国防が“義務”になることはあっても、他国の侵略戦争に行くことまでが国際人権法上“義務”になるはずはない。ところが、韓国ではこのおぞましい国家暴力を、通常的に“国の招請”と称して当然視する。実際、植民主義的侵略を犯した過去がないアジア国家としては、大韓民国の海外派兵頻度はかなり高い。
脱軍事化こそが国政の核心課題として浮上しなければならない。脱軍事化を成し遂げるためには、いくつかのことを理解しなければならない。軍服を着て、海兵隊の訓練を受ける小学校の子供は、全体主義社会でしか見られないという点と、大韓民国が米軍の武器商に支払う金銭の半分でも南北経済協力に使ったとすれば、すでに南北平和共存の時代に進入できている筈であることを認知しなければならない。
私は今回の顕忠日に文在寅(ムン・ジェイン)大統領の次のような追悼辞を聞いて、大きなショックを受けてしまった。それは自分の耳を疑うほどであった。
「ベトナム参戦した勇士の献身と犠牲を基に、祖国の経済が生き返りました。大韓民国の招請に躊躇なく応えました。猛暑とジャングルの中で逆境に耐え、黙黙と任務を遂行しました。それが愛国です」
文大統領本人は、ベトナム派兵を生々しく記憶できる世代の一員だ。文大統領本人がよく知っているように、ベトナムに派兵された軍人には「国の招請に応える」余裕は与えられなかった。彼らは徴兵されて侵略戦争に連れていかれた。事実、その派兵の強制性こそが、彼らを加害者であると同時に被害者にもした。侵略の主犯国である米国も、当時徴兵制を運営したが、そこではそれなりに良心に基づく兵役拒否が認められていた。兵役拒否が不許可になれば、カナダに亡命して難民の地位を得ることも出来た。
朴正煕政権と財閥の利益のために、米国の侵略に連れていかれた韓国の青年たちにはそんな選択の自由さえもなかった。しかし「猛暑とジャングルの中で」行われた虐殺と性犯罪をこっそり隠してしまい、労働者の賃金を毎日未払いにして戦争で暴利を享受した財閥の恥部を「祖国経済復興」と呼ぶのは批判的歴史意識の不在を見せる。自国民を他国の侵略に強制的に送り込み金を儲けたことを、果たして誇らしい当然の事として言及できるだろうか?
文大統領の歴史認識、あるいは歴史認識らしい歴史認識の不在は、韓国社会全体のある問題と直結している。多くの韓国人には、自身の信念や意志とかかわりなく、男ならば誰もが無条件に行かなければならない大規模な徴兵制軍隊が存在する。そして米国が要求すれば、この軍隊はいつでもどこにでも海外に派兵される姿勢になっているという事実があまりにも当然のこととして認識されている。外部者の立場で見るならば、ベトナム派兵時期に韓国の若者たちが断る権利も持たずに、米国が行う侵略の現場に引きずられて行き、そこでその帝国が“敵”と規定した人々を殺しながら、自分たちのからだもまた銃弾に露出させなければならなかったということは、何より途方もない規模の人権侵害と見えるだろう。
国防が“義務”になることはあっても、他国の侵略戦争に行くことまでが国際人権法上“義務”になるはずはない。ところが、韓国ではこのおぞましい国家暴力を、通常的に“国の招請”と称して当然視する。実際、植民主義的侵略を犯した過去がないアジア国家としては、大韓民国の海外派兵頻度はかなり高い。金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時期に限っても、東ティモール、アフガニスタン、イラク、レバノンなどに派兵した。米国が侵略したり、米国の利害関係に関わる所へ韓国軍が行くことは果たして当然のことか?ところが韓国の自由主義者も、韓国軍の対外活動をほとんど問題にしない。
軍事主義がこのように内面化された現実的な原因は、韓国がそれだけ長期にわたり軍事化されてきたためだ。例えば、住民1千人当りの現役軍人の数は、すでに半世紀を超えて自国領土で戦争をしていない韓国(14人)が、最近そうした戦争をしたアルメニア(16人)に近い。産業化された世界で最も軍事化されているイスラエル(25人)ほどではないが、それでも世界19位程度にはなる。参考までに、現在自国の領土でクルド民兵隊と戦う一方、シリア内戦にも介入しているトルコ(8人)よりも韓国の人口1千人当り現役軍人数はほとんど2倍にもなる。もちろんこうした軍人の数が多いのは、兵士たちが受け取るお金が“月給”というよりは俗称“情熱ペイ(やりがい搾取)”に近く、“無料人材”のようにむやみに徴兵し働かせることができるためだ。
今回の政府の計画どおり、来年に兵長の月給が40万ウォン(約4万円)まで上がろうとも、それは最低賃金の半分程度にしかならない。兵士に払われる月給が比較的に少なくても、その一方で武器輸入などの関係で韓国は世界屈指の軍事予算を運営している。韓国の国民総生産はドイツの半分にもならないが、世界10位にもなる韓国の軍事予算は世界9位のドイツの軍事予算の90%にもなる。2017年基準で、国民総生産の2.4%も占める韓国の軍事予算の国内経済上の相対的比重は、世界的な軍事覇権主義の本山である米国(3.2%)よりは低いが、すべてのヨーロッパ国家や日本・中国・インドより高い。参考までに、韓国で常に“脅威”として議論される北朝鮮の国民総生産額(推定で韓国ウォン約25兆ウォン=約2.5兆円)は、現在予想される韓国の来年の国防予算(43兆ウォン程度)の半分を若干超える数字だ。北朝鮮の立場で見るならば、果たして誰が誰を脅威と感じるだろうか?
