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トランプ大統領の「機嫌によって変わる関税」が勝利できない理由

登録:2025-08-29 08:56 修正:2025-09-01 10:11
米フォード自動車が直撃を受けるなど「関税帝国主義」のパラドクス…「グローバルサウス」連帯のバタフライ効果も
2025年8月4日、コンテナをぎっしり積んだ大型貨物船が米カリフォルニア州サンフランシスコ湾のオークランド港を出発した様子/ロイター・聯合ニュース

 ドナルド・トランプ米大統領が世界68カ国と欧州連合(EU)に賦課した相互関税が、2025年8月7日0時1分(米国東部標準時刻)に発効された。世界各国が多くは41%(シリア)、少なくは10%(英国)の追加関税負担を負うことになった。「米国を再び偉大に(MAGA)」陣営からは「トランプ大統領の偉大な勝利」という賛辞が相次いだ。だが、「勝利」を語るにはまだ早い。少なくとも2つの側面でそうだ。

■トランプの勝利? 関税の特性上、勝てないゲーム

 トランプ大統領が追加関税率関連の大統領令に署名した7月31日、米国株式市場は大きな変化を見せなかった。ダウ・ジョーンズ工業株価平均(NYダウ)は前日より0.4%(171.71)下がった4万4461.28の終値を記録した。先端技術株中心のナスダック指数は0.2%(31.38)上昇し、2万1129.67となった。債券市場も、ドルの価値も、大きな変動を見せなかった。トランプ大統領が高率の相互関税賦課を発表したいわゆる「解放の日」(4月2日)直後から、株価、債券収益率、ドル貨価値が3重同伴暴落したこととは、全く異なる雰囲気だった。金融市場は安定的であり、関税収入は次々と入るだろう。米国は望みをすべて叶えたのだろうか。

 「ゲームの本番はまだ始まってもいない。どうせ米国が勝てないゲームだ」。英誌エコノミストは8月1日付で、このように報じた。トランプ政権は相互関税の賦課で月平均300億ドル(約4兆4千億円)の関税収入を楽観している。一部では2026〜2035年の米国の関税収入総額が2兆7千億ドル(約396兆8300億円)に達するという予測まで出している。2024年基準で米国国内総生産(GDP)の10%に迫る天文学的な金額だ。問題は、関税が商品販売者より購入者に及ぼす損害のほうがはるかに大きいという点だ。関税が上がるほど消費者は安い商品を選択する権利を奪われるためだ。

 ニューヨーク・タイムズは7月30日付で、「関税の影響でフォード自動車が第2四半期に赤字を記録した。フォード側は関税によって今年追加で負担しなければならない費用が20億ドル(約2930億円)に達すると予想している」とフォード側の資料内容を引用して報じた。同資料によると、4〜6月の売上高は前年同期に比べ5%増の502億ドル(約7兆3700億円)を記録した。ところが、関税による追加費用のため、かえって3600万ドル(約52億9千万円)の赤字を記録した。関税で輸入部品の価格が上がったうえ、鉄鋼やアルミニウムなど主要原材料には50%の高率関税が賦課されたためだ。フォードは2024年第2四半期に18億ドル(約2600億円)の黒字を記録している。これに先立ち、米国最大の自動車メーカーであるゼネラルモーターズ(GM)も、「第2四半期に負担しなければならない関税費用だけで11億ドルに達する」と7月22日に発表した。

■エール大学予算研究所、靴や服の価格など、消費者物価上昇を予想

 エコノミストは米国投資銀行のゴールドマンサックスの資料内容を引用し、「関税費用の5分の4を米国企業と消費者が負担することになるだろう」とし、「関税発効以前に確保した原材料の在庫が苦痛を遅らせることはできても、取り除くことはできない」と指摘した。米イェール大学付属の予算研究所(バジェットラボ)が8月1日にまとめた最新の関税動向報告書は、関税が米国経済に及ぼす害悪を具体的に示している。研究所側は2025年、米国の平均実質関税率が2024年の約8倍に当たる18.3%に達すると推算した。米国が大恐慌の真っ只中にあった1934年以来、最高値だ。

 研究所側は、関税率の引き上げによって短期的に消費者物価が1.8%上昇すると見通した。これにより米国の世帯当たりの所得が年間2400ドル低くなると予測した。研究所は、輸入原材料価格の上昇で繊維・衣類産業が直撃を受け、靴の価格と服の価格が大幅に上がるという予想も示した。報告書では「靴と服の価格が短期的にそれぞれ40%と38%ずつ上がり、長期的に現在よりそれぞれ19%、17%の上昇傾向を維持するだろう」と指摘された。

 景気低迷への懸念も高まっている。報告書には「関税の影響により2025~2026年の米国の実質GDPは当初の見通しより0.5%低くなるだろう」、「長期的に2024年に比べて0.4%萎縮する傾向が続き、年間1200億ドル規模の損失が発生するだろう」との予想が示された。さらに「景気低迷により失業も増え、2025年末までに失業率が0.3ポイント高まり、49万7千人が職を失うことになるだろう」と補足された。物価上昇と景気低迷が伴う典型的な「スタグフレーション」の様相だ。

■カナダ、ブラジル、インドなどに対するトランプ大統領の「機嫌によって変わる関税率」

 関税が作り出した「バタフライ効果」は米国内に留まるわけではない。トランプ大統領は7月31日、大統領令に署名し、カナダを「例外」にした。他国に対する関税は8月7日に発効したが、カナダに賦課した関税は8月1日からすぐに適用された。他の友好国には15%の関税率が適用されたが、カナダに対する関税率は35%に決まった。トランプ大統領は「カナダが(麻薬性鎮痛剤の)フェンタニルの米国流入防止措置を行わなかった」ことを高率関税の早期賦課の理由に掲げた。しかし、トランプ大統領の脅威に真っ向から対抗しているカナダのマーク・カーニー首相に対する「不敬罪」の側面が大きいとみられている。特にカーニー首相が最近、ガザ地区の惨状と関連してパレスチナを独立国家として承認する方針を示したことについて、「トランプ大統領の『逆鱗』に触れた」という指摘が出ている。

 トランプ大統領の「機嫌」により関税率が乱高下したのはブラジルとインドも同じだ。トランプ大統領は「解放の日」に10%の関税率を適用したブラジルに対し、7月30日に別途の大統領令を下し、40%の関税をさらに課した。トランプ大統領はクーデター謀議の疑惑がもたれているブラジルのジャイル・ボルソナロ前大統領に対する裁判の「不公正性」を主張し、ブラジル政府に圧力をかけてきた。トランプ大統領は7月31日の大統領令で関税率を25%と定めていたインドに対し、25%の追加関税を8月6日に課した。インドが「ロシア産原油の輸入を中断しない」というのが理由だ。

 ロシアと中国は7月31日の大統領令の対象国から除外された。南アフリカ共和国には30%の高率関税が課せられた。ブラジル、インド、ロシア、中国、南アフリカ共和国は新興経済国協議体として2009年に創設されたBRICSの中心国だ。BRICSはトランプ政権の一方的な関税賦課に対抗して「グローバルサウス」(主に南半球に集中したアジア、アフリカ、南米の開発途上国)レベルの共同対応を模索している。「関税帝国主義」が作り出したもう一つのバタフライ効果だ。

ドナルド・トランプ米大統領が2025年8月6日、ホワイトハウス執務室で大規模な投資計画と関連した記者会見を行っている/UPI・聯合ニュース
チョン・インファン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://h21.hani.co.kr/arti/world/world_general/57811.html韓国語原文入力: 2025-08-08 10:34
訳H.J

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