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[コラム]弾力労働制が良くない理由

登録:2018-11-21 08:59 修正:2018-11-21 11:20

雇用労働部が脳心血管疾患の職業病を判断する際、基準とする「過労」は、「4週のあいだ週平均64時間働いた場合」だ。現行の弾力労働制のもとでも「過労死」が可能なほどまで合法的に働かせることができるという意味だ。その期間を1年に拡大すれば、26週のあいだ週80時間合法的に働かせることができるという計算になる。

ハ・ジョンガン聖公会大学労働アカデミー主任教授//ハンギョレ新聞社

 講義をしながらパワーポイントの画面を映したが、スライド数枚で説明が思い出せなかった。「あれ、この写真をどうして使ったんだっけ?」 時間を引き延ばせば思い出すと思ったが、ついに思い出せなかった。写真何枚かはそのままやりすごした。これまで数十回も説明したはずなのに…変だった。こんなことは初めてだ。

 午後、タクシーに乗って移動する際、それまでしたこともない車酔いした。到着する前に深刻な状態になったらどうしようと焦ったが、幸い講義の場所に着いた。夕方、家に到着してアパートの玄関でエレベーターに乗ってボタンを押そうとしたが、「あれ、家は何階だっけ?」と、しばし立ち止まった。幸いすぐ思い出すことができた。実に変だった。

 家に帰り、SNSに「体がちょっとおかしい」と簡単に書いて寝た。早朝に電話のベルが鳴ったので取った。医師の友人が「今すぐ大病院の救急室に行くべきだ。症状が現れてから3時間以内に行くべきだったのに、もうかなり遅くなった。クレジットカードだけ持って大学病院の救急室に早く行け。運転もするな」とせきたてた。

 大学病院の救急室で最初に診断した医師が、自分の首にかけている聴診器を指差しながら「これの名前は何ですか?」と聞いたが、答がすぐに浮かばなかった。「診察機?いや診断機か?」結局答えられなかった。病院では私を重患者扱いにした。入院服に着替え「落傷(転倒して怪我すること)の危険大」と記した腕輪を手首につけた。検査を受けに行く時も直接歩かないようにし、ベッドに横になったまま患者移送担当の職員が来て検査室までベッドを押して移動させた。

 いろいろな検査を受けるのに1日かかった。私としては先端医学の真髄を久々に経験したわけだ。そわそわと検査の結果を待った。幸いすべて正常で、医師たちは「最上の結果が出た」と話した。医師たちが下した結論は「短期間の激しい過労がしばしばこのような症状をもたらすことがある」ということだった。

 そばで気をもんでいる妻に怒られそうなので医者に事実を話せなかったが、率直に告白すると、そのような症状が現れる前の数日間、地方スケジュールが重なり1時間程度しか眠れずに出かける日が2、3回続いた。一定期間集中して働く、いわゆる「弾力労働」をしたのだ。ふだん平均程度の体力を持っていると自負していた男性にとって、それくらいの労働は到底耐えられる水準ではなかったのだ。

 韓国が1日基準で労働時間を8時間と規定し、週当たりの労働時間を40時間に決めたのは、それ以上の労働は身体に無理を与え、生活の質を落とす要因になりうると考えるという意味だ。1日2時間の延長労働を可能にし、週52時間までは働けるように規定したが、延長労働に対しては0.5倍の手当を追加で支給するよう企業に負担をかける規定を設けたことも、可能な限り延長労働をしないのが望ましいという趣旨だ。

 弾力労働制とは、上のような基準を無視し、特定日に集中的に超過労働をさせても一定期間平均労働時間が基準を超過しなければ、延長労働手当てを支給しなくても済むよう企業の負担をなくす制度だ。その期間が最大3カヵ月の現行の弾力労働制でも、6週連続で週最大64時間まで労働者に働かせることができる。

 雇用労働部が脳心血管疾患の職業病を判断する際、基準とする「過労」は、「4週のあいだ週平均64時間働いた場合」だ。現行の弾力労働制のもとでも「過労死」が可能なほどまで合法的に働かせることができるという意味だ。その期間を1年に拡大すれば、26週のあいだ週80時間合法的に働かせることができるという計算になる。労働者が過労死するのに十分な労働時間がいくらでも可能になる、そのため労働者たちを「生と死の分かれ道」に置かれるようにする弾力労働制の期間拡大の試みに、労働者たちは当然反対するしかない。

 年間労働時間が1300~1700時間台の先進国(OECD平均は2015年基準で1692時間)と、2071時間の韓国で、弾力労働制を同じ基準として適用することはできない。しかも、今年2月に国会で成立した週52時間上限制がきちんと実施されていない状態で弾力労働制の期間を拡大するのは、文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足した後、労働条件が改善される前の状態に後退するのと同じだ。「安楽な人生」の追求ではなく、「生と死」の問題である弾力労働制の期間拡大に、労働者が反対するのは当然だ。

ハ・ジョンガン聖公会大学労働アカデミー主任教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/871050.html韓国語原文入力:2018-11-20 21:16
訳M.C

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