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[朴露子ハンギョレブログより] 国際法の死亡宣告?

登録:2013-03-18 09:42 修正:2013-03-18 09:46
朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov) ノルウェー、オスロ国立大教授

 ノスタルジアのせいでしょうか。私は過去の社会主義運動に関する文献を時間がある度に漁ったりします。一世紀も前に書いた文献でも、今ここで生きている私たちに大いに示唆を与えてくれるからです。

 私の最も好きな文書の一つに、1891年のエルフルト綱領、第二インターナショナル時代の社民主義運動の核心的な要求を最も適切に反映したドイツ社民党の第二次綱領があります(http://www.fordham.edu/halsall/mod/1891erfurt.asp)。この綱領の安保/外交部分には、今もってまったく解決できていない二つの核心的な課題が提示されています。一つは常備軍を撤廃する代わり、全民に対する軍事教育を実施する「軍事制度の民主化」案であり、もう一つは「あらゆる国際紛争の法的調節による平和的解決」要求です。一世紀前の社民主義者たちは、募兵制であれ徴兵制であれ、特権層に属する将校たちが序列的に指揮する非民主的で閉鎖的な組職としての常備軍そのものに強い不信感を覚えていました。そのため、その代案として、「すべての人民の武装可能性」、すなわち非常時の一種の人民戦争を可能にする「武力の民主化」を追求したわけです。これとやや類似した「労働者、農民の軍事教育制度」(Всевобуч)はスターリン主義以前の初期ソ連で部分的に実施されましたが、既に1920年代中盤から事実上常備軍の復活により形骸化してしまいました。このように、かつての社民主義者たちは止むを得ない場合に限って「人民戦争」は避けられないという認識は共有していたものの、原則上民衆に莫大な被害を及ぼす戦争そのものを廃止しようと考えていました。戦争の代案として考えられたのがまさに「国際法に基づく紛争の解決」でした。そのような意味においては、カール・カウツキーやヴィルヘルム・リープクネヒトなどといった当時の社民党の指導者たちは事実上カントの「永久平和論」を継承・発展させたと考えることもできます。カントは民主化した社会同士の戦争は不必要と捉え、何らかの連邦制的な国際組職が紛争の解決機能を担うだろうと予想していましたが、社民党の指導者たちも「国際社会」を常識と法律が通じる、非暴力化した共同体にしていこうと考えたのです。

 その夢の延長線上に第一次大戦後の国際連盟や第二次大戦後の国際連合などがあるものの、啓蒙家や社民主義者たちの「国際法的な世界共同体」の夢は残念ながら今まで見事に失敗し続けてきました。徹底的に不平等な世界体制における資本主義国家間の関係は、すべて自国の支配階級の利益や強国―弱小国間の主従関係、そして最強大国の覇権などによって規定されているため、ここではカントやカウツキーらの描いた平和主義的な夢は立つ瀬がありません。国際連盟がファシズムの勃興をまったく抑制できなかったように、国連がアメリカの北朝鮮への絨毯爆撃や北ベトナム爆撃、カンボジアやラオスへの爆撃、ニカラグアへの武装干渉、そしてキューバや北朝鮮への貿易制裁など、明らかに不法的で犯罪的な性格の覇権行使をまったく防げずじまいです。防ぎ切れなかったどころか、朝鮮戦争では北朝鮮を完全に廃墟化してしまい、少なくとも数十万人の民間人を死亡させた絨毯爆撃はまさに国連の旗の下で成されたのです。1990年代に百万人以上のイラクの子供たちを殺すことになったイラクに対する犯罪的な貿易制裁も名目は「国連の制裁」でした。つまり、いつでも―少なくとも第三世界の民衆の視点からすれば―国際法は平和とは距離の遠い暴力の法、すなわち覇権世界の弱肉強食的な「法則」に近かったと見なければならないでしょう。いつもそうだったように、ソ連の崩壊とアメリカの覇権の絶対化、資本主義的「グローバル化」と歩調を合わせてきた核心部のメディアの見方の画一化などで特徴付けられた1990年代が、ユーゴスラビアに対するNATOのならず者式空襲で終わってから、国際法の破壊過程は以前にも増して加速化したように思われます。