軍事化は何よりも莫大な国富流出を意味する。朴槿恵(パク・クネ)の失政が真っ盛りだった2014年、韓国は「世界最大の武器輸入国」になる新記録をたてた。その年に主に米国の武器生産者に流出した韓国のおばさんやおじさんの血税は、何と9兆ウォン(約9000億円)に達する。一例として、2017年の若者雇用予算はわずか2兆7千億ウォンだった。求職放棄者と家族に寄生する青年まで含めた実質的青年失業率が30%近くに達する今日の状況で、青年の働き口予算より3倍以上多い金銭を米国の「死の商人」に渡すということは、過大な贅沢(?)ではないのだろうか? しかし、予算が無駄になることよりさらに大きな問題は、多数に精神的な傷を残すということだ。前に引用した大統領の演説が示すように、韓国の“通念”上で強制的に徴集された軍人を外国の侵略戦争に送って経済的な利益を得るのは、国家暴力や人権侵害よりは「祖国経済復興」の源泉とか「愛国」として認識される。そうした認識は自然発生的に生まれるものではなく、幼い時から作られることだ。
数年前の溺死事故で社会問題に浮上したが、各種の「海兵隊克己訓練キャンプ」は、今も全国で盛業中だ。2002~13年に限っても、こうしたキャンプを経験した小中高生は何と100万人にもなる。そのようなキャンプで習う「人生哲学」は、果たしてどんなものだろうか? 軍隊は最も効率的な組織だ、上の人の命令を最も正確に最も素早く遂行した人は成功し、そう出来ない人は落伍する、服従と自身に対する強制は生きる道であり、抗命は反逆と落伍につながるという処世術ではないか。
そのうえにテレビでは軍服を着て幸せな微笑を浮かべる芸能人の姿を度々見て、また極右から穏健左派まですべての大統領選候補がこぞって「安保」を最優先課題として掲げる姿を見るならば、平均的な大韓民国の人は徴兵制軍隊を当然の事として受け入れることになり「祖国経済復興」のための海外侵略参加と戦時暴利行為を「誇らしい過去」として受け入れる。もちろん、非正常なまでに肥大化した軍事予算は、福祉予算の抑制を意味し、韓国の多くの善男善女の経済的・階級的利害とは事実上衝突する。ところが、軍事主義文化に飼い慣らされた個人は、果たして自身の階級的利害関係を簡単に理解できるだろうか?
私たちが幸せになるためには「安保」より脱軍事化こそが国政の核心課題として浮上しなければならない。脱軍事化を成し遂げるためには、韓国社会はいくつかのことを理解しなければならない。軍服を着て海兵隊の訓練を受ける小学校の子供たちは、全体主義社会でしか見られないという点と、上司の命令に服従するという位階秩序の内面化は、個人と社会を荒廃させるという点、そして大韓民国が米軍の武器商人に払うお金の半分でも南北経済協力に使ったとすれば、私たちはすでに南北平和共存の時代に進入できている筈という点を認知しなければならない。「安保危機」? 朝鮮半島における軍事的緊張の原因は複雑だが、韓国の軍事主義的行動もその原因の一つに該当するという事実を悟り、南北相互軍縮と軍隊と軍備の縮小など、平和の道に私たちがまず進まなければならない。それでこそ軍事主義の呪いを解いて、国らしい国、強制と暴力から自由な国を作れるはずだ。軍事力ではない平和力こそが幸福の源泉だ!
朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov) ノルウェー、オスロ国立大教授・韓国学