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5兆ドルをかき集める最大の富裕国…米国の同盟国はいつまで耐えられるか

登録:2025-12-11 06:39 修正:2025-12-11 08:26
トランプの野望 帝国の本性  
「資本搾取国」になった米国
米国のドナルド・トランプ米大統領と日本の高市早苗首相が10月28日、東京で貿易などに対する合意文に署名した後、文書を掲げて見せている/ロイター・聯合ニュース
トランプの野望 帝国の本性//ハンギョレ新聞社

 韓国と米国が10月に関税交渉に合意したが、果たしてどんな結果が出るかは不確実だ。一部では、韓米自由貿易協定(FTA)交渉の際も韓国に不利ないくつかの毒素条項が含まれていたが、韓国が結果的にこれを克服したという点を挙げ、過度な悲観論を展開する必要はないと主張する。韓米FTAによって韓国企業が国際競争力を一段階アップグレードさせる機会になったのは事実だが、このような経験を今回の関税合意にそのまま適用することは難しい。当時は相互間で品目別関税率を下げるのが主な内容だったが、今回は韓国が一方的に譲歩した交渉だったためだ。米国製輸入品に対する韓国の平均関税率は依然として0.79%が適用される一方、米国の韓国製輸入品の関税率だけが15%に引き上げられた。特に、計3500億ドルの対米投資金のうち、2000億ドルを韓国政府資金から捻出しなければならないという条件が問題だ。造船分野の1500億ドルは投資収益金を韓国が全て持ってくることができるが、政府の投資金は元利金を回収するまでは米国と5対5に分け、その後は10%だけ配分される。 カギは、果たして韓国が目標どおり20年以内に投資元利金を回収できるかどうかだ。

■「日本の純損失1273億~1913億ドル」と推定

 最近、米セントルイス連邦準備銀行所属の研究員2人が、米日間の5500億ドルの投資了解覚書(MOU)を分析した報告書を発表した。両研究員は、日本が元利金を完全に回収できない場合、どのようなことが発生するか不明だと指摘した。未回収分は結局損失処理しなければならないという意味だ。彼らは30年間毎年10%の収益を出し、その後は収益がないと仮定し、日本が回収可能な金額の最大値と最小値を推定した。最大値は4227億ドル、最小値は3587億ドルだ。総投資金(5500億ドル)から回収額を差し引くと日本の純損失が出るが、少なくとも1273億ドルから最大1913億ドル。彼らは、このような純損失も現在価値を算定する際に30年満期の米国債の収益率(5%)を割引率で適用したため、保守的に計算したものだと説明した。危険度の高い事業に投資すれば、さらに高い割引率が適用され、純損失がさらに大きくなりうるという意味だ。一方、米国は一銭も投資せずに収益金だけを手にする構造なので、どんな場合でも利益を得られる。米国の利益は少なくとも4230億ドルから最大4870億ドルに達する。

 日本が純利益を残すためには、プロジェクトの収益性が非常に高く、初期投資金を少なくとも2倍以上(現在価値基準)に増やさなければならない。利益の半分以上が米国に入る構造であるためだ。両研究員は「政府主導投資が初期投資金の2倍になる収益率を創出し続けることは難しい。もしそのような事業が実際に存在したとすれば、民間がすでにそのチャンスを活用した可能性が高いため」と主張した。また「米国が得る利益はプロジェクトに課される一種の『外国人投資税』」だとし、「税率は50%を超える」と述べた。この取引は米国が同盟国の資本を事実上「搾取」していくことに他ならない。

 この推定値は特定の条件を仮定したものなので、額面どおり受け止める必要はないが、米国有数の機関所属専門研究者たちが行った分析であり、荒唐無稽な数字だと片付けることはできない。韓米間の了解覚書は、年間200億ドルの限度など一部の条項を除いては、基本構造が日米の了解覚書と非常に似ている。彼らの推定方式を韓国に適用した場合、韓国は2000億ドルを10年間分割納付するため、日本より損失額が少ないだろうが、それでもその規模は数十兆ウォンから100兆ウォン近くに達する可能性がある。

