"歴史は繰り返される" という金言は辛い歴史を持った人々には呪いも同然だ。 国の経済が国際通貨基金(IMF)と国際金融資本の手中に落ちる前年の1996年当時の私たちの姿は現在と似ている。 当時韓国経済の危機要因は循環出資による財閥の先端経営と過剰重複投資にあった。 にもかかわらず財界は、労働者の賃金を危機の主犯に仕立てて金泳三政府から "賃金総額凍結宣言" と共に景気浮揚策を引き出した。
マスコミの態度もまた変わっていない。 現在 "韓国経済砂漠化" の談論は<ハンギョレ>も12日に報道したように、過去の "経済危機論" の数多くのバージョンの一つにすぎない。 <ハンギョレ>在職時の経験によれば、96年にもほとんどのマスコミが扇情的に危機論を増幅して政府経済チームに景気浮揚策を促した。 <ハンギョレ>は「政府経済チームは焦燥感を持つな」(96年6月29日社説)として短期浮揚策を警戒する声を上げたが、大勢を変えることは出来なかった。その上、安定的成長を追求していたナ・ウンベ副総理チームは結局ハン・スンス チームに更迭されて "景気総合対策" が発表された。 財閥改革には手も付けられないで外国為替危機を自ら招いた。
金大中大統領は "IMF処方" を忠実に実施して 財閥改革の 絶好の機会をのがしたし、盧武鉉大統領は三星(サムスン)と手を握って「権力が市場へ渡った」とまで言った。 財閥を主人として仕えた李明博大統領執権期に庶民の経済状況がどれほど疲弊したかは我々が目撃した通りだ。 財閥が依然として韓国経済の牽引車の一つであることは否めないが、彼らの相当数が中小企業と庶民経済のパートナーではないという事実もまた明らかになった。
"青年失業者" 100万と非正規職600万に家計負債は1000兆ウォンに達する。 経済協力開発機構(OECD)会員国の中で韓国は、低賃金労働者比率1位に社会福祉支出比率はびり水準で、労働時間と労災死亡率は共に1位だ。 だから40代のガン死亡率世界1位に世界最高の自殺率と最低の出産率を記録する国が "大韓民国" とならざるを得ない。
英国新聞<ガーディアン>と<インディペンデント>は両面または全面でしばしば超大型グラフィックを入れて印象的な談論活動を行なうが、国家比較グラフィックで韓国は1・2位でなければびりから1・2位である場合が多い。 良い1位もあるが恥ずかしいランキングの方が多い。 韓国がどれほど両極化していて競争的で "急げ急げの文化" に染まっていて過労な社会なのかが、ひと目でわかるのだ。
こういう暗たんたる社会現実を政治が放置するはずはないわけで、総選挙の時までは国民の希望は大きかった。 最も保守的な朴槿恵候補が経済民主化イシューを先取りしてキム・ジョンイン氏を国民幸福推進委員長として迎え入れたのだから、誰が執権しても財閥改革は成されるだろうという希望があった。 保守政党の変身に対する期待心理は、ある世論調査で「経済民主化を首尾よくやると思われる政党はセヌリ党だ」という結果が出るほど高かった。
朴候補を通じては成され得ないバーチャルリアリティを信じるようにさせたのはマスコミだった。 経済民主化の核心は財閥改革なのに、朴候補は事実、初めから財閥改革に有効な政策手段に言及したことがない。 論難と葛藤に注目するマスコミの属性上、キム・ジョンイン-イ・ハングなど与党内の経済民主化論争が大きく浮き彫りにされる中でセヌリ党がその主役に浮び上がっただけだ。
案の定、キム・ジョンイン委員長が提示した循環出資禁止など財閥改革の核心手段はパク候補の公約に採択されなかったし、自ら兎食狗烹(訳注:ウサギが死ねばウサギ狩り用の犬も要らなくなり主人に煮て食われてしまう、即ち必要な時には使い、不要になれば冷酷に捨てられることをいう)の身になってしまった。 朴候補の大統領当選で財閥改革がまた挫折するならば、キム委員長は結果的に財閥の守護者だったとの汚名をかぶるほかはない。 憲法に経済民主化条項を組み入れた功労者であった彼が最小限の名誉だけでも回復するためには、朴候補が財閥改革の最大の障害物であることを宣言すべきである。
実際のところ、財閥中心成長主義政策の本山である保守党に選挙用装飾品として招聘された彼がすべての実力者の抵抗まで突破して財閥改革を成し遂げるだろうと見たマスコミの解釈が、もともと漫画のような発想だった。 与党内でそれなりに合理的に思考する経済官僚出身たちでさえ退けられ、数十年間財閥依存型成長至上主義経済のイデオローグとして活躍してきたキム・グァンドゥ、アン・ジョンボム、根本が財閥出身であるイ・ハング、ヒョン・ミョングァンらが主導する財閥改革に期待をかけるとは!
韓国政治史の延長線上から今日の政治を展望できず、経済史から現実経済の教訓を引き出すことができないのは我々学界とマスコミの限界でもあるが、<ハンギョレ>はしばしば "人物の歴史" にも明るくない面を露呈している。 ニュースを展望する土曜版 "来週への質問" でキム・ジョンイン、アン・ジョンボムを "経済民主化論者" に分類したこともある。 その記事(4月21日)で「彼らは政府が介入して市場の失敗を調整しなければ共同体が健康に維持されないと見ている」として「財閥がこのような人々を好むわけがない」という分析まで付け加えた。 しかし成均館(ソンギュングァン)大教授であったアン・ジョンボム議員は代表的な新自由主義経済学者であり、2007年大統領選挙の時も朴槿恵候補の "チュルプセ (政府の規模を小さくし、規制を解いて法秩序を立てよう)" 公約を作った主役だった。
朴候補陣営は新規循環出資だけ禁止すれば良いというが、これは癌患者の治療を放棄し癌患者の風邪の症状に処方を下す水準でしかない。 三星(サムスン)など大財閥の寡占と韓国社会に対する支配は現状維持でなく一層強化され、庶民の暮らしは李明博政権下より一層余裕なく苦しくなるだろう。 公正取引委員会の説明を見ても、循環出資は1%の持分で系列会社持分60%を支配する "ポンティギ(ふくらまし)機械" にほかならない。 朴候補は "ツートラック論" という名の下に成長を再び取り上げ、「政治の本質は民生だ」として全国の市場と産業現場を訪問する "民生ショー" をすでに何ヵ月も行なっている。 韓国経済の治癒策は握手をたくさんすることではなくて財閥規制をはじめとする制度改革にあることを本当に知らないのか? 彼女は15年間の国会議員生活の間、民生法案を一件も出したことがない。 総選挙の時に約束した改革法案でさえ与党の反対で係留中なのだから、有権者に対する背信はすでに始まっているのだ。
結局李明博に続き、政策不在のメシア的扇動に大衆がまたも乗せられる可能性が高まっている。 経済民主化を放棄したなら支持候補を変えるべきなのに、メシアの政治が通じる所ではそれが不可能だ。 選挙前の熱望が選挙後の失望に変わるのは予定されたコースだ。 国会を掌握している上に朴槿恵候補が大統領になるならば、国民の幸福を推進するどころか不幸を加重させることが予想される。 メシアの虚像を引きはがし、実の姿を語るマスコミの役割がより一層切実な理由だ。
イ・ポンス市民編集者、世明(セミョン)大ジャーナリズムスクール大学院長