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[寄稿] 雪岳山ケーブルカーにかける欲望の3.5キロメートル

登録:2015-08-26 22:52 修正:2015-08-27 08:25

 先月、親戚の結婚式でとても風変わりな仲人の紹介を耳にした。「五色ケーブルカー設置のための剃髪闘争に参加なさいました」。 それを聞いて初めて、仲人の髪が目に入って来た。 「剃髪」「闘争」どちらも結婚式場で仲人の略歴として紹介される事は珍しい。それほど雪岳山(ソラクサン)のケーブルカー誘致に襄陽(ヤンヤン)郡民の関心が集中しているという証拠だ。

 垂れ幕がはためく。 「名品ケーブルカーが世界の人を呼ぶ」「立ち後れた地域経済をケーブルカーで蘇らせよう」「雪岳山五色ケーブルカーは雪岳山の未来です」。 私が最近ひと月の半分くらいを過ごしている襄陽は、雪岳山ケーブルカー設置を祈願するスローガンですっかり覆われている。 この地域で予想できる全ての団体が、いや、思いもよらなかったようなあらゆる種類の団体が、ケーブルカー誘致に力を添える垂れ幕を掲げた。 五色からクッチョンまでの3.5キロメートル区間にケーブルカーさえ設置できれば襄陽の未来が画期的に変わるという期待が滲んでいる。

 設置反対のための五体投地と、決死的に誘致するための剃髪闘争の両方が繰り広げられている。 この問題は果して経済発展と環境保護の衝突だろうか。 経済と環境の対立というフレームはごまかしに近い。 経済効果の実体は分かりようがない。「経済を活かす」という言説は、多くの事柄をあまりに単純化させる効果がある。 「MERSによる経済損失」で不安感を造成し、「臨時祝日による経済効果」で期待を脹らませる。 ついには「財閥の赦免も国民経済を活かす」と言う。 財閥のための特恵が国民経済を活かすことに化けるように、地域のケーブルカー設置は地域経済を活かすという名目になる。 実際のところは「国民」や「地域」よりは特定階層に特恵を与える事業である。 数年間進行が滞っていた事業が、去年の朴槿惠(パク・クネ)大統領の平昌(ピョンチャン)冬季オリンピック推進委訪問以後、加速度がついた。 (株)雪岳ケーブルカーは朴正煕(パク・チョンヒ)の壻であるハン・ビョンギから彼の息子ハン・テヒョンとハン・テジュンに継承された事業である。

 特恵をやりとりする人たちの私心、相変らず土木で成果を上げて票を得ようとする地方自治体、そして経済効果をたやすく信じる地域民の安逸な判断が結合した事業である。 地域のマスコミも一役買っている。 江原日報は先月、雪岳山ケーブルカー建設に反対する内容を盛り込んだキム・ソヌ詩人のコラムを脱落させもした。

 チユル僧侶が作った4大河川のドキュメンタリー『砂が流れる川』を見た。チユル僧侶がカメラを持って歩く道は、人の影がすっぽり入るほど大きなジャンボ掘削機のタイヤ跡でいっぱいだった。 事業報告書には絶対載っていないであろう破壊された乃城川(ネソンチョン・洛東江の支流)の荒廃した姿が見られる。乃城川は砂がなくなり流れが止まってしまって緑藻でいっぱいだが、 栄州(ヨンジュ)ダム(訳注:4大河川の最後の工事として進行中の栄州ダムは、乃城川の天恵の砂浜を破壊するものとして反対の声が多い)の工事はたけなわだった。 一部地域住民の生活も台無しになってしまった。 多くの人々が強制移住させられ、まともな補償金を受け取ることもできなかった。

 見慣れた開発の繰り返しだ。 一様に「親環境」を掲げる。 セマングム(海)、4大河川(川)、 そして今度は雪岳山(山)だ。 世界で一番長い防潮堤により地域経済波及効果が5兆ウォンを超えるだろうと言ったセマングム干拓事業、経済効果が40兆ウォンだと言いながら何と22兆ウォンを注いだ4大河川事業、どれも環境的には大きな災いであることが明らかになったが、経済効果は未知数だ。 常に嘘が必要な開発を行なう。 襄陽郡と韓国環境政策・評価研究院は、報告書で雪岳山ケーブルカーの経済効果を操作したという疑いを受けている。

イ・ラヨン芸術社会学研究者 //ハンギョレ新聞社

 ケーブルカーだけではない。 雪岳山頂上付近には4つ星ホテルと食堂を建設する計画だ。 もっと早く、もっと高く、もっと楽に自然が壊れる方式である。 欲心が災いを呼ぶ。 人間が自然に対し暴力的に接するほど、自然はその対価を積極的に人間に返してくるだろう。 自然は受動的ではない。

イ・ラヨン芸術社会学研究者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/705095.html 韓国語原文入力:2015-08-19 18:47
訳A.K(1884字)