■米日合意は変種の「マール・ア・ラーゴ合意」

 米国と韓国、日本の合意はドナルド・トランプ大統領の経済参謀であるスティーブン・ミラン氏が提案したいわゆる「マール・ア・ラーゴ合意」を思い出させる。ミラン氏は元大統領経済諮問委員長で、トランプ大統領の金利引き下げ「特命」を受け、現在、米連邦準備理事会(FRB)理事を務めている人物。ミラン氏は昨年11月に公開した報告書「国際貿易体制の再構造化に向けたガイド」で、驚天動地の主張をして注目を集めた。米国以外の国々はドルを準備資産として保有しようとしているが、これはドル高を誘発せざるを得ず、その結果、米国は基軸通貨国の特権も享受するが、輸出競争力が弱まり「ラストベルト」(製造業衰退)現象に直面するということだ。その打開策として関税引き上げと共にドル安への誘導を提示し、具体的に二つの方式を提案した。一つは外国の米国債保有に対して準備資産提供の見返りとして「使用料」を課すことであり、もう一つは外国が保有した米国短期国債を100年満期国債に交換するといったものだ。拒否した場合は、関税引き上げと安全保障の傘の撤回をムチとして持ち出すべきだと主張した。ミラン氏は1985年に米国と西ドイツ、英国、日本、フランスの間で結ばれた「プラザ合意」が会談場所(ニューヨークのプラザホテル)から名称を取ったように、トランプ大統領の別荘の名前にちなんで「マール・ア・ラーゴ合意」と自ら命名までした。

 米国と韓国、日本の間の大規模な投資合意はミラン氏の提案とは構造が違うが、結果は類似した部分が多い。韓国大統領室は年間200億ドル限度の投資財源として、外貨運用収益を活用すると発表した。韓国は4300億ドル規模の外貨準備高を米ドル商品(比重約70%)などに運用し、利子や配当などで年間約150億ドルを手に入れている。ドル保有で稼ぐ収益を再び米国に納付するのだから、事実上ドル保有に対する「使用料」を支払うわけだ。また、投資元利金の回収後も投資元本を米国に残留させ、収益が出れば9(米国)対1(韓国)に分ける構造だ。事実上、100年満期国債を買い入れ、その収益金のほとんどを米国に渡すわけだ。

 40年前の「プラザ合意」が外国為替市場への介入を通じた貿易の流れの間接的な再編だったとすれば、今回の使った方法は一方的な関税引き上げと同盟国からの大規模な資本「強奪」、外国人直接投資(FDI)の強要だ。今年10月末基準で韓国・日本や欧州連合(EU)、中東の富裕国などが約束した対米投資額は5兆ドルを超える。この金額が実現すれば、米国史上最大規模の投資誘致になるだろう。外国人直接投資は適切に活用されれば、受恵国に技術革新や雇用などの側面で相当な経済的効果を創り出す。世界経済が円滑に作動するためには、資本が豊富で技術力が進んだ先進国が開発途上国に投資をするのが道理だが、トランプ時代にはその逆になっている。1人当たりの国内総生産(GDP)が1万2千ドル水準の発展途上国であるマレーシアも、10月のトランプ大統領訪問の際、700億ドルの投資を約束したほどだ。1人当たりGDP8万5千ドルの富裕国のこのような横暴は「経済帝国主義」と呼んでも過言ではない。

■危機に瀕した米国と同盟国間の「暗黙的合意」

 米国は第2次世界大戦以後、自由主義国際経済秩序の創設・維持・拡張を主導してきた。 だが「パクスアメリカーナ」が80年間維持されたのは、同盟・友好国が積極的に協力したためだ。米国は自国の市場へのアプローチの保障と安全保障の傘を提供し、同盟はその見返りとして米国の覇権を認め、外交・安保・マクロ経済領域で米国に協力した。米ダートマス大学のマイケル・マスタンドゥーノ教授は「体制造成者と特権享受者」(System Maker and Privilege Taker)と題する論文で、「米国と協力国は一連の政治的取引を通じて米国の特権を保障すると同時に(各自の)経済・安保需要を充足させた」とし、これを米国と協力国間の「暗黙的合意」と呼んだ。冷戦時代の最も重要な経済的パートナーは西ヨーロッパと日本であり、冷戦後には日本や中国など東アジアで協力国が多くなった。韓国も2008年のグローバル金融危機以降、主要20カ国・地域(G20)の一員として仲間入りした。「暗黙的合意」が崩れる危機も数回あった。米国が「双子の赤字」(財政赤字と貿易赤字)と製造業の競争力弱化などで覇権国の地位が揺らぐと、その調整コストを同盟国に転嫁したためだ。1970年代初めのドルの金兌換中断を含む「ニクソンショック」と「プラザ合意」が代表的な事例だ。

 米国はこれまで自由主義経済秩序の「体制造成者」であり「特権享有者」として機能してきたが、今回は明確に違う。トランプ大統領は「MAGA(米国を再び偉大に)」の理念のもと、自由貿易原則の根幹を崩し、両者間のディール(取引)を通じてパートナー国家らを極限まで追い詰めた。「覇権の現金化」を追求し、「体制破壊者」に転落しつつある。このようなやり方で過去のような「暗黙的合意」が引き続き維持されるだろうか。

パク・ヒョン論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1233740.html韓国語原文入力:2025-12-10 07:34
訳H.J

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