2日に中国の北京に到着して訪中日程を開始した金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の今回の訪中は特別だ。彼が2国間会談ではなく、多くの国の首脳が一堂に会する外交の舞台に登場するのは初めてであり、どのように多国間外交の舞台にデビューするかが注目される。
金委員長が乗った特別専用列車は1日午後に平壌(ピョンヤン)を出発し、2日未明に中国の丹東を、朝に瀋陽を通過して北京に到着した。一日中走って平壌~北京間1333キロを移動した。金委員長の娘のジュエさんも同行した。中国側は、序列5位の中国共産党中央書記処の蔡奇書記や王毅外相ら主要幹部が直接駅まで出向き、金委員長を出迎えた。北朝鮮の朝鮮中央通信が公開した写真を見ると、蔡書記と握手する金委員長の後ろにジュエさんが立っている。通信によると、金委員長は「6年ぶりにまた中華人民共和国を訪問したことをうれしく思う」と述べて謝意を表した。
北京では各所で、金委員長を出迎えるために物々しい警戒が繰り広げられた。特別専用列車が到着した北京駅の一帯とその周辺は、早朝から警察と兵力が動員され、通行と撮影が徹底的に制限された。駐中国北朝鮮大使館の周囲には、列車の到着を前に、大規模な人員とともに爆発物探知犬などが投入された。金委員長は北京到着直後の午後4時20分ごろ、北朝鮮大使館を訪問したと推定される。
金委員長が6年ぶりに再会する中国の習近平国家主席と会談を行うかどうかは、主な関心事だ。2018年から2019年にかけて、朝中の首脳は中国で4回会っている。習近平主席が2019年6月に初めて国賓として北朝鮮を訪問し、その後は両者の対面はなかった。コロナが流行したうえ、2022年のウクライナ戦争勃発後は朝ロ密着で朝中関係は冷却期に入った。朝中関係に少しずつ変化が見られるようになったのは今年からだ。コロナ禍の終息後も両国の交流は微々たるものだったが、今年に入って相互の人的交流が増えている。北朝鮮の技術者と学生が複数回にわたって中国を訪れており、中国官営メディアの記者も今年初めから平壌に復帰しはじめている。
金委員長が朝中の対面以外に各国首脳との交流場面をさらすかどうかは不透明だ。一部からは、今回の舞台を設定した中国は、北朝鮮の多国間外交デビューというより「朝中関係の戦略的復元」を念頭に置いているはずだとの解釈も示されている。これは、今回の戦勝節式典の期間中に朝中ロ会談が行われる可能性は低いと考えられる理由でもある。しかし、金委員長が多国間外交に強い意志をもって臨んでいるとすれば、異なる場面が演出される可能性もある。金委員長が軍事パレードの際に習近平国家主席と共に天安門の城楼に上り、諸国の首脳・高官らと交流して「城楼外交」を展開するかも観戦ポイントだ。
金委員長の多国間外交デビューの舞台となる「中国の抗日および反ファシズム戦争勝利」80周年記念式典は、3日午前に開始される。午前9時30分ごろ(韓国時間)、中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領と並んで天安門の城楼に姿を現すとみられる。午前10時から70分間にわたって行われる軍事パレードに並んで臨み、朝中ロ3カ国連帯を誇示するとみられる。
今回の戦勝節式典には、プーチン大統領の他にベトナム、ウズベキスタン、パキスタン、モルディブ、モンゴルなど、25カ国の首脳と各国の高位級代表団が出席する。韓国からはウ・ウォンシク国会議長が出席する予定だ。3日午前9時から天安門広場と長安街(大通り)で開催される戦勝節記念式典は、米国と西側に対抗して新たな多極主義の国際秩序の構築を試みている習近平主席の外交力を示す舞台となる見通しだ。また、軍事パレードでは最先端の部隊や兵器などを大量に示し、「強軍夢」(強い軍を持つという夢)に近づいた中国の軍事力を誇示する。