朴槿恵(パククネ)大統領はこう語った。「今回の合意は、被害者の方々が高齢で、今年だけでも9人が他界しており、46人だけが生存しているという緊急性と現実的状況の中で、最善の努力を傾けて成し遂げた結果」だと。これは昨年12月28日、日本軍「慰安婦」被害者問題に関する韓日政府の合意直後に発表したメッセージだ。
大統領はそれ以降も繰り返し訴えた。「誠意を尽くし、現段階で最大限を導き出す合意になるよう努力したことは認めていただきたいと思います。責任ある地位にいる時にはこの問題を解決しようとする試みすらしなかったのに、今になって無効を主張し、政治的攻撃の口実にするのは、本当に情けない姿です」(1月13日、記者会見)と。12・28合意を批判する人々を「無責任な煽動者」と見なしたのだ。
大統領は「真心」を強調し、「(今回の合意も)遅すぎたかもしれない」(1月13日、記者会見)としながら、切迫性を再三強調した。「被害者ハルモニ(おばあさん)が一人でも多く生存している間に、この問題を解決しなければならないという切迫した気持ちで、集中的かつ多角的な努力を傾けた結果」(三一節記念演説)だと。
しかし、いつからか大統領はこの問題を口にしなくなった。「韓日関係も、歴史を直視し、未来指向的な関係に新たに作っていかなければなりません」(8月15日光復節記念演説)。大統領の1年間の演説の中で最も重要な光復節記念演説で、「慰安婦被害者」については一言も触れなかった。韓日関係についても一行だけの言及にとどまった。
だからここで尋ねたい。大統領は本当に切迫した気持ちでハルモニたちの痛みに共感しているのか。朴大統領は好き嫌いが激しい性格の持ち主だ。自分の秘書出身の李貞鉉(イジョンヒョン)議員がセヌリ党代表になった直後、大統領府に招待し、庶民にはあまり聞き慣れないトリュフや(捕獲過程での)残酷さが取りざたされているフカヒレ料理をふるまった。しかし、大統領は2013年2月25日の就任以来、一度もハルモニたちを大統領府に招待してもてなしたことがない。就任前も就任後も、大統領はハルモニたちに直接会ったこともない。手を握り合ったことも、食事を共にしたこともない人が、どうやって痛みを分かち合えるのだろうか。
12・28合意を発表したユン・ビョンセ外交部長官も、合意以降これまでハルモニたちに会っていない。ユン長官は「被害者ハルモニたちが皆この世を去ってから妥結しても意味がない」(2015年12月31日、セヌリ党議員総会報告)としながら「切迫した心境」(8月28日、KBS(韓国放送)「日曜診断」)を再三強調してきた。ところが、ユン長官はなぜ合意以降、すでに6人が苦悩に満ちた一生を終えたにもかかわらず、ハルモニたちに会って(12・28合意について)説明し、慰め、理解を求めようとしないのだろうか? 一時は、日本軍「慰安婦」被害者問題」を「反人道的犯罪」であると同時に、「人類の普遍的人権問題」であり、「生きている現在の問題」(2014年3月5日、第25回国連人権理事会での基調演説)と強調したユン長官は、3月2日に開かれた第31回国連人権理事会での演説では、慰安婦については一言も触れなかった。
大統領と外交部長官が望んでいることは何だろうか?忘却か、それとも記憶か。
囚人の90%がガス室で亡くなったアウシュビッツの生存者であり、「時代の証言者」と呼ばれるプリーモ・レーヴィ氏は警告した。「事件は起きた、したがって、再び起こり得る。これが、私たちが言おうとすることの核心だ」(『溺れるものと救われるもの』から)。レヴィー氏は遺書同然のこの文を書いた翌年の1987年4月11日、イタリアのトリノにある自宅マンションの4階から飛び降りて自ら命を絶った。「記憶」から遠ざけたがる世の中に失望して。
あなたは、忘れたいのか。
韓国語原文入力: 2016-08-28 17:43