北朝鮮メディアの23日の報道によると、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が金剛山(クムガンサン)にある韓国側の施設の撤去を指示した。金委員長の指示の背景が何であるかは更なる検討を要するが、ひとまずは昨年南北が合意した金剛山観光の再開がこれまで行われていないことへの不満の表れとみられる。予想不可能な撤去指示の波紋がどこまで広がるのか、憂慮せざるを得ない。
金剛山観光は南北協力の象徴ともいえる事業だ。北朝鮮はこれまで数度にわたって韓国側に再開を求めるメッセージを送ってきたが、進展がないため、今回の施設撤去という極端な決定を下したものと思われる。しかし、事情が苦しいからといって金剛山の施設を撤去すると一方的に表明することは、南北関係の発展に決して役立たない。北朝鮮は決定を直ちに撤回することを望む。
金委員長は金剛山施設の撤去を指示し、「見るだけで気分が悪くなるむさくるしい南側の施設」といった乱暴な言葉を用いている。韓国側に対する不満と失望がそれだけ積もっているという証拠だろうが、感情を自制できないような過度な言辞は韓国側の世論を悪化させ、南北関係をさらに窮地に追い込むだけだ。
金委員長の指示は、先代の決定に真っ向から反するという点でも尋常ではない。金剛山観光は、かつて金正日(キム・ジョンイル)国防委員長の決断によって実現した南北経済協力の代表的な事業だ。金正恩委員長はこの事業を「簡単に観光地を差し出し、何もせず利益を得ようとした先任者たちの誤った政策」と指摘した。「金剛山観光事業を南側に任せるのは望ましくない」とも述べた。金剛山観光事業を単独で進めていくという意味であり、父親の金正日委員長の決定した事業も中止しうるという決心を明らかにしたものと解釈できる。このような態度の変化が今後開城(ケソン)工業団地にまで及ぶ可能性を考慮すれば、懸念はさらに高まる。
ただし、金委員長が撤去の指示を出しつつも、「南側の関係部門と協議して」と但し書きをつけ、一方的に撤去しない意向をにおわせたことはせめてもの幸いと評価できる。施設の撤去を名分に掲げて韓国側と協議する余地を開いたものと解釈できる。北朝鮮が協議すると明らかにした以上、政府はこの協議を観光再開の出口を見出す機会とする逆転の発想の対応も積極的に考慮する必要がある。
北朝鮮が金剛山施設の撤去という強硬策に出たのは、結局、観光再開を阻止している米国を狙った迂回的な圧迫作戦と見る余地もある。金剛山観光をてがかりにして、韓国政府が米国に対してより積極的に促進者の役割を果たせという圧迫であるわけだ。金委員長の現地視察に朝米非核化協議の責任を負っているチェ・ソンヒ外務省第1次官が同行したことがこの解釈を裏付ける。政府は北朝鮮の意図を綿密に分析し、実効性をもって対応しなければならない。最悪に向かう局面を有利な方向に逆転させる賢明な代案が出されることを期待する。