃金国家が輸入することを“正常”と考えたが、トランプ行政府は自国の雇用創出と“国家安保”を相対的競争優位よりさらに優先視しているわけだ。他国の利害関係を考慮しない自国利己主義という側面からは十分に批判を受けて当然なアプローチだが、とにかくロナルド・レーガン以後の新自由主義とは距離が遠い。ところでトランプが保護主義者ならば、彼の対抗馬を目指すバーニー・サンダースは古典的社民主義者でありケインズ主義者に近い。彼の「グリーン・ニューディール」政策に至っては、環境危機を考慮した現代版ケインズ主義的景気浮揚策、購買力拡大政策と言っても過言でない。保護主義者と社民主義者の間の対決で、新自由主義的談論はほとんどその痕跡をなくしてしまった。今「小さな政府」や「トリクルダウン理論」を論じる大衆的政治家に会うことは容易でない。新自由主義理論を信じる大衆は、いくら頑張って探してみても、もはやどこにもいないためだ。

 新自由主義のゆりかごである米国こそが、皮肉にも最も早く新自由主義の墓に変わっているが、大きく見れば欧州の状況もまた“新自由主義の地滑り的後退”と規定しても大きくは間違ってはいないだろう。フランスの穏健右派政権が多少新自由主義的な色を帯びた年金制改革を強行しようとしているが、全国的に激烈な抵抗に直面し今停滞している。ところが、過去10年あまりの間にフランスの歴代政権が揃って福祉支出を減らすために様々な福祉制度改悪を試みたが、その結果を見れば結局支出は減るどころかもっと増えた。2008年恐慌当時に、福祉支出はフランスの国内総生産の28%だったが、今は31%だ。いくら減らそうと必死にあがいても、過小消費・過剰生産の危機に直面した後期自由主義時代には、福祉支出を通じて下層と中間層の消費力を強化させない以上は、消費者の所得が主導するサービス業中心の経済を運営できない。だから特定国家・特定政府の理念的色彩がどうであれ、福祉支出だけは着実に増えるか、少なくとも維持される。極右派が統治してきたポーランドのような国でも、2008年当時に国内総生産の20%だった福祉支出は、今は21%程度になっている。欧州最大の経済大国ドイツでは、福祉支出の比率は最近数年間大きな変動なく25%前後だ。新自由主義が“福祉削減”を意味するならば、真の意味での新自由主義国家は最近の欧州には見当たらない。

 中国、ベトナム、1990年代末以後のロシア、そしてイランなどは、最初から国家主導の資本主義体制を指向してきたが、最近は“国家主導”という部分が一層鮮明にあらわれた。国家が保有する国有資産は、中国で2008年当時には国内総生産の130%に過ぎなかったが、今は何と240%にもなる。2010年の段階でも、銀行融資残高の48%が民間企業に回っていたが、もうその比率は10%程度にしかならない。銀行が提供する資金の流れの83%も国有企業に流れて行く局面だ。新自由主義の教科書とは正反対に、中国では国家部門が大きくなり続け、また同時に福祉支出も着実に増えている。福祉支出を含む政府支出の全体が国内総生産に占める比率は、過去20年間で1.5倍にも増えた。1990年代には国有企業の民営化や政府支出の削減などを骨子とする「ワシントン・コンセンサス」が全世界に号令をかけたとすれば、今は「中国モデル」がカザフスタンからトルコまで多くの新興市場にとって手本になっている。事実、トランプの自国製造業保護政策こそが、ある意味で中国が守ってきた産業振興政策を彷彿させるものでもある。トランプが起こした米中貿易紛争を考えれば、皮肉なことに米国が中国と争って、その結果中国に似て来たと言うこともできる。

 もちろん新自由主義の後退は、未だ“終末”水準ではない。最も重要なことは、総賃金抑制政策が主要経済で完全に撤回されていないことだ。依然として低賃金・不安定な不良の働き口が量産されており、相変らずワーキング・プア(仕事をする貧民)階層の規模が減らない。事実、今後の欧米圏の政治的闘争の中心はトランプのように保護主義政策を通じて自国資本の利潤低下を相殺させんとする右派保護主義・新権威主義勢力と、大衆的購買力の拡充を通じて危機局面を突破しようとするサンダースのような新社民主義勢力との間の対決だろう。西側ブロックに対抗している中国・ロシア・イランのような世界体制準周辺部の競争勢力も、今後はますます「市場」より「国家」の役割が一層中心的になるだろう。

 新自由主義がもはや世界的に大勢ではないだけに、韓国の進歩勢力も新自由主義に傾いている韓国の国家・社会体制の全面的な脱新自由主義化を一層果敢に主張しなければならない。サンダース現象を見ても分かるように、今後は非正規職の正規職化と、無償高等教育、無償医療こそが世界の時代精神に該当するだろう。非正規職の雇用理由制限をどのように決めるかということと、授業料のない大学をどのように作るか、国民健康保険の保障性を100%にどのように上げるかが、進歩の核心的・具体的な課題にならなければならない。

//ハンギョレ新聞社
朴露子(パク・ノジャ,Vladimir Tikhonov)ノルウェー・オスロ国立大教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/930946.html韓国語原文入力:2020-03-03 19:43
訳J.S

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