 2003年、アメリカが主導し日本と南韓などの従犯が犯したイラク侵略を見てみましょう。国際法的な次元で「世界の憲法」に該当すべき国連憲章では侵略戦争は明らかに不法とされています(武力使用禁止の原則、第一章第二条第四項)。第二次世界大戦後、ファッショ・ドイツ及び日本の戦犯処理の際も彼らに適用された最大の罪目は「平和に対する罪」、すなわち侵略戦争の勃発でした。より正確にいえば、ドイツ・ファッショと日本の軍閥指導者たちに対する告訴告発の法的な根拠は戦争禁止関連の1928年のケロッグブリアン条約(戦争禁止条約)でした。そういえば、この条約の締結及び批准を導いた功労でこの条約締結の主人公の一人である米国防相ケロッグは翌年ノーベル平和賞まで受賞しました。これだけを取っても侵略戦争が重大な国際犯罪であり、その犯罪性をアメリカの官僚たちは充分に認識していることは明確になったでしょう。ところが、ケロッグブリアン条約、そして国連憲章を無視して米軍がイラクを踏みにじった際は果してその責任を追及する国や国際機関は存在したでしょうか。国連憲章や国際条約に少しでもシンボル以上の価値があったなら、国連総会でアメリカは国連から除名、追放されたはずであり、国際社会から今北朝鮮が課せられている制裁より遥かに厳しい制裁の対象になったはずです。果してそんなことは起きたでしょうか。とんでもありません。アメリカは制裁を受けるどころか、現在アメリカの侵略をあらかじめ防ごうとする他の国々をむしろその罪で制裁しているわけです。盗人猛々しいとはまさにこのことですね。

 イラク侵略はアメリカの事実上の敗北と米軍の撤退で収束しましたが、国際法の破壊過程はその後さらに加速しました。今や列強たちが国際法を露骨に踏みにじっても、いかなる自由主義的なメディアもこれに抗するどころか指摘さえしません。みな暴力の法に慣れているようです。たとえば、最近のリビア空襲や今のシリア叛軍への西側列強やサウジ、カタールなどの湾岸の君主国政権の様々な軍事的支援を見てください。国連憲章は明確に各国の主権の尊重原則を基本に据えています(第一章第二条第一項:「The Organization is based on the principle of the sovereign equality of all its Members」)。しかも、1970年の国連総会の「国際法に関する宣言文」(「The Declaration on Principles of International Law concerning Friendly Relations and Co-operation among States in accordance with the Charter of the United Nations」、1970年10月24日採択)は極めて詳細に他国の内政に対するいかなる干渉、特に他国の領土内におけるいかなる武装集団に対する育成ないし支援を禁止することを明記しています(法律の全文: http://www.un.org/ga/search/view_doc.asp? symbol=A/RES/2625(XXV))。だれが見ても明確極まりないでしょう?国際法を少しでも勉強した非専門家までがこのような条項をみな常識的に知っています。にもかかわらず、西側列強やサウジなどは国際法の条項を露骨に踏みにじり、シリア叛軍を育成しながらシリア内戦を長期化、悪化させようとした時、果して西側メディアの中でこれについてまともに国際法を挙げて反対した新聞や放送はあったでしょうか。一つもありませんでした。みなシリアのアサド大統領を「暴君」と呼びながら、サウジの王権がシリアより百倍も抑圧的だということには絶対にふれません。サウジは「我々」の友邦であり、シリアはイランの同盟国で中国と北朝鮮の広義の友邦だからです。国際法の存在は消え、ただ「我々」と「敵たち」の論理、低劣なやくざの論理しか残っていません。

 今回の対朝制裁も国際法の破壊過程の一段階のようです。たとえば、「核開発に関わっている疑惑がある際」は北朝鮮の外交官たちに対する引き抜き捜索などができるということは、外交官及び外交公館の享受する治外法権に関するウィーン条約(The Vienna Convention on Diplomatic Relations、1961)の根本精神を一瞬にして崩してしまいます。北朝鮮の主権及び外交権行使の可能性を深刻に侵害し萎縮させるこのような反国際法的な制裁を採択させる者たちが、果して救済条約などの内容を知らないせいでしょうか。みな知っていながら覇権国家の命令に恐れることなく反対する弱小国にはそんなことをしても構わないと判断しているだけです。このようにして「普遍的な平等主権」を骨子とする国際法が崩れ、強権主義が法律の座を占めるようになります。

 国際法の破壊は軍事主義の深化を意味し、軍備増強、軍事的緊張の高潮を予告します。法律が消えれば力の秩序だけが残ります。国際法の破壊過程の果てには第一・二次世界大戦のような極めて凶悪な大量殺戮劇があるでしょう。私たちは今どんな道を歩んでいるかを、人々はなぜここまで目を逸らし、なぜここまで無神経でいられるのか分かりません。国際法の破壊過程の行き着く先に世界的な武力衝突が生ずれば、間違いなく朝鮮半島は最悪の戦場になることでしょう。こんなことが起こらないようにするために、数え切れない命を守るために対朝制裁や圧力をはじめとする西側列強の国際法のあらゆる破壊行為に対して普遍的な、世界法的な立場からの批判をまともに提起しなければなりません。現存の国際法でさえも全然理想的とはいえませんが、そこには少なくとも弱小国の法的平等や内政干渉の禁止、武力行動禁止などといった、相対的に進歩的な、帝国主義の専横を防ぐことのできる条項が盛り込まれているため、社会主義者たちは反帝的・平和主義的な観点からはっきりと国際法の破壊行動に対しては西側列強を声高く糾弾しなければなりません。

http://blog.hani.co.kr/gategateparagate/58063 韓国語原文入力:2013/03/15 00:36
訳J.S(4294字)

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