レバノン全域で同時多発的にポケベル(小型無線通信機)が爆発し、2800人以上の死傷者が出た事件の後、今回の攻撃の背後としてイスラエルが名指しされている。イスラエルとヒズボラは、昨年10月7日のガザ戦争勃発後、全面戦争はなんとか避けてきたが、ヒズボラが今回の事件後に報復を宣言したため、ガザ戦争が中東全域に広まる恐れが再び広がっている。
ヒズボラは17日(現地時間)、ポケベル爆発事件後に声明を発表し「イスラエルに全面的に責任がある」として、「(イスラエルは)公正な処罰を受けることになるだろう」と報復を宣言した。イスラエルは以前に実行した要人暗殺などのときと同様に、今回の攻撃が自国によるものかどうかについては明言しなかった。米国務省のマシュー・ミラー報道官は「米国は関与しておらず、事前に知りもしなかった」と述べた。
しかし、米国メディア「アクシオス」は匿名の米国当局者3人の話を引用し、イスラエルが計画したことを実行したものだと報じた。アクシオスは、ヒズボラを無力化するための全面戦争の開始を伝える奇襲用として使用する計画だったが、ヒズボラに事前に発覚する懸念が生じたことで計画日時を変更し、今回の攻撃を実行したと、匿名の当局者の話を引用して報道した。この当局者は、イスラエルが「計画を実行するか、それとも中止するかの段階だった」と述べた。またアクシオスは、イスラエルのヨアブ・ガラント国防相がこの日の攻撃の数分前に米国に攻撃計画を通知したが、詳しい内容は伝えなかったと報じた。今回の攻撃は、イスラエル戦時内閣がヒズボラとの戦闘から避難中のイスラエル北部の住民6万人を帰還させることをガザ戦争の公式目標の1つに加えた翌日に実施された。
ガザ戦争勃発後、イスラエルとヒズボラはイスラエル北部とレバノン南部の国境地域を中心に戦闘を繰り広げ続けた。そのため、レバノンでは約470人、イスラエルでは約40人が死亡し、ガザ戦争の炎がレバノンなど他の中東地域に移るのではないかという懸念がガザ戦争初期からあった。
このような懸念は、7月30日にヒズボラの最高クラスの軍指揮官であり戦略部隊のトップだったフアド・シュクル氏が、ベイルートでイスラエル軍による空爆と推定される攻撃を受けて死亡したことで強まった。先月25日には、イスラエルが戦闘機約100機でレバノン南部を空爆すると、ヒズボラがイスラエル領土にドローンとロケット320発を撃った。互いに相手側の攻撃を撃退したと主張し、戦争拡大につながることはなかった。
しかし、今回のポケベル爆発は、ガザ戦争勃発後ではヒズボラにとって最大の打撃とする見方が出ており、以前とは違う様相で対立が高まる可能性がある。ポケベル爆発は、レバノン全域に加え、ダマスカスなどシリアの一部でも同時多発的に起きた事件であり、ヒズボラのメンバーだけでなく一般人も被害を受けたため、衝撃がさらに大きかった。ポケベル爆発で負傷した約2800人のうち相当数が、身体が切断され視力を失う被害を受けた。レバノン駐在のイラン大使であるモジタバ・アマニ大使も持っていたポケベルが爆発して片目を失い、もう片方の目も重傷を負ったと、米国ニューヨーク・タイムズがイランのイスラム革命防衛隊の関係者2人の話を引用して報道した。しかし、イランの半官営のメフル通信は「レバノン駐在のイラン大使館は、アマニ大使が適切な治療を受けており、彼の健康状態と視力に関するうわさはすべて虚偽だと明らかにした」と報じた。
ただし、ヒズボラがレバノンの深刻な経済状況を考慮した場合、イスラエルとの全面戦争には持ちこたえられないだろうという見方も変わっていない。ニューヨーク・タイムズは「ヒズボラに忠誠を尽くしてきた人たちの一部も、イスラエルとの戦いの代価に疑問を投げかけている」と指摘した。レバノンでは、ヒズボラとイスラエル間の戦闘のために約10万人が家と職場を失った。
米国の中東和平の努力は大きな痛手を受けた。ヒズボラを支援してきたイランはイスラエルを糾弾し、イスラエルに対する攻撃に加担する可能性は排除できない。イランのアミール・サイード・イラバニ国連大使は、17日に開かれた国連の緊急会議で「イスラエルが責任を負わなければならない」と述べた。イランは、7月31日に首都テヘランでハマスの最高政治指導者イスマイル・ハニヤ氏が暗殺された後、イスラエルに対する報復を明言したが、17日までの間で明確な動きはない。ポケベル攻撃の発生前日の16日、イランのマスウード・ペゼシュキヤーン大統領は、イスラエルがイランを戦争に引き込もうとしたが、イランは自制力を発揮していると主張